───ずっと遠くから、声が聞こえた気がした。
経験した事も無いような頭痛を味わい、視界が暗転した後目を開けたら、そこは本当に暗闇に染まった空間だった。上下左右も分からない、孤独な世界だった。
その一言だけだったが、誰に拾われるでも無く闇に葬り去られる。嗚呼、本当の孤独とはこういう事なのだと、ようやく理解出来た。
不意に、そんな声が聞こえて来る。顔を上げると、そこには周りだけを照らし出した赤い人魂が浮いていて、そこに立っている人物をくっきりとさせた。顔を見た瞬間、名前が零れ出た。
その時初めて、彼女は心から笑った気がした。
知っているかは分からないが、少なくともiemonよりかは事情を知っている事だろう。そう問い掛けてみると、案の定ももんともりは返答をしてくれた。
淡々とした質疑応答を繰り返し、結論を出すとももんともりは押し黙る。眉間にしわを寄せて、らしくない顔をしている。
先程まで見ていた彼女は、完全に狂気に侵されていた。今の彼女は正常に戻り、自我がハッキリとしている。だから話も通じると感じるし、彼女にも答える気があるのだろう。
少し強めの語尾で言う。そうだ、iemonとて何故自分がこんな所にいるのかは皆目見当が付かない。しかし一つだけ、自分の意思でハッキリとしている事がある。それだけは、きっと本心に嘘を付けないからこそ、此処にいる理由になるのだろう。そう考えたから、率直に言った。
半分呆れ顔をされる。あまり呆れ顔をされる事は無いので、少し不思議な気分だった。
だがその言葉から少しだけ、ももんともりの言いたい事も分かった気がする。素直じゃ無くて、無駄に回りくどい所はめめんともりの言葉によく似ている。やはり、似た者同士なのだと思った。
ももんともりはそう言うと視線を右に逸らした。では、遠慮無く聞かせて貰おう──珍しく、少しやる気を持って口を開いた。

最初は、単なる嫉妬だった。子供みたいな、未熟な心はやがて魂を蝕み穢れさせ、どす黒い感情を溢れ返らせた。感情を持つ生き物の末路と言うやつだ。実に下らない。
その声は、少し震えていた気がする。
唇を噛み締める。それは何か我慢しているような、見栄を張っているような感じだった。
学生の自分達となんら変わらない、普通の感情がそこには当たり前のようにあった。
だから思い切って言う。本当の事だ。素直な気持ちを言う事は、誰にだって簡単に出来るように見えて難しいのだから、お手本と言うものを見せるような気分で言ったのだ。ほんの少し、気恥ずかしい。
しかし意図が伝わったのだろうか、想像よりも早くももんともりは口を割った。
心底寂しそうに言い放つ。少しずつ、このももんともりという人物像が見えてきた気がする。
要するに、彼女はメテヲと似ている。Latteと似ている。ヒナと似ている。
引き込んだ妖怪達の大半は、彼女と通ずるモノがあった。つまり、自分の願いを叶える為に少しでも協力してくれる、協力する価値のあるモノを探していたというわけだ。



負の感情は時に人格をも変えてしまう。その恐ろしさは、身内から身を持って思い知らされた。
それに、嫉妬に近しい感情なら、少しは分かる。力の有無は、最も自身にコンプレックスを与え、自分が出来損ないなのだと思ってしまうのだ。
予想はしていた反応だ。年季が違う。
こみあげて来る怒りが止められないのだろう。だから言いたくなかった──彼女の姿がそう物語っていた。同情なんてただ自身をより惨めにさせる。
──嗚呼、俺ってこんなに我慢してたんだ。
無自覚だった自身の本音にようやく触れて気付いた気がする。こんな感情を内側に溜め込んでいたのか。自分でも驚きは隠せなかった。
小さく笑った。だが、ももんともりは何も言わないでずっとiemonを一直線に見ていた。
心を持つモノには必ず七つの負の感情──聖書では七つの大罪と呼ばれている感情と、その内の強欲から生まれし三大欲求を持っている。
人は利己的な生物なので、基本私利私欲の汚い欲求をする事が多い。だが、それを利他的な目的で願う者は、ある意味では異端なのかもしれない。
ももんともりが今まで奪って来た魂達は、皆そうだった。何故殺したのか、復讐してやる、呪ってやる、そんな恨みを晴らして自分に解放感を与えたいが為の欲求だった。
だがしかし、目の前に立つ齢17の少年はそんな利己的な考えは殆ど無く、誰かしらの為を思っている。ももんともりの目に異色に映るのも無理は無い。
そして其れ等全てが正論であり、人間が求めるに値する欲求であったのだから、その言葉の節々は彼の本質を語っているのだ。
ポツリと呟いた言葉は拾われず、ももんともりの中で右往左往するのだった。
元来、ももんともりは誠実な心の持ち主である。相手にはよるが、基本的に誠意を持って接する。
めめんともりとだって、最初はそうだった。その関係よりも、嫉妬が勝ってしまっただけだった。誤解と誤解によってすれ違い、修復が難しい所まで至ってしまったが故に、1000年という途方も無い時間を生きていても自分達自身の力では分かり合う事が出来なかった。
少し身体を前にすると、察したのかももんともりは何処かを目指して動き始めた。そのまま素直に付いて行く。今の彼女なら、訳の分からない所へは連れて行かないであろうと見越してだ。
歩いて行くと、だんだん身体が重くなっている気がする。それは明らかに拒絶反応では無いかと思う。しかし立ち止まっていては何も分からない儘である。珍しく、忍耐強さを発揮した。
足を止めたももんともりの周囲に見える光景だが、先程と対して変わっていない。しかし、一つ変わった……というよりも、違和感を感じる点があるとすれば、ももんともりは何もない所に手を当てるような仕草をしていた事だった。
──正直な事を言えば、嘘だと思った。
先程も述べた通り、iemon自身には特別な力は何一つ持ち合わせていない。だから、そんな超常的現象に対抗し得る可能性等零に等しいと考えていた。
けれども、その時の頭の中には、目の前の障害を突破する事以外何も浮かばなかったからか、迷う事無くももんともりの隣まで行って、手を伸ばす。
案の定、何の防壁も無くすり抜けた。
次は足を前に出し、身体ごと全て通り抜けてみた。矢張り何とも無く、ももんともりの仮説は正しかったと言える。
が、全てが順調と言う訳では無かった。
何処からともなく意識を手放す前──即ちももんともりを刺した後と同系統の頭痛に苛まれる。脳を針で刺されているような痛みは耐え難く、思わずうめき声を上げてしまった。
ももんともりには見えていなかったが、iemonだけには見えていた。その先に細い細い、一筋の光が零れ出ていて、そこからは懐かしさや居心地の良い空気や雰囲気を直感で感じ取れたからだ。
そして、iemonの姿をした化け物は、めめんともりを殺そうと本気の殺意を丸出しに突き刺している。iemonにとって、それは耐え難く許されざる行為であった。
だが流石に人ならざるものからの重圧には抗う事は難しかった。眉間にシワを寄せ、額には汗をかくが、そんな事は気にせず気を保つ為に全神経を注いで立ち上がった。
───その判断と忍耐強さは、吉となった。
凄まじい猛攻で防戦一方だったが、息を整え妖を凝視する。そこで、大きな違和感が生じている事を雰囲気だけでなく自身の有する実力で見抜く事が出来た。
───魂が、煌めいている。
黒く染まった魂の中から、ほんの一部分だけ、青のような赤のような見分けの付かない程の、だが確かに輝く光が見えた。めめんともりは確信する。
涼しい顔をするめめんともりと、顔を歪める妖だったが、妖の顔はほんの一瞬緊張が解けたような顔をした後、直ぐに戻ってしまった。
きっと、この力は今日の日の為のモノだったんだ。
mmmr4周年!と言う事で、頑張って書きました
少々拙い部分もあるかもしれませんがご容赦下さい
さて、僕の構想ではあと2話の筈だ。
しかしこのチャプターでもう1話分書くつもりだったのに、いつの間にか5000字を突破してたし時間が間に合わねぇ、キリ良いしmmさん視点に変えてしまおうと言う感じでこんな尺に………
本当にそろそろ、漸くゴールが見えてきて一安心
リメイク等も書くか検討中ですので完結後にでもアンケートにご協力頂ければ嬉しいです(恐らく本格始動は2月下旬からになる見込みですが…)
それでは、また次回。













編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。