〈__ side〉
走る、走る、走る
全速力で、周りになんて目もくれず
来る敵はさっさと殺して、走るスピードは落とさずに、扉だけは壊して開けて、中を見終わったらまた走る
立ち止まってなんていられなかった
自分の意志がひたすらに、自分の体を無理矢理にでも動かそうとしているような感覚だ
それでいい、その方がいい
できることなら、脳の許容量は開けておきたいのだ。
念の為もう一度と触ってみた無線のスイッチは、落ちた直後に試したときと同じく、なんの反応も示さなかった。
おそらく、電波阻害。
そう考える理由は、さっきから見つける度に壊したそこらかしこに取り付けられている監視カメラが物語っていた。
たしかにここは地下だと思うが、もしそれが原因で無線が使えないのならば監視カメラも使えないはずだ。
…それにしても、ここにはどれだけの数の監視カメラを仕掛けているんだろう。
今さっきまでで見た数だけでも、おそらく3桁は優に超えている。
規模の大きさを、実感させられる。
…ああ、もちろん怖気づく気は1ミリもないが。
大切な大切なあの人を奪っていきやがったゴミクズを恐れるつもりなんて微塵もない。
今に見ていろ、生き地獄を見せてやる
はらわたがぐつぐつと煮え滾るのを感じる
これのおかげか、もうどのくらい走ったのかも覚えていないが、そのぐらい走り続けてきたということを自覚せずにいられていた
普段は鬱陶しくなる返り血も、苛立つほどの喉の渇きも、今だけは全く気にせずにいられる
それくらいには、必死なんだよ
たぶん、めめさんなら止めるんだろうな。
「体力消耗RTAしないでくれます?」とか「ここで野垂れ死なれちゃ困ります」とか、適当なブラックジョークで揶揄をして。
ごめん、ボス。
悪いけど今は、自分のことなんかよりも最愛の人のことを一番に気にして、考えていたいんだ。
…ああ、大丈夫ですよ、生きますから。
いえ、死亡フラグじゃなくてですね。
生きて、最愛の人と、仲間と、自分とで、よろず屋に帰るって決めてるんで。
こんな言葉達を考えても、今あなたに伝える手段がないことが残念だ。
まあ、こんな歯の浮くような台詞、元より言うつもりはないんですけど。
巫山戯たことを考え出したところで、足を止めた。
足音が聞こえる。
敵?いや、違う。
段々と薄れていってしまっている記憶ではあるけれど、この足音を自分は知っている。
どんなものよりも、一番聞きたかった足音だということを、知っている。
自分の全速力が、もっと速いことを今知った。
人影が、見えた
ちぎれるくらいに手を伸ばしたところだった
ザザッ
ザザザッ!!!
切迫した声が、そのまま聞こえた
どくり、心臓が嫌な動き方をする
記憶とは全く違う、硝子玉のような虚ろな瞳に、真っ黒な渦が見えたときだった






![くるみ[暇T中毒]さんのアイコン画像](https://novel-img-gcs.prepics-cdn.com/prcmnovel-tokyo-prod-converted-images/p/09e64b3137f83da5f12b5037a846bea036b2a307/user-icon/01JSP12T2S1T2KWRSV0TE0HM4Q_resized_192x192.jpg)











編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。