…バタン
小さい頃からの夢であり目標であった、「チャンピオン」という肩書き。
その座を手に入れるため、どれだけの努力をしたことか。
そういう今さっきまでだって、チャンピオンの座をかけて、大好きな少年と頂上決戦をしていた。
…でも、だけど。その座を手に入れたのは…
パチパチパチパチ!
ずっとその夢を追いかけて冒険をしてきたけど、その座を手に入れたのは、私じゃなく…トウヤくんだった。
頑張って集めたジムバッジも、トウヤは軽々と手に入れてしまう。
気づかないようにしていただけで、薄々感づいてはいたんだ。
チャンピオンになるのは私ではなく、トウヤだって。
…パチパチ
精一杯の笑顔で冗談らしく笑っても、周りは笑ってくれない。
もしかして、みんな私のことが心配なの…?
眩しいくらいの笑顔。私にはできない笑顔。
どうやっても追いつけなかった私自身に、自己嫌悪に陥る。
ポケモン達も一生懸命頑張ってくれたんだ。褒めてあげなきゃ。
…なのに、それなのに…
トウヤくんがチャンピオンなって、もちろん嬉しい気持ちでいっぱいだ。
…だから喜ばなきゃって。悲しいとか、羨ましいなんて思っちゃダメなんだって。
トウヤくんが心から喜べるように、私は笑顔で祝福する。
でも、そんな気持ちに背を向けたって、いつかは限界がくる。
我慢しなきゃと思っていても、その気持ちとは裏腹に涙がこぼれてくる。
ずっと憧れて、努力して、強くなって。
苦手なことにだって立ち向かって、あの時とは比べ物にならないくらい成長したと思う。
…でも、私が求めていたのはこれじゃない。
チャンピオンという名を手に入れて、輝いて。
それを目指していた私は、そのためにジムを巡って、ポケモンを鍛えて。
一生懸命に頑張って、ただ走り続けた。
…でも、どんなに頑張っても、トウヤくんには勝てないんだなって。
コンコン
大好きで、いつもはとっしんのようにハグをしに行く子。
でも、だけど。今だけは話したくない。
私は純粋に、素直にキミのことを見れないから。
もう限界なんだ。少しの間、さようなら。
エルフーンをボールに戻し、荷物をまとめる。
なにごとにも初心が大事。…だから戻ろう。
‐翌日‐
N side
ユズキがいなくなった。そう聞いた途端、体が動いていた。
綺麗で、美しくて、可愛くて、ポケモンのような、不思議な子。
キミはあの時、ボクに微笑んでくれたはずだ。
絶望に満ちていたボクに、キミは話しかけてくれたんだ。
笑っている顔も、怒っている顔も、トウヤにハグしている顔も、全部が愛おしい。
そう言ってゼクロムに乗り、そらをとぶように合図をする。
トウヤはわからないかもしれないけど、ボクにはわかる。
普段からの様子を見るに、ユズキにとってトウヤは、大切で特別な存在。
そんな彼に、ずっと夢見ていた夢を踏みにじられたんだ。そんなの正気を保っていられるはずがない。
キミは優しいから、本人に感情をぶつけるなんてできないだろう?
…どうして、どうしてボクを頼ってくれなかったんだい?
キミ1人だけがそんな思いを抱えるなんて、苦しいだけ。
今はそうじゃなくても、キミがいつか、ボクにすべてを話せるようになろうね。
‐?‐
懐かしい景色に匂い。なんだかまた泣きたくなっちゃうな。
次回 ➡ 【未来を向こう】












編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。