次にミンギュの噂を聞いたのは市場でだった。彼は政府の役人になったらしい。端正な顔つきで女達に大層人気があるとかないとか。冷徹だとか、人間味がないとか言う声もある。確かでないのは、僕らの身分が大きく差があるから。
彼の身分は両班。生まれながらにして将来の安定が決まっている、貴族のような存在だ。それに比べて僕は、死神だから仕方がなく、庶子だ。それなりの地位にはつけるもののミンギュの足元にも及ばない。だから、顔を見たのは1度しかない。
ある日、街を歩いていると、多くの部下をひきつれた彼を見かけた。周囲の人間が頭を垂れ、ひれ伏し、それを見る彼の目は酷く冷たく、死んだ目をしていた。この世の全てを見下すような、そんな目で。
「ミンギュさんってどんな人なんだ?」
同僚に何気なく聞くと、
「あんまりいい噂は聞かないな。ほかの役人とあまり関わらないんだと」
と、いい話は帰ってこなかった。別に失望などしない。本当の彼をまだ知らないから。なぜ、あんな目をしていたのか、謎は深まるばかりだった。
この少し後、変装をした彼を見かけた。相変わらずの目で、女物の靴を見ていた。手に取った瞬間、ふわっと目元が緩んで、オーラが変わったのがわかる。会計を済ませ、立ち去る時、ひらりと手ぬぐいが落ちた。
「あの!落とされましたよ」
僕の顔を見るなり固まって、じっと見つめられる。
「あの…?」
『っ!あぁ、すまない。どこかで見た顔だと思ってね。ありがとう。』
ぱっと受け取り颯爽と帰っていく。その姿勢は立派な人のそれで、噂とは少し違う気がした。
その日の夜、荒く戸が鳴らされ二人の男が訪ねてきた。
「イ·ドギョムさんですね。キム様がお呼びです。」
彼らに連れられ、たどり着いたのはミンギュの屋敷だった。この辺りでも有数の豪邸で、僕でも知っていた。特別大きい部屋に通され、既に彼が待っていた。
『突然呼び出してすまない。』
「いえ、それはいいのですが、どういった…」
『昼に君を見た時、その綺麗な瞳に惹かれたんだ。君なら、私の相談役に相応しいと思ってね。』
想像より柔らかい人だ。ただの人を相談役に、だなんてそうそう思いつかないだろう。
『正直言うと…私の周りには信用できる人間がいない。私が何を言っても、賛成するばかり。自分が正しいのか、間違っているのか、本当に民のためになっているのか。』
役人は総じて自分のことしか考えていないと思っていた。ミンギュのような人がいることがこの世界の救いだと思った。僕はこの人と同じ景色を見たいと思った。
『私の友人になってくれないか。君と過ごす人生が簡単に想像できる。君とこの国を美しくしていきたいんだ。』
彼と生きて、数十年。ミンギュを長としたこの国は見違えるほど美しく成長した。役目を果たし、彼の命は尽きようとしている。真っ黒だった瞳には、光が差し、希望に満ちていた。僕の手を握る手が弱まる。
『君と生きれて、よかった。腐っていた世界に明るい未来を見いだせた。君のおかげだ。ありがとう』
真っ直ぐ僕を見て、ゆっくりと話してくれた。
「僕もです。ずっと幸せでした」
最後の言葉は届いただろうか。そうだといいな。ぱたっと手が落ち、彼は旅出った。部屋には彼の育てたローダンセが、生き生きと咲いていた。
*ローダンセ*
科·属名 キク科ローダンセ属
学名 Rhodanthe manglesii
繁盛期 4~7月
花言葉 『終わりのない友情』












編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。