「…!!」
「きづい、て…?」
気が付いてたよ、ずっと…私には、虹音が見える
「…その能力、そんなことまで…」
…虹音は、どうしてそこに居るの?
「…」
星薇には、虹音の返答は分からない。だから、ただ見守ることしか出来なかった。虹音は、夢来の問いかけにどう返答をしようか少し悩んだように黙り込む。
「…るあを、たすけるの…」
…瑠雨を?
「…うん…」
「…るあをたすけられるのは、ことだけ、だから…るあに、笑ってほしい、から…」
……
…ことちゃんっ…もう、やめて…はなさないで…っ!!
「…ごめんなさい…るあがこう言ってるから…かえって、ください…」
嫌だ
…!
…嫌だ、帰らないよ…絶対に
二人が私を本気で拒むまでは、帰らない
夢来のその覚悟の決まった発言に、勢いに、星薇は驚いた。その夢来の様子にもう迷いは無かった。
…ごめんね、瑠雨…瑠雨はきっと、私を本気で拒んでるんだけど
…それでも、君は違うから…虹音
「…!」
「ち、ちがくない…っ、かえって…!!」
……
夢来の能力を、"他人の内側を見る能力"とするなら、虹音自体がそもそも"内側"の存在である。故に、内側の内側…虹音の思考まで夢来が見るのは難しかった。
しかし、少し集中してみると、強い想いくらいは読み取れるようになったのだ…故に、夢来にも虹音の望みは分かる。
やめてよっ…!かえって、いやだっ…!!
ひどいこと、ひどいことするんだっ!!そもそもおとな、おとななんていなければっ、おかあさんも、おとうさんも…!!
…瑠雨
……少し話すか悩んだんだけどね、私も…少しみんなに嫌われてたの
…え?
心を読める私が、珍しくて、恐ろしかったから。だから、私に酷い事をした大人だっていたよ
…やっぱり、おとなは…
でもね、瑠雨
…お父さんとお母さんも、大人なんだよ
……
君は、大人は全員悪いって思ってるかもしれないけど…瑠雨は、お父さんとお母さんに、優しくしてもらわなかった?
瑠雨は…"悪い大人"だけを"大人"って呼んでるんじゃないの…?
…ちがう
ぼくは…ぼくはっ…
…
…ちがう、おとなはみんなわるい、ひどいって、みれあむおねーちゃんいってたもん…!!
みれあむおねーちゃんも…ひどい、かもだけど…それでも、みれあむおねーちゃんのそばに、いなきゃ…いなきゃなの…っ
「…るあ?」
反応からして、虹音には瑠雨の真意が分かっていなかった。きっと虹音も、瑠雨の義務のような「ミレアムのそばにいなきゃ」という思いは分かっていなかったのだろう。それを今、初めて知ってしまった。
虹音も知らない瑠雨は、何を考えているのだろう、と思うだろう。実際に夢来もそうだった。夢来には、それを知ることが出来る。夢来が授かったのは、そういう力だから。
……
…夢来?
…ごめん、ちょっと…考えてて
(…これで正しいの?本当に…このまま、瑠雨をミレアムから離すのが、"正解"なの…?)
…夢来
悩むくらいなら頼って…私には、貴方の望む返答は出来ないかもしれないけれど
……
…瑠雨をミレアムから離すのは、正しくないんじゃないかって
…
…瑠雨はね、ミレアムと一緒にいないと…
瑠雨の中にいる…虹音を、失うの
…それは、私達がミレアム達を倒せば終わり、という話でもなくて?
別に、瑠雨がミレアムに脅されてる、とかそういうのじゃないみたいで…本当に、どうしようもない理由で…
…でも、瑠雨にとって虹音は、大切な存在だから…だから…
……
その…虹音が何を望んでいるかは、分かるの?
…瑠雨に、ミレアムから離れて欲しいみたい…それは、自分が消えるとかは関係なくて、ただ瑠雨の為に…
…そう
夢来だったら、それでもいいの?
…え?
夢来は、もしも自分が消えるからという理由で、大切な人が自分の願いを叶えてくれなかったら…大切な人自身の幸福を選んでくれなかったら、いいの?
…それは……
…他人の気持ちを勝手に推測してものを語るべきではないわね
そうね、私には虹音の考えを理解することは不可能だもの
___ただ、夢来。貴方にならそれが出来る
…そうでしょう?
貴方は…特別だから
……うん
そうして、瑠雨の奥に虹音を映し見て、更に集中する。虹音の心を、気持ちを、理解出来るのは…夢来だけだから。
(るあ…大丈夫なの、ことが消えても、大丈夫)
(…消えても、くるしいのは、ほんのいっしゅんなの…だって、ことは…)
(るあのきおくとかの…"この世界のぜんぶ"から消えるから)
…!!!
……
夢来の様子を見ているだけの星薇も、何か事態がそう簡単に片付くものでないというのは察していた。夢来の反応を見れば、簡単に分かった。
…この世界の全部から、消える…?
……それは、"虹音が存在した"証すら、消える…ってこと?
…多分。少なくとも、瑠雨の記憶からは…
……
(確かにそれは…瑠雨が苦しむのは一瞬かもだけど…)
(それで…それで、本当にいいの?瑠雨は自分のたった一人の友達の記憶まで失って、虹音はたった一人の友達に忘れられて…本当に…それでいいの?)
……
…世界は、一問一答の解が存在しない場合の方が多いわ
今なんか、まさにそうね…この問題に解は存在しないわ、だから…
…貴方の、やりたいようにやりなさい
その結果を、誰がなんと言ったとしても…私は、受け入れるから
…星薇……
(…頼もしいな)
(……私は、もしお母さんとの思い出まで消えちゃったら、嫌だよ)
(…そうだね、お母さんの存在を忘れられたら、苦しむことはないのかも)
(…でも、違うよ。それはきっと、正しくなんて無いよ…)
(それは、お母さんが私の為に優しくしてくれた時間は、お母さんとの思い出は、何になっちゃうの?)
(思い出を無かったことにしてまで、苦しまないようにするの?…私だったら、嫌)
(…そもそも、苦しむとかじゃないよ。私は今もずっと、お母さんに背中を押してもらうことがある)
(お母さんは、今でもずっと、いるよ…)
……
(…じゃあ、瑠雨と虹音にとって、最も良い結論って…何?)
(…いや、どっちを選んでも、きっと良くないんだよ)
(……どうすればいいのかな、お母さん。…お母さんは、今でもずっとそこにいると思ってるんだよ、私は)
(だから、やっぱり忘れるのなんて苦しいって、思っちゃうんだ)
(ねぇ、どうしたら…良い?私は…どうしたらいいの?)
「___その穴を埋める為に私がいる」
「貴方がもし間違えてしまっても、もし瑠雨が何かを起こしてしまっても…私が何とかする、絶対に」
……星薇…(…かっこいいよ、星薇は…凄い)
(そんな星薇が、"相棒"って私を呼んでくれたんだ)
(私は、そんな凄い星薇の相棒に相応しくありたい)
(迷ってたら駄目…今迷ってる瑠雨を助けるには、私が迷ってたら駄目だ…!!)
(…そうだよ、第三の選択肢を見つければいいの)
「(だから___お願い、誰か私に力を貸して…!!!)」
「(私は…目の前で頑張ってる大切な友達を助けたい…!!!!)」
(…あの時の、冬音を助ける為に力が使えた時の、あの感覚…あのもっと深くまで行くんだ、もっと…!!!)
(…私は、出会ったあの時から、泣いてる瑠雨の涙を一度も拭えてない)
(あの涙を拭って、虹音にとっても瑠雨にとっても幸せな結論を出すの。それが出来るのは、私だけ…)
(私が、絶対に助けるの…!!!二人の気持ちが分かって、二人を繋げるのは…)
(___私しか、いない…!!!)
___風が吹く。
花弁が、舞う。
___眩しい。
……えっ?
さらりと、風がまた頬を撫でる。
___ようこそ
…待っていましたよ、虹乃夢来…!
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