『ボランティアで読み聞かせ…ですか』
月1で行われる委員会の会議。
いつも代わり映えのしない会議内容かと思いきや
先生が嬉々として持ち出したのはそんな話だった。
「前は月に1回やってたのよね。でもほら、
ここ数年は開催出来てなかったから」
なんでも、学校近くの図書館での
読み聞かせボランティアがあるらしく。
某流行病が蔓延してからしばらくの間は
開催が中止されていたらしい。
「今年度から、曜日ごとの人達が月替わりで
読み聞かせに行ってもらおうと思います!
日付は毎月第2土曜日固定で…」
曜日ごと、となれば私の相手は…
と、斜め前に座っているふわふわな白髪に
視線を送った。
物珍しげに先生からの説明を聞くその姿は
どことなく小動物みを感じさせる。
「じゃあ今月の担当は…
あなたの名字さんと叢雲くんでお願いね!」
『叢雲くん!ごめんね、遅れちゃった』
「いや、そこまで待ってないから大丈夫」
昇降口の前でしゃがんでいた叢雲くんに
声をかけると、彼はすっと立ち上がって答える。
行こ、と歩き出す彼の隣に並んで、
歩いて門を出た。
『……』
「……」
『ボランティアで読み聞かせとかしてたんだね、
知らなかったや』
「な、ぼくも知らんかった」
『……』
「……」
近くの図書館までの道を歩く私たちの間に
流れるのは沈黙が8割。
「……絵本と紙芝居どっちにする?
統一させたほうがいんかな」
『あ、どうだろ…どっちがいいとかある?』
「んー、最初やし絵本でいいんじゃない?」
『分かった、そうしよ』
「……」
『……』
き、気まずい。すごく気まずい、どうしよう。
私はフル回転で、何か会話の糸を
手繰り寄せようとするけれど何も思いつかない。
元々私と叢雲くんはクラスが違くて、
図書委員の担当曜日が一緒になったことで
知り合った関係。
共通の友達がいるわけでもなければ、
共通の話題があるわけでもない。
そんな私たちが話すことといえば
本当に委員の業務的な会話程度なのだ。
そもそも叢雲くんはおしゃべりな
性格では無いのか、彼から話しかけられる
ことはあまりない。
私の中のイメージは、寡黙な人。
普段のクラスでの様子を知ってる訳でもないし
休み時間に見かけることもほとんど無いから
あくまでもイメージだけれど。
そんな彼と、委員として初めて経験する
このイベントは、楽しみ半分、不安半分
というのが正直なところだった。
『どうしようかな…』
そんなこんなで図書館に到着。
放課後の時間なのもあってか自習スペースは
学生で埋まっていて、そんな中
絵本コーナーに向かう私達が
なんだか少しへんてこに感じたりして。
新作の絵本をパラパラと捲ったり
シリーズ物の絵本を見ながらうーん、と唸る私。
久しく絵本なんて読んでないなぁ、
最近の子供ってどんなのが好きなんだろう。
そうして数分迷っていると、
少し離れたところから叢雲くんが
こっちに来るのが見えた。
「あなたの名字さん決まった?」
『ううん、まだ……って叢雲くんは
もう決まったの?』
耳に届いた小声に小声で返すと、
うんと少し頷く叢雲くん。
手には確かに数冊の絵本が握られていて。
どれも表紙の角が少し拠れているくらい
少しふるびた絵本だった。
どんな内容なのかとか、それにした決め手とか、
気になることはいくつかあったけど
あまり喋りすぎるのも良くないと思って
聞くのをやめた。
『ごめんね、早めに選ぶね』
「全然ゆっくりでいいよ、ぼくこっち見てるから」
なんでもないように零した柔らかい笑顔を
初めて見て、なんだか少し胸が
くすぐったくなった。
それからあっという間に時は過ぎて、
今は土曜日のお昼時。
休みの日に制服を着て図書館に来るのは
なんとも新鮮で、すごく不思議な気持ちになる。
なんとなくソワソワして落ち着かなくて
入口の辺りをウロウロしていると、
遠くに見慣れた姿が現れて少し安心した。
「ごめん!遅れた!」
『まだ全然時間前だから大丈夫だよ』
よかった、と零す叢雲くんは眼鏡をかけていて。
普段はかけていないから気になって
なんとなく見つめていると、
その視線に気づいた叢雲くんが緩く首を傾げた。
「どしたん?」
『あ、や、…眼鏡かけてるんだ?普段』
「まあたまーーにね。てか眼鏡かけてたら
賢そうに見えん?」
『見えるかも』
「これで子供たちにも馬鹿にされんでしょ」
初対面の子供にバカにされることあるのかな…
と思いつつも、何故か得意げな叢雲くんが
なんだか可愛かったから何も言わないでおいた。
そんな話をしていると図書委員の担当の先生が
遅れてやってきて、3人で図書館に入る。
中には既にたくさんの子供たちが
この読み聞かせを楽しみに待っていて、
子供たちの前とはいえ少し緊張してしまう。
「こんにちは〜、みんな元気ー?」
叢雲くんの言葉に子供たちは好きなように
言葉を返す。
「どっち先読む?」
『叢雲くん先お願いしていい?』
「分かった」
用意された椅子に座った叢雲くん。
私と先生は子供たちの邪魔にならないように
後ろに座って。
持ってきた本の1冊を開いて、読み聞かせを始めた。
「どうぶつ幼稚園に通ううさぎの男の子は
とっても優しくて……」
低くて柔らかい声が耳に心地よくて。
そのまま淡々と読み進めて行くかと思いきや、
「トラの男の子が笑いながら言います。
“お前の声は小さくて聞こえない!”」
わざと声を変えて演じる叢雲くんに、
子供たちから「へんなこえー!」と言われたり
笑いが起こったりして。
「…ついにうさぎの男の子は
泣き出してしまいました。
うわ、皆どうする?どうする?」
時折子供たちにそう問いかけて、
コミュニケーションをとって。
『すごいな…』
普段の彼とはまるで違うような一面を
目の当たりにして、思わず感嘆の声が零れた。
子供が好きなのか、扱いというか
興味の引き方がすごく上手で。
楽しそうに絵本を読み聞かせるその姿は、
私の心に強く焼き付いた。
「2人ともありがとう!
子供たち大喜びだったわよ〜!」
図書館を出た私たちに先生はそう言って喜んで、
じゃあ先生はまだ挨拶があるから、と
早々に居なくなってしまった。
その姿を見送っていると、隣で叢雲くんが
大きく伸びをして。
「終わった〜〜、結構疲れた」
『叢雲くん、めっちゃ読み聞かせ上手で
びっくりしちゃった』
図書館を出ながらそう問いかけると、
少し恥ずかしそうな表情を浮かべた叢雲くん。
「そう?普段からやっとるからかな」
『そうなんだ?兄弟にとか?』
「うん。歳離れた妹がおる」
言葉と表情が一気に柔らかくなるのが分かって、
仲良いんだなぁと心がほんわかする。
「今日読んだやつも妹によく読んでるやつ
なんよな。妹にもあんな風にやってるから
多分やり慣れてただけ」
『すごい、…子供たちの心めっちゃ掴んでたよ』
「でもあなたの名字さんも上手かったけどね」
私は叢雲くんのを見よう見まねに
してみただけで…とごにょごにょ言葉を
濁らせると、少し上から笑い声が降ってくる。
「ガチで上手いから自信もって」
『……そう、?ありがとう』
「うん」
左右で色の違う瞳に見つめられて
少しドキッとする。
普段と違う彼の姿を見たからか、
彼のことを少し知れたからなのか、
縮まったような気がする距離が
どこかすごく、くすぐったくて。
「次は紙芝居とかやりたいなー、
絵本よりむずいとかあるんかな」
『多分変わんないんじゃないかな、?
分かんないけど』
「じゃあ次は紙芝居やってみよ」
うん、と返したところで解散の雰囲気になって。
ほんの少しだけ名残惜しいような、
もっと話したいような気がしたけれど
そんなの言える訳もなくて。
そんな私のほんの少しの表情の変化を
読み取ったのか、叢雲くんが私の顔を
のぞきこんだ。
「自信なくなってない?」
『え?…ううん、大丈夫』
「なんか…おすすめの絵本とか紹介した方がいい?」
『うん?』
突拍子もない提案に目をぱちぱちさせている
私なんてお構いなしに彼は続ける。
「最近の絵本舐めんほうがいいよ、
まじでおもろいから」
『そう、なんだ笑』
「うん。今度委員会の時に教えたげる」
『……ありがとう』
どこか変わってるなぁ、と思いつつも、
彼のそんな言葉に嬉しくなってる自分が
いるのもまた事実で。
「今日はありがと。楽しかった」
『私も!楽しかった』
向けられた笑顔が眩しくて、
少し熱を持った胸に手を添えた。
じゃあ、と手を振って去っていく彼の後ろ姿を、
見えなくなるまで見送っていた。
この出来事から2人の関係が進んでいく話ください
3次創作(?)お待ちしてます✋











編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!