普段、不死川さんのことを話しても
共感してくれる人なんてほとんどいない。
だからだろうか、私の気分はいつになく高揚していた。
嗚呼、なるほど。
不死川さんは自分の好きなものとか
全然人に教えないもんね。
「あの兄貴が....」って、不死川君はすっごく吃驚してる
まぁ、言ってないし、初対面だもんね。私達。
自分の噂なんて、普通聞かない......よね?
私だって、未だに夢かと思ってるもん。
あの頃は、よくお萩をもらって.....
それから、ガキが鬼狩りなんてできるわけねぇって
よく言われてたっけ。
不死川君?!呆れた顔で私を見てるけど、
"も"ってことは自分も食べてないってことだからね。
同じ穴の狢ってやつだよ?!
これは、本当。
鬼殺隊に入ってから後悔しなかった日はないくらいの
自分にとって人生で二番目くらいに馬鹿な選択。
あの頃の私は、朝ご飯食べたら良い。くらいの考えで
生きてたしなぁ。ご飯抜くのも当たり前だったし、
ずーっと鍛錬だけに時間を充てようとしてた。
強くなることに近道なんてないのに。
不死川君は私の話をとても真剣に聞いてくれていた。
そう言ってお萩をもう一度差し出した。
不死川君は無言だったけど、頷いてくれて
受け取ってくれた。
こうして、二人で縁側に座りお萩を頬張る。
何言ってんだコイツ、みたいな顔された。
そんなに変なこと言ったっけ?
.....あれ?
また、玄弥君の温度が上がってる...... 何で?
そう言ってお萩の入った重箱を膝の上に置いた。
急に悲しそうな温度に変わった玄弥君。
....ど、どどっどうしよう.....何か、事情があるのかな?
不死川さんに会えないって、
兄弟なのに仲良くないのかな......?
私何か.....言っちゃダメなこと言っちゃった?!
こんな苦しそうな温度がするこの子を
放っておきたくはないな.....でも、無理強いもダメだし....
玄弥を見つめるあなたの瞳には、
悲しいくらいに温かな優しさの色が浮かんでいた。
玄弥はしばらく黙っていたが、
あなたの瞳に促されるように
ポツポツと玄弥たち兄弟のことを語った。
父がどうしようもない男だったこと。
人に恨まれた挙句、刺されて殺されたこと。
兄と二人、母を支えながら
どうにか家族で暮らしていたこと。
ある晩、鬼が家にやって来て弟や妹たちを殺したこと。
自分も殺されそうになっていたところを
兄に助けられたこと。
外に出ると、血まみれの兄と母親の死体があったこと。
皆を殺した鬼は母の変わり果てた姿であったこと。
兄は家族を守る為に必死に戦った挙句、
最愛の母を手にかけてしまったこと。
そんな兄を自分は罵倒したこと.....。
人殺し、と___
弟とすら、認めてくれない。ようやく会えたのに。
どうしても謝りたくて、追いかけたのに。
___テメェみたいな愚図。
俺の弟じゃねぇよ。鬼殺隊なんかやめちまえ。
やっと言葉を交わせたのに。
兄から浴びせられたのは、ぞっとするほど冷たい視線と
拒絶の言葉だった。
目の前から消えろとさえ言われた。
玄弥君の口から語られたものは、
変えようのない過去と、苦しさ、悲しみ、自己嫌悪
一人で背負うには大きすぎるほどの重荷。
何て言ったらいいんだろう。
今、玄弥君にかけてあげられる言葉は何なんだろう。
玄弥君の話を聞いてわかった。
さっきから玄弥君の言葉の端々から感じていた温度。
その正体が
悲しみ、苦しみ、後悔、そして、諦め。
もう、不死川さんと仲直りすることも、
諦めてしまおうとする温度。
でも、ダメだよ......
ここまで頑張ったのに、諦めるなんて
最後まで、絶対諦めないでほしい。
だってこのままじゃ後悔するから。
捨てきれない想いがあるのなら、苦しもうが
その大切な想いを叶えてほしい.....!!
.....やめて......そんなこと、言わないで!!
ギュッ
気づけば私は、玄弥君の手を掴んでいた。













編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!