バハマの朝は、目が覚める前から優しかった。
まだまぶたの裏が眠りに包まれている時間帯。
遠くから聞こえる波音と、低くくぐもった調理の音。
コーヒー豆を挽く微かな音と、
バターが熱に溶けるかすかな香り。
ジミンは、ベッドの中で小さく身体を丸めながら、
それを夢の一部だと思っていた。
でも、頬に触れるシーツの感触と、
背中に感じる柔らかな気配。
あなたの眠たげな息づかい、
それが、確かに現実なのだと気づかせてくれた。
ジミンは、ゆっくりと目を開けた。
部屋は明るく、カーテンは大きく開かれていて、
海の光が床を走っていた。
あなたの姿は、もう隣にはなかった。
代わりに、開け放たれたテラスの向こうから、
ふんわりと朝食の香りが漂ってくる。
パリパリと焼ける音。
果物をカットするナイフの音。
グラス同士が軽くぶつかる音。
ジミンは、シャツ一枚を羽織ってラナイへ出た。
そこで彼女が見たのは、
ウッドデッキに並ぶ白いテーブルと、
その前で料理を仕上げている、
明らかにプロの……、シェフの姿だった。
素で叫ぶジミンに、ラタンチェアに座っていたあなたが
カプチーノのカップを口元に寄せながら、涼しげに笑った。
そう言ってあなたは、照れたように笑った。
あくびを溢したその目元は少し赤くなっていた。
ジミンはしばらく固まったあと、
ふっと、笑い出す。
その言葉に、ジミンの笑顔がふと、緩んだ。
テーブルの上には、カリカリのクロックムッシュ。
アボカドとフェタチーズのトースト、マンゴーとパパイヤのサラダ、バナナとシナモンを練り込んだパンケーキに、バターがとろけていた。
そして、花のように盛りつけられたスクランブルエッグのそばに、ふたつ並べられたスプーン。
ジミンが椅子に腰をおろすと、
海風が一瞬ふたりの髪をふわりと揺らした。
ジミンがスプーンを手に取った瞬間、
あなたの手がふわりとその手の甲に触れた。
朝の陽ざしのなかで、
香りと光と、ふたりの目だけが静かに結ばれていた。
このヴィラは、もう特別な場所じゃない。
ふたりにとって、
静かに帰ってこられる私たちの場所になりつつあった。
Ashです。
あと5話ほどで完結しますが、明日から一旦東京へ向かうための準備をしますので、書き溜めたものを一旦ここら辺で公開します。
引き続き更新を楽しみにお待ちください。














編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。