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第13話

じゅうさん
2,196
2021/08/03 12:25 更新





二週間後。あなたは穏やかな顔で、静かに息を引き取りこの世を旅立った。




余命宣告よりも一ヶ月早い永眠。なぜか私達はそこまで大きなショックを受けなかった。




勿論泣いた。ものが喉を通らない程に泣き、悲しみ、そして泣いた。




いくら泣いても、あなたはその目を開かない。そんなことは百も承知だった。




どれだけ彼女を懐かしんでも、どれだけ彼女を求めても、彼女が帰ってくることも、時間が巻き戻ることもない。




私達は前に進むしかない。どれだけ悲しくても。




私はと言うと...もう会いにこないで、そう言われたあの日からその知らせが来るまで一度も会いに行かなかった。




ミナちゃんとツウィちゃんは行ってたみたいだけど、門前払いされ続けたらしい。




二人にものすごく心配をかけてしまった。何かあったなら、話せる内に解決しないと手遅れになるよ、と。




そんなの、私が一番わかってる。すぐにでも謝りに行きたかった。




でも...会って、顔を合わせて、なんて声をかけたらよかったの?




勝手にしてよ、なんて突き放した私が、なんて言えば許されたの?




そんなちゃちなプライドで、本当に後戻りが出来なくなってしまった。




だからこそ、泣いて泣いて泣きわめいた。夢にすら出てくる彼女のあの笑顔を忌々しく思うことすらあった。




...それでも、戻らない。目が覚めれば下を向くだけで目頭が熱くなる生活。























あなたの葬儀から約二ヶ月経った。




ただでさえ行けていなかった大学のレポートなどに追われて葬儀以降一度も行けていない。




せめて、墓石に向かってでもいいから謝りたい...




そんなことを思っていたある日。大学の教授から、いつもの講義終わりに頼み事をされた。




あなたの家に行って遺品整理をしてあげてほしい。代わりにレポート課題減らしてあげるからと。




それは私達ではなく、ご夫妻がやってあげた方が良いのでは?と言ったものの、教授はただ行きなさい、としか言わなかった。




たとえご夫妻が高齢であってもそういう職の人に頼めばいいのに。




…あなたの家に初めて行くのが、あなたのいなくなってからの世界だとは思わなかったよ。















チェヨン
チェヨン
お邪魔します…
ミナ
ミナ
…誰もおらへんのかな
ツウィ
ツウィ
でも靴あるよ?
ナヨン
ナヨン
あら…お客さん?
チェヨン
チェヨン
あ、こんにちは
ナヨン
ナヨン
…もしかして、あのバカが送ってきた大学生?
ミナ
ミナ
ば、ばか?
ナヨン
ナヨン
どうせ教授に言われてきたんでしょう?
ナヨン
ナヨン
全く…どうぞ、上がって?
ツウィ
ツウィ
失礼します...?





あなたを引き取ったのは高齢のご夫妻だって聞いてたけど…めちゃくちゃ若い女性が出てきた。




しかも超美人。こんな美人の知り合いがいたのか…




遺品整理の途中だったと思われるほどに散らかった部屋を通り、客間の座布団へと座る。




初めてきたあなたの家。こんな和風の家に住んでたんだ…なんかもっと洋風なイメージがあったな笑



ナヨン
ナヨン
ごめんなさいね、ちょっと散らかってるけど笑
チェヨン
チェヨン
いえ…つかぬことをお聞きしますが、ここの家主の方は…
ナヨン
ナヨン
あぁ…あなたが余命宣告された時に亡くなってね。
ナヨン
ナヨン
あの子がここに帰ってきた時には息を引き取っていたそうよ。
ミナ
ミナ
二人とも…ですか?
ナヨン
ナヨン
えぇ…あなたと同じように、凄く優しい顔で眠ってたわ
ツウィ
ツウィ
…なんだかすみません。ほんとに私たちが来てよかったのか…
ナヨン
ナヨン
いいのよ、むしろありがたいもの。私と妹だけじゃ手をつけられないわ笑
チェヨン
チェヨン
妹さんがいらっしゃるんですか?
ナヨン
ナヨン
あ、今はちょっと出てるんだけどね?もうすぐ戻ってくるわよ
ミナ
ミナ
そうでしたか…あ、それで私達は何をしたらいいんでしょうか
ナヨン
ナヨン
そうね…三人にはあなたの部屋を片付けて貰おうかしら。






そう言って案内された部屋はあなたらしい部屋。今まで彼女が貰ってきた誕生日プレゼントが全てきっちり並べられている。




綺麗好きだったね…なんて思いながら、三人で分担場所を決めていく。




ツウィちゃんは背が高いから、タンスや押し入れの整理。ミナちゃんは私と一緒に机や床に転がってるものの整理。




あなたの机にあるアルバムや中学の頃の図画工作の作品とか。そんなのを見ながら整理を進めていると懐かしい写真が溢れるほど出てくる。




中学三年の体育祭。クラスと色ごとに集まって撮った写真。




私の隣にいるあなたの顔は少し複雑だけど無理やり笑いましたみたいなめちゃくちゃ変な顔。




こんな顔で写真撮ってたの…笑 めちゃくちゃ可愛い笑




次に見つけたのは打ち上げという名の私の慰め焼肉会。




落ち込む原因になった本人に慰められるなんてこれ以上に意味不明なことある?なんて当時は思ったけど、




それでも好きな人と二人きりで行った焼肉は楽しくて。たくさん写真も撮ってあなたの服に盛大にタレがかかってめちゃくちゃ笑い転げたの。




…遺品整理、断ればよかったかな…なんかいちいち悲しくなるものしかないや…




一通り目を通したアルバムを閉じて、次の引き出しへと手を伸ばす。




その引き出しには鍵がかかっていて、他の引き出しを漁ってみても鍵らしいものは見当たらない。




…ナヨンさん持ってたりしないかな。




ミナちゃんに机上や他の棚を任せてナヨンさんの元へと向かうと、待っていたかのように整理の終わった部屋でお茶を飲んでいた。



チェヨン
チェヨン
あ、ナヨンさん…
ナヨン
ナヨン
引き出しの鍵、でしょう
チェヨン
チェヨン
はい、持ってたりしますか?
ナヨン
ナヨン
あの引き出しには何も入ってないから大丈夫よ。
チェヨン
チェヨン
そうなんですか?わかりました
ナヨン
ナヨン
ちょっといらっしゃい。
チェヨン
チェヨン
... え?ど、どうかしましたか?
ナヨン
ナヨン
これ。この前お見舞いに行ったら、私が死んだらチェヨンちゃんに渡してって
ナヨン
ナヨン
あなたがチェヨンちゃんでしょ?日記帳は看護師さんから渡されたものよ
チェヨン
チェヨン
…英単語帳?
ナヨン
ナヨン
らしいわね。日記帳と手紙はわかるけど、なんで英単語帳なのかしら
チェヨン
チェヨン
これ…見てもいいですか?
ナヨン
ナヨン
えぇ、勿論。あなた宛のだもの




ナヨンさんの許可を得て、恐る恐る日記を開くとなんの変哲もない日記。






×月××日

今日の病院食めちゃくちゃ味薄くて食べた感じしなかった。






いや短いな。日記っていうより感想だし笑





▲月▲▲日

辛い。最近吐血の量も増えてるし、目眩の頻度も増えてきてる。
人工呼吸器のせいで喋れないし、三人で来るから伝えるタイミングがない。
書き置きで伝えるのもいいと思ったけど、もし他の二人に見られたら厄介だし。






…?どういうこと?タイミングがない、伝えるって…告白!?え!?




あなた...一回でも私の事好きになってくれたこと、あるのかな。




*月**日

チェヨンに、酷いことを言ってしまった。
あれだけ心配してくれていたのに、もう会いに来ないで、なんて自己中にも程がある。
でも...後悔はしてない。
これ以上顔を合わせてしまうと、もう我慢ならないと思うし。




我慢ならないって...何?なんか言いたいことがあったの?




❈月❈❈日

あれからチェヨンは1度も来ない。そりゃ私が来ないでって言ったから律儀なチェヨンは守ると思ってたけど。
ミナとツウィは相変わらず来てくれる。何度も看護師さんが来てるわよって教えてくれるけど...見られたくない。




律儀...そんなんじゃないよ。あなたが思うような私じゃない...




●月●●日

多分、私今日死ぬ気がする。呼吸浅いし手は震えてるし。
あんなに三人に言ってたのに、いざ死ぬとなると怖いな。
チ………て…かな...






最後…なんかあったのかな。すごいぐちゃぐちゃで読めない…




…!これ、あなたが亡くなった日…てことは、これ書いてる時に容体が急変して…




あの日のことを思い出すと未だに手が震えて涙が溢れそうになる。




目の前にナヨンさんがいるから、と無理矢理それを我慢して、英単語帳を開くと何も書いてない。




単語帳なんて渡すから何か大事なことでも書いてあるのかと思ったら、何も書いてないって。ある?




あなたの謎行動に涙すらも引っ込むほど笑みが溢れて。




そのままパラパラめくっていると四枚だけ謎の記号が書いてある。

一枚目はなぜか半分に折られていて 』とだけ書かれている。

二枚目には英単語のcircle 。

三枚目には手書きのピースサイン。

四枚目にはeだけ。




な、なんの暗号…?やっぱり頭いい人の作る問題は訳がわからないな…笑




それぞれを捲ると裏には日本語のカタカナ一枚目から順に


ェ 



と書いてある。流石にこれはわかるよ?私の名前だよね。




いつだったか、日本語の授業で日本語できるんだよ!なんて自慢げに言ってきたことを覚えてる。




話を聞いた今は納得する。あんなにクソみたいな世界だったとしても日本に住んでたんだから。




だけど…表の方が問題。何が書いてあるのか全くわからないし。



チェヨン
チェヨン
ナヨンさん、これどういう意味かわかりますか?
ナヨン
ナヨン
ん?…何この暗号。
チェヨン
チェヨン
それがわからなくて…
ナヨン
ナヨン
… 』?…うわ、あの子も奥手ね
チェヨン
チェヨン
え?なんかわかったんですか?
ナヨン
ナヨン
これ、わかったらちょっと寂しいかもしれないわね
チェヨン
チェヨン
どういう意味ですか?!
ナヨン
ナヨン
もうちょっとよく考えてみなさい。すぐわかるわよ。





そう言われて、また英単語帳に目を落とす。




また頭を悩ませていると、目の前から単純に考えてみなさい、と助言が。




単純に…?




』...紙の折り目に合わせておると、裏映りしたそこには…L

英単語のcircle は…丸って意味、だよね?

ピースサイン…指?

それで最後は一番単純なe…



ナヨン
ナヨン
それ、英単語帳よ?
チェヨン
チェヨン
え、はい...?
ナヨン
ナヨン
間二つの形を英単語に置き換えてみなさい。裏に書かれてるのは相手だと思うわ
チェヨン
チェヨン
相手...?.........!?





L O V E
チ ェ ヨ ン




…何、これ…




もしナヨンさんの言う通りなら…




急いで手紙を手に取り、三つ折りのそれを開く。



























チェヨンへ


急なことで心配かけちゃってごめんね。


私の人生の半分を一緒に過ごしてくれてありがとう


チェヨンは私に救われたって言ってたけど、私はチェヨンに救われたんだよ


最期の最期であんな酷いこと言っちゃってほんとにごめん。


本当は毎日来てくれて嬉しかった。心強かったし、3人のくだらない話を聞いてるだけで楽しかったよ。


でも、耐えられなかったの。少しづつ痩せ細って醜い私を見られるのが。


どうせ死ぬなら少しでも笑顔で楽しかった頃の私を記憶に残して欲しかったから。


ごめんね。身勝手な私を許してください。


急な話だけど。私、チェヨンが好き。どうしようもないくらいに。


いつから?って聞かれると上手く答えられないけど、チェヨン程好きになれた人はいなかった。


それくらい、私はチェヨンが大好きだった。


チェヨンは、私の事好きだったかな。


死んだ後にそんなこと言うなよって思うかもしれないけど、私がそこに居ないからこそ心置きなく言えるの。


言い逃げするな!なんて言われるかな。


でももうそばにいることは出来ないから。


せめて、せめてこの感情だけは伝えておきたかった。


たとえ言い逃げだとしても、伝えたかった。


本当は口から伝えられればよかったけど、喋れなかったしさ。


チェヨンは、チェヨンの幸せを掴んで。


もしその幸せの中で少しでも私を思い出してくれたなら、たまに顔合わせに来てよ。


私は先に行くから、また会えたら沢山話聞かせてね。





愛は永遠に。ずっと愛しています































チェヨン
チェヨン
何っ…でっ……
ナヨン
ナヨン
…後で、お墓参りでも行きましょうか。





ナヨンさんの優しくて温かいその手を、あなたが倒れる前のあの体温と重ねてしまって。




止まらない涙がボロボロと溢れ出してくる。




ここにあなたがいたらなんて言うんだろ…大丈夫って心配してくれるのかな。




それとも笑われる?どんだけ泣くのって、笑われるのかな。




…笑ってもいいよ。からかってもいい。だからもう一度だけ。




もう一度だけ、その姿が、あなたの笑顔が見たいの…












































































___________________________


これで完結です!

闘病ストーリーとか言ったものの、入院生活2話くらいしか書けなくてごめんなさい🙇‍♀️

また別の小説も読んでいただけたら嬉しいです☺️



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