水龍がサイクロン付近まで近づくとララは右手を前に突き出し、叫ぶ。
腕に刻印された紋章が青く光っている。
水龍の力を使っているときはいつもこうだ。
なんの問題もない。
ララの指示通り、水龍はサイクロンの周囲をぐるぐると周回し、巨大な水の渦を作り出してサイクロンを覆った。
いつの間にか神獣化していたシャルはララの掛け声で背中に生えた白い羽を羽ばたかせ、飛び立つ。
そしてたちまち、水龍が作り出した水の渦の頭上に雷雲が大きく作り出される。
恐らく、シャルの力だろう。
ララがそう叫んだその瞬間。
ドゴォオオン、と大きな音を轟かせて、雷がサイクロン目がけて直撃した。
心臓に響く大きな音だった。
時間にして二、三分だろう。
ララもクルーたちも言葉を発することなく、前方の水の渦が消えるのを静かに待った。
クルー達が固唾を呑んで見守る中、水の渦はゆっくり静かに消えていった。
海面にサイクロンは跡形もなく消えていた。
危機は去ったようだ。
ララは肩で息をしながらその静かになった海を見つめる。
水龍の力を使ったからだろうか。
疲れが表情に出ている。
ずっと遠巻きに見ていたマルコだったが、サイクロンが去ったことでララの邪魔にならないと判断したのだろう。
彼女に近づいて声をかけた。
ララは彼の姿を認識して気が抜けたのだろう。
少しよろけたが、それをマルコが支えた。
マルコはララの腰に手を回し、支えながら手に持っていた大判のバスタオルをその華奢な身体に包み込んでやった。
びしょ濡れの彼女の身体に干したての暖かい布地が心地よい。
幸せそうにララはふにゃり、と顔を綻ばせた。
先程までの凛々しい表情の面影は一切ない。
新人クルーだろうか。
ボソリ、と小さな声で呟いた声が妙に鮮明に船内に響いた。
ララの圧倒的なその強さに気味悪さを感じたのかもしれない。
珍しくイゾウが目くじらを立てて叱責した。
彼の声を荒げる姿などあまり見たことがないララは驚いたように目を大きく見開いてイゾウの背中を疑視した。
侮辱されたというのに彼女の表情はいつも通り。
傷ついた様子もない。
イゾウに続いてマルコも叱責しようと身を乗り出したが、ララがそれを引き止めた。
無理して笑っている様子もなく、本当に気にしていない様子。
それに彼はため息をつきながら頭を抱えた。
あまりにも人が良過ぎる、と。
本当に海賊か、と疑うほどに。













編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!