私が鬼になった時の記憶。
今はもうあれから何百年も経っている。
あの後私は、この林の中の空き家に身を潜めて生きて来た。
どうやら事故で亡くなった木こりの家だったらしい。
雄飛の遺体は庭に埋めた。
あの子が死のうとも、私が人間じゃなくなろうとも、私は雄飛の姉だ。
体は鬼となったが、そこまでの変化はなかった。
驚異的な身体能力・再生力を持つ。
不老である又は途轍もなく長寿。
日光に当たると死ぬ。これは本能的に分かった。
鬼となってからの記憶が曖昧だ。
能力の代償なのか、大量の睡眠時間を要する。
(実際一日に十数時間ほど寝ているだろう)
夜の間や雨の日に外に出て山菜や魚、果実などを採取し、調理して食べる。
余ったものは日が出ないときに人里に降りて子供たちが集まる場所にそっと置いている。
子供たちの中には満足に食べられていない子もいるだろうから。
あとは切った木材を小刀で削って人形を作ったり、花の汁で木の板に絵を描いたりと、生きる目的がないなりにそこそこの暮らしをしていた。
そんなある日。
その人は二十代くらいの男性に見えた。洋風な格好をしていて、黒髪に赤い瞳。
直感的に理解した。
彼は、鬼だ。
私は鬼になった経緯を簡単に話した。
男は何かに気付いたような表情をした。
あの鬼狩りたちのことは調べたが、組織名____
〝鬼殺隊〟という言葉しか知ることが出来なかった。
それに、この口ぶり…母を知っている?
あの時。お父さんと雄飛が殺された時の怒りが、憎しみが、沸々と湧き上がってくる。
こうして私は無惨様と手を組んだのだ。
※珠世さんの肉体年齢は原作では十九歳です。この小説では三十代前半に鬼になったと考えてください。時代背景等は考える気すらありません٩( ᐛ )و
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!