「座村、また、会える?」
「あー、どうだろうなァ」
「戦争に行くように声がかかってるって聞いた」
「あァ、なんだ。知ってんのか。俺ァこれでも居合白禊流の師範代だからな。六平っていう刀匠が妖刀を振るってくれってな」
「そう。私、待ってるからね。いいでしょう?」
「……」
「何も言わないのはずるいよ」
「あなた、もう一回」
問いかけには答えず、もう一回と言って抱き寄せる。
突き放すように胸を押されたが、気づかないふりをして半ば無理やり口付けた。
「……っ、さむらっ」
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目が覚めると、あなたは隣にいなかった。
まだ早朝だが、帰宅したらしい。
机にはレシートの裏に「またね」とだけ走り書きされた置き手紙が残されていた。
「またね、か。生きて帰って来れるのかもわかんねぇってのによ」
昨夜、待ってていいかと問われたのに、俺は答えられなかった。嘘でも待っててくれ、帰ってくるというべきだったんだろうとは思う。戦争に行くんだ。生きて帰って来れるかなんて約束できないだろう。そもそも、どれだけの人を殺すことになるのか。人殺しを待たせるなんてそんなことできねぇだろう。それなのに「ずるい」なんてなァ。ひどい言われようだ。
まぁでも、たしかに俺ァずるいんだろう。
これが最後。
これで終わりにしよう。
何度もそう思ってきた。
でも結局のところ辞められない。
また、会ってしまう。煙草と一緒だ。
最初の1本は、まだ買える年齢ですらなかった。
師匠が花街から帰ってきて、道場の玄関で酔い潰れていたときに、傍に落ちていた煙草を1本抜き取った。
ライターも拝借して吸い込んだ。
とくに美味しいとは感じなかった。ただ苦いだけ。
師匠は稽古の合間に煙草を吸うと「生き返る」とよく言っていた。なんとなく吸い始めて、今や立派なヘビースモーカーに成り下がったというのに、その感覚をわからないし、美味いのかについても正直なところわからねぇなァ。
なんで煙草を辞められないなんてわかりきっている。
吸い込んだ時に肺に煙が回って、体に毒が回るような感覚。そう。
ゆるやかに死んでいく感じ。
それがたまらない。
あなたのことも、そう。あれは毒だ。
甘やかで、優しい毒。
たまたま師匠の付き合いで行った神奈備の会合で知り合った。年下の女。明るくてちょっと抜けたところもあって、笑った顔が可愛い。最初は座村さん、座村さんと俺を呼んでいたのに、最近は大人ぶって「座村」と呼ぶようになった。同僚以上、恋人未満。そういう線引きをしているんだろう。
あなたには、俺みたいなずるい奴よりも漆羽のような男が似合いだ。本当はもっと早く手放すべきだったんだ。「座村」なんて呼び方をさせる前に。
でも、俺は辞められない。
親しみを込めた声で名前を呼ばれる喜びを知ってしまったから。声に発せられなくてもわかるくらい愛しさを込められた視線を誰にも譲りたくないから。
禁煙しようと思うことはある。
もう会うのを辞めようと思うこともある。
吸いたい、吸いたいと思いながら、会いたい、会いたいと思いながら死んでいくのもいいかもしれない。
そう思うことはあるのだ。
思いはするが、思うだけ。
結局のところ、辞めることはできない。
煙草に依存するように、あなたにも囚われている。
辞めよう、禁煙しよう。もう吸わねぇ。
辞めよう、別れよう。もう会わねぇ。
そう思っても辞められないのだ。
俺ァ、煩悩にまみれている。
あと一本、もう一回だけと、気がついた時には手を出している。求められている一言も言わずに。
煩悩。
全部、見えるからからいけねぇんだ。
もう、閉ざしてしまおう。












編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。