手術が無事に終わって静かな寝息を立てる実優の手を握って、ジェシカが深くため息をついた。
眠る実優を見ると、改めて瑠愛への怒りがまざまざとわき上がってくる。
ロノは珍しく昼寝をしていないバスティンをうかがいながら戦車の整備をしていた。
むしろ火に油を注ぐ形になりそうだ。朝からバスティンは一言も話していない。
全国大会は一時中断。今は戦車道連盟で勝鶴の処遇について協議が行われている。
ベリアンが紅茶を淹れてくれる音を聞きながら、バスティンは相変わらず険しい顔をしていた。
実優が撃たれてから、いつも明るい親友のジェシカはずっと青ざめた顔をしている。
虚空を睨んでいると、前にティーカップが置かれた。
言いながら、ベリアンはバスティンの眉間を人差し指でトントン叩いた。言われてはじめて眉間に力が入りすぎていたことに気がつく。
その頃、第二試合で戦っていたベアルン高校と白山高校のトップ同士がのんきにお茶会をしていた。
めでたく一回戦を突破した白山高校の隊長のミレイがモンブランをつつきながら言うと、マリが優雅に紅茶をたしなみながら答えた。
モンブランを頬張ったミレイは、不謹慎にもこの状況を楽しんでいるように感じられた。
扉の外に控えていた恵梨が呟くと、同じように控えているスオミが返事を寄越した。
そうしていればこんなことにはならなかった。自責の言葉を口にする恵梨に、スオミはクスリと笑った。
意味深長なスオミの言葉に、恵梨は不満を顔に表した。
一方その頃。雪国の王者・キエフ高校。
ロシアから留学してきている副隊長のエレーナが、ロシアンティーを出しながら隊長のアンナに言った。
ロシアンティーにジャムを入れてかき混ぜながら、アンナは厳しく瑠愛を糾弾した。
そう。そこが一番の懸念だ。試合で重大な怪我人を出した聖アークロイヤルが果たしてこのまま試合を続けることができるのか。続けたとして、勝ち上がれるのか。
第三試合を勝ち上がったフォレスタル大学附属高校では、もう聖アークロイヤルは棄権するものという論調がまかり通っていた。
副隊長のリサのため息を聞き流して、隊長のアリスはまっすぐ虚空を見据えた。
座っていた席から立ち上がって、リサの目の前のテーブルの板をバン!と叩いて黙らせる。リサの肩がビクンと跳ねた。
反論を許さぬアリスのオッドアイに見据えられて、リサはコクコクうなずいた。
東が協議に参加するため訓練を中止した大学選抜チームは、各々の大学に帰っていた。副隊長の三人はウラル大学に帰っている。
忌々しさ全開で舌打ちをした冬夜にアズミが尋ねた。まさか極道ですとは言えないので適当な方向で誤魔化す。
アズミに頭を叩かれた冬夜が顔で不満を表明するも、嶌田姉妹は意にも介さない。
朱音達が棄権する前提で進む話に、冬夜が待ったをかけた。
グラーフの隊長である雅が深いため息をついた。
耳が早い雅が情報を開示すると、恵麻が浮かない顔になった。
立ち上がった雅が、恵麻の頬っぺたを人差し指で軽くついた。
ペコリと頭を下げる恵麻を見ながら、雅は頭の中に浮かんでいた棄権の可能性を消した。






























編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!