昼休みが終わったころ。
担任の「あなたは今年の象徴(ミューズ)候補」という宣言がまだ胸の中でざわついていた。
そんな気持ちを抱えたまま迎えた放課後。
私は忘れ物を取りに行くついでに、農園のほうへ歩いていた。
しかし——
そこで待っていたのは、
五人のファーマーズによる “甘い囲い込み” だった。
農園の草の匂いが漂う中、私は膝をついて草抜きをしていた。
ふと背後に大きな影。
振り返るとゴーヤ。
眉間のシワがいつもより深い。
照れたように目をそらしている。
耳まで真っ赤なのに手首をつかんでくる。
そう言う声は、誰より優しかった。
図書室に行くと、
向かいの席にトマトが静かに座った。
そう言いながら、机の下でそっと手に触れる。
絡ませてくる指が熱い。
甘い声が耳に落ちてくる。
微笑むくせに、目は本気。
図書室を出ると、勢いよく走ってくる影。
息を切らしながら手作りスイートポテトを差し出すさつまいも。
顔を真っ赤にしながら続ける。
真っ直ぐな言葉が、心にぐっと刺さる。
もう惚れてるくせに。
教室へ戻ると、
誰もいないはずなのに、
窓際にごぼうが立っていた。
その声は静かで落ち着いているのに、胸に響く。
淡々と頷き、近づいてくる。
手をそっと取り、指を絡める。
低い声でそう言うと、
まるで婚約者みたいにエスコートしようとする。
逃げ道がない優しさだった。
温室の中を通り抜けると、
そこのベンチでヘチマが寝ていた。
寝ぼけながら手を伸ばし、
そのまま私を胸に抱き寄せる。
離そうとしても、意外に強い腕。
胸に顔をうずめたまま言う。
子どもみたいな声なのに、
腕だけは絶対に離さない強さ。
甘くて、ゆっくりと溺れそう。
ヘチマの腕からそっと抜け出したところで。
ガラッ。
扉の向こうに——
ゴーヤ
トマト
さつまいも
ごぼう
ヘチマ(寝ぼけたままついて来てる)
が勢ぞろいしていた。
五方向から迫る視線。
その中心に私はたった一人。
——これが、
“ファーマーズ5人による取り合い”の本当の始まりだった。


















編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!