BG side
ガタガタガタッと随分大袈裟な音を立てながら、
片手間に椅子を引き摺って俺のすぐ隣まで移動しては、
じっと俺の顔を覗き込んで、再び席につく。
今から何を言われるのか皆目見当もつかなくて、
ただ見つめられるまま、ヨンジュニヒョンの顔を
じっと見つめ返した。
どう思ったって、そんなの…嬉しかった。
かなり緊張したし、心臓爆発して死んじゃうって
思ったりもしたけど、一番は心地よかったし。
俺の頭を撫でてくれる手とか、こう…なんて言うか、
全方面からテヒョン君に包まれてる感じがして…。
テヒョン君の匂いしかしない空間が…凄く幸せだった。
俺が、テヒョン君を好き?
いや、うん。そりゃ好きだけど。
え、でもそれはテヒョン君を執事として慕ってて、
いつも俺を支えてくれて格好いいから、で…え?
ヨンジュニヒョンの言葉に頭の回転が止まる。
色々こんがらがって何が何だか分からなくなっていく。
そう言って、机をとんと指で叩いた。
その音にぐちゃぐちゃだった頭の中がピッと一度
リセットされたような感覚になって妙にすっきりする。
ヨンジュニヒョンの優しい顔をしっかり見つめる。
繰り返しトントンと指で机が叩かれる音が耳に響く。
父さんに…スキンシップ…。
心の中のモヤモヤが、どんどん溶けていく感覚がする。
どんどん、核心に近づいている感じがして。
なんだか、体がソワソワして、ムズムズする。
……そんなの、思わない。
久しぶりに会ってぎゅうってする事はあったとしても、
テヒョン君とする時みたいに、心臓がうるさくなったり
顔が熱くなったりって、した事ない。
体が力んだり、離された時に名残惜しく感じたりも、
今まで一度だって、無かった。ヨンジュニヒョンの
顔を見ると、ヨンジュニヒョンは満足したように
ニマニマ笑って、俺の顔を見つめていた。
俺のこれは、甘えなんかじゃなくて。
俺はテヒョン君を、執事だからとかじゃなく。
甘えたいから、とかでもなく。ただ。
好きだから。大好きだから。
テヒョン君と、もっとって…思ってたんだ。
俺、テヒョン君が好きなんだ。
今まで、自分でもどうしていいか分からなくて、
何がどうなってるのか分からなくていっぱいいっぱい
だったけど、もう理由が分かったから。
もう、悩まなくていいんだ…!
ヨンジュニヒョンは満足したように一息ついて、
ギッと音を立てながら椅子の背もたれに体を倒した。
頭の後ろに両手を回して一仕事終えたみたいな空気だ。
そういうヨンジュニヒョンは酷く優しい顔で。
自然と安心させてくれる空気があって、あっという間に
肩の力が抜けていくのを感じる。
まだ暖かい紅茶のティーカップをそっと両手で
握りしめて、今のこの気持ちを大切にしたいな、
なんて、密かにそんなことを思っていた。
ヒラヒラと前来てくれた時みたいに適当に手を振って、
ニコニコの猫みたいな笑顔でリビングを出ていく。
遠のいていく足音を聞きながら、カップの中の紅茶を
じっと見つめて、なんだかすごくテヒョン君に会いたく
なった気持ちを少しだけ我慢しつつ、口に運んだ。
俺は、テヒョン君が好き。
うん、絶対そうだ。ヨンジュニヒョンの言う通り。
これが好きってことなんだ。
こんなに幸せな感情なんだ。
もっと早く気付いてたら…なんて。
テヒョン君がきっかけでこの感情が知れた事が、
今の俺にとっては一番幸せなことで。
自然と綻んでいく顔もそのままに、
リビングの入口を見つめて、テヒョン君が戻ってくる
のを今か今かと待ち侘びていた。
TH side
あらかた荷物が棚を埋め始めた頃。
未だに頭の中を占領するボムギュ様の寂しそうな表情に
作業の集中力をガリガリと削られていた。普段の自分
なら信じられないほど効率が悪い動きしか出来なくて。
苛つく気持ちが、手元に雑さとなって現れる。
仕事に集中できない自分も、ボムギュ様に勝手をした
自分にも、挙句寂しい顔をさせた自分にも。
今の自分の全てが許せなくて、イライラする。
ガタンッ ガタガタ
倉庫の入口の壁に適当にもたれかかって、
僕を煽るような声色でそんな言葉を投げ掛けてくる。
ニヤニヤした表情が、尚僕をイラつかせた。
あんまりその顔を見ると暴言を吐いてしまいそうなので
なるべく見ないようにしながら、作業に集中している
フリをして、ヨンジュンさんが去るのを待つ。
なんで、アンタがそんな事知ってるんだよ!!
ヨンジュンさんの言葉に全ての作業を放って、
バッとその人だけを見つめると、ヨンジュンさんは
相変わらずウザったらしく笑って、僕をからかう。
僕はもちろん話してない、となれば。
ボムギュ様が…ヨンジュンさんに話したのか…。
どうして話してしまったんだ…よりによってこの人に。
どうしようもない焦りと、困惑と、羞恥と。
様々な感情から目を背けるようにヨンジュンさんから
視線を外し、シロップ類がまとまった木箱を見つめる。
あの方は、素直すぎるんだ。
外の汚い世界を知らないというのが一番影響を
受けているのかもしれないが、それにしたって純白だ。
僕はそれに漬け込んで…色々したんだから。
ボムギュ様の顔を思い出して、徐々に作業する手が
速度を落としていき、最終的に何も出来ないまま
そっと棚に落ち着く。
あぁ本当に、
どうして昨日は抑えられなかったんだろう。
キスするつもりなんてなかったんだ。
言い訳がましいかもしれないが、本当の事だ。
ほんの少し。ほんの少しだけ。
ボムギュ様に触れられればいいと、思っただけだ。
なのに、あの人を見るとどうも我慢が効かなくて。
悶々と考えていると、ヨンジュンさんの大きな溜息が
聞こえて、同時にこちらに近付いてくる気配も感じる。















編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。