前の話
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雨の夜、道端で可愛い女の子を拾った。
「……どうした」
白い肌、赤い髪、色素の薄い目と薄い体。
ずぶ濡れ、素足、白いシャツにジーンズ、あ、よく見たら。
……男、だった。
胸の発達がまだまだな子もいるけど、この子は肩に結構筋肉がついてる。
骨ばった手を見ても、女の子ではなかった。でも。
見た目がはかなげな女の子すぎる。
野良ネコみたいな目で俺に一瞥くれて、ガン無視。
態度は全然可愛げないんだけど、ほっとけない可愛さ。
心なしか震えているようにも見えた。だけど、相手にされないならしつこくするのも悪い。
とりあえず俺の視界からいなくなるまで見送ろうとしたら。
「あ」
いきなりぶっ倒れた。助けないわけにいかない。駆け寄って抱き上げると。
「はな、せ」
グダグダの体で逃げようとする。傘も、持てない。まあ、しょうがない。
近くの病院へ連れていく。
「で、どうします」
家族に連絡は取れていないが、一晩おいても構わないと言われた。小さな町医者、看護師もいないような時間帯。
置いて帰って、何かあってもいやだと思ったのも事実。
具合がよくなってから家のことを聞き出して帰せばいい。そう思って、タクシーで家に連れ帰る。
「おろ、せ」
点滴打って多少マシになったんだろう、家につく前に目を覚ました。
「家に帰るなら送る。家、どこだ」
途端にしゃべらなくなった。とりあえず俺の家の前で下車。
「どうするんだ。帰るのか」
男はうつむいたままだ。
「帰る場所がないなら、うち、来いよ」
両手をギュッと拳にして、男はため息をついた。こいつのプライドに付き合っていたら体を冷やすだけだ。
肩を抱いて、エレベーターへ。
「体、冷えただろ? シャワー浴びて……」
「お前も、そうなのか」
「……は?」
意味が分からなかった。お前、も?
まだ本調子じゃないのに、エレベーターの扉が開くなり逃げ出した男を、何とか捕まえる。
「いや、だ」
男はひどく暴れた。力が入らないなりに必死で抵抗する。
「だから何が」
俺の言葉に男は突然動きを止め、裏切られたといいたげに唇の端を歪めて笑う。
「ああ、そうか。体で払えってか」
「……え?」
ああ、だから。
なんだかすべて合点がいった。無論それだけじゃないんだろうが。
やせ細った体、女のような見た目、病院で少しだけ見えた、肌についていた何らかの痕。
虐待、されていたんだろう。こんなに綺麗な花だからこそ。
ただの寒気か恐怖からか、震える男の肩に手を置く。
「俺にそんな趣味はない。安心してゆっくり休んでいけ。せめて今夜だけでも」
見れば見るほど、白い肌、紅い唇、煽情的な眼差しは男を狂わせる。
望まぬ色香に尊厳を踏みにじられても、こうして生きるしかないこの男に罪はない。
ふてくされたような表情で、目に涙を浮かべる。これが計算でないのなら、本当に可哀想な男だ。
きっといい声で啼くのだろう。
男は風呂に入り、俺の服を着て、俺のベッドですやすやと眠っている。
俺はと言えば、無垢な寝顔を肴に窓辺で一服。
さて、体の奥でくすぶる熱をどうしようかと思案する。長い夜になりそうだ。












編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!