第9話

#お天気屋さんのお仕事/🐹❓ 🤓
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2026/02/15 06:24 更新
ピンポン、とインターフォンが鳴る。
時間からしてそれはきっと、俺_髙塚大夢が呼んだ人に違いなかった。
🐹
(…来たかな)
俺は気持ち少しだけ身だしなみを整えて(他の人から見たら変わったところが分からないほど些細だが。)、ガチャリと玄関の扉を開けた。
開けるとそこには背の高い、背広を着た男が佇んでいた。
そして、その男は口を開く。
🤓
どうも。
🤓
お天気屋です。
ある日、いつもは見ずに捨てる郵便受けの中のチラシが何故か目に入って、俺はその紙に書いてある文章を読んだ。
【天気を貴方の望むままに。一日だけ、お天気変えてみませんか】
そんな文がカラフルな装飾と共にでかでかと載っている。
馬鹿げていると思った。
そんな魔法のような話、ある訳がないと。
天気を操るなんて非科学的なことあるものかと。
どこかの誰かが気まぐれで作った子供騙しだ、悪質な悪戯だ_そう思って、俺はチラシをぐしゃぐしゃと丸めた。そして雑紙入れに入れようとしたが、ゴミ箱の前でふと手が止まる。
見たい天気が、思いついてしまったから。
ぐしゃぐしゃにしたチラシをもう一度開き直す。しわしわで見にくいが、なんとか読めた。
一日の料金は、一万円と「貴方の気持ち」。
オカルトか、ギャグか…書いてあること全てが、到底信じられるものではない。
それでも、騙されても良かった。
今丁度、金が浮いたところだ。一万円など造作もない。
どうせなら騙されてみよう。
俺はチラシに書いてある番号へ電話をかけた。
悩みながら、やはりこれは悪戯で、電話をかけたらどこかの誰かに馬鹿にされるのではないか、なんて考えて手が止まりながらも、気を改めてゆっくりとボタンを押す。
数十秒かけて押した後、俺はスマホを耳に当てた。
ツーツーというコールの音が響く。
そしてそれがぴたりと止まった。
🐹
…あ、の
俺は彼を狭いアパートのリビングに招き入れた。
家具にはあまりこだわりを持っていないから、改めて見ると少し殺風景で、それが俺の心を表しているようだった。
天気屋は店を持っていないらしい。
だから、依頼が来たら直接こちらに来るんだと。
玄関でも良いと言われたが、今は寒いしずっと立っているのも辛いだろうと思い家の中へと入れた。
🤓
わたくし、田島将吾と申します。
🤓
今回は当店のご利用、ありがとうございます。
そう言って彼はふわりと笑う。不思議と緊張がほぐれていく。そういう、ふわっとした雰囲気が彼にはあるのだろう。
話しにくい人ではなさそうだ。
🐹
…は、い。どうも…髙塚大夢です。
🐹
あの…天気を売る、って、本当なんですか
信じられませんよね、と田島さんは苦笑する。
🤓
ええ。でも…効果は保証しますよ
そう言いながら彼は鞄から契約書を出した。
🤓
天気を間違えることはありませんが…売るものが売るものですから。
後から代金を払わないと言われても困るので、書いてもらっているんです。
俺は彼に言われるまま名前を書く。
🤓
ありがとうございます。
🤓
…それで、貴方はどんな天気がお望みですか?
🐹
俺は…
…綺麗だな
🐹
…うん、ほんとにね
🐹
夕焼け…
🐹
あの日の、夕焼けを…もう一度見たい
彼はゆっくりと頷いた。
🤓
承知しました。
🐹
…え
🐹
分かるんですか、あの日というのが、なにか
今からあの日を説明しようと思ったのに、天気屋さんはまるで全てが分かっているかのようだった。
🤓
そりゃあ、天気を売って、対価に気持ちを求める人がすぐに分からないわけがないでしょう?
彼は含みのある笑顔を見せた。
🐹
それは…
🐹
確かに、そうですね
俺は久しぶりに、くすりと笑った。
 
ではそろそろ、と天気屋さんが言う。
🤓
料金の一万円は先程頂きましたので大丈夫です。もう一つの対価の貴方の気持ちは、天気を見た後、後払いでお支払いをお願いしますね。
🤓
では、明日の夕方、その場所に、天気を用意しますから
そう言い残して、彼は溶けた雪のようにいつの間にか姿を消した。
俺の希望の天気は明日に設定されている。
久しぶりに遠出するのだ、少し眠っておこうと俺は昼寝の準備を始めた。
翌日。俺は珍しく早起きして、駅の改札に来ていた。
『ごめん、待った?』
そう言う俺に、彼は優しく笑って
『いいや。今来たところだから気にすんな』
そう言ってくれた、あの日のこと。
俺は改札を通って電車に乗り込んだ。
今、俺の隣には見知らぬ誰かが座っている。
雑貨屋があった。
あの日、二人でダラダラこの店に居座った。
買うものを限界まで考えて、それで結局何も買わなかったのだ。
『あーあ。なんか無駄な時間だったかな』
そう言う君に俺は、ウィンドウショッピングも楽しいよ、と言った。
彼は、確かにそうかもな、なんて言って笑った。
そんな気がする。
俺は店に入って商品を見た。
色々考えて、そして、小さい犬のぬいぐるみを買った。
『でも、ウィンドウショッピングの時間があったら、もうちょっと大夢と一緒にどこか行けたじゃん』
『だから、損みたいな?思っちゃうからさ』
そう彼が言っていたのを思い出した。
あの日も、今日ほどではないにしろ寒い日だった。
あの日と同じように、肉まんを買った。少し大きくて、一食分だと言われてもなんら不思議には思わない。
『俺、まとめて買うよ』
そう言って、二つ肉まんを買ったあの日。
今日は、少し寂しい。
いいや…いつも、寂しいのかも。
そう思いながら、一つ、肉まんを頬張った。
他にも、あの日…いや、いつも来ていた道を歩いた。
色んな思い出が、雪崩のように押し寄せる。
あんなことがあった、こんなことがあった。その度に、何故忘れていたのだろうと思う。
いつかあの場所に行こう。
お揃いのものを買おう。
そう約束していた日々が来ることはなかった。
俺はあまりにも…不甲斐ない恋人だった
彼はここから見る夕焼けが好きだった。
最後のデートの日も、いつも通りここに来ていた。
商店街の奥の、少し丘を登った先にある展望台。ベンチがあって、いつも二人並んで座った。
来てみると、本当に変わらずベンチはそこにあった。
俺は隣に一人分開けて座る。
いつもデートの終わりには夕焼けを見ていた。
それだけのことが、なぜこんなに特別に思えるんだろう。

空が橙色に染まる。
ああ、本当に…
🐹
あの日と、同じ
あの日はやけに、空が綺麗で澄んでいた。
『今日の夕焼け、いつもより綺麗じゃない?』
そう言われたのを覚えている。
その時はあまり違いが分からなかったけど、でも今なら分かるよ。
🐹
…京介
🤓
それが、貴方の大切な人の名前ですか
いつの間にか、天気屋さんが後ろにいた。
🐹
居たんですね。
…本当に、そっくりそのままです
驚きました。そう言うと天気屋さんは相変わらずの感情が読めない顔で、信じて貰えましたか、と言って微笑んだ。
🐹
本当に、同じで
🐹
変わったのは、京介がいなくなったくらいで
そう呟く。すると、天気屋さんは不思議そうに言った。
🤓
…それは、同じではないと思いますよ。
🤓
全く違います、きっと
🐹
…そうでしょうか
🤓
ええ。
空の橙色が、どんどん薄れていく。
🐹
…俺、きっと
🐹
同じだと思いたくて、頼んだんです。天気
🐹
京介がいなくても、俺や夕焼けがいつも通り、ケロっとして生きているということを…確かめたかった。
🐹
…でも。お天気屋さんの言う通り、全然違いました
🐹
あの日の夕焼けは…もっと綺麗だった
天気屋さんは、黙って俺の話を聞いていた。
🐹
俺、あの日の帰り、京介に指輪を買おうと思っていました。
今の日本じゃ同性婚はできないけど、気持ちだけでもって
🐹
三十万円くらいお金を貯めて、ようやく買える…そう思ったけれど、夕焼けを見たからか、帰る頃には真っ暗で。
ジュエリーショップは開いていました。けど、遅いしまた今度買おうって思って…
指先を無意識に握りしめる。
🐹
その日の夜…京介は、事故に逢いました
🐹
一万円を怪しい物に悩まずぽんと出せたのは、指輪の予算が要らなくなったからです。三十万円も余裕があるから。
🐹
騙されてもよかった。ぼったくられてもよかった。最後に二人で見た夕焼けを、万が一でも見られるのなら…一万円なんて、喜んで差し出せた

我ながら、子供じみた願いだと思う。
🐹
大切な人と見た夕焼けを、またもう一度見たいだなんて…天気屋さんは、笑うでしょうか。
彼は柔らかい声で言った。
🤓
笑いませんよ。
🤓
貴方はその願いが叶ったら、前を向けるでしょう?
🤓
それなら、今日をいい天気にする価値があります
🤓
それに、そのことをを笑う人がいたら
🤓
きっと、その人はまだ大切な人を失ったことがないのです
🐹
なんで夕焼けって、沈むのにこんなに綺麗なのかな?
🐶
…んー…
🐶
人を前に向かせるため、じゃない
🐹
…どういうこと?
🐶
明日に、未来に進む準備をさせるために、きっと一番綺麗な色を一日の最後に見せてる、と思ってるけど
🐹
…ロマンチックだね
🐶
いいように解釈するのは勝手だろ。
彼が生前言っていた解釈が、すとんと腑に落ちた。
🐹
京介も、同じようなことを言っていました
🤓
そうですか。彼と俺は気が合いますね
🐹
はい。きっと
短い沈黙が落ちる。
太陽はもう半分、地平線に沈みかけていた。
🤓
…それで
天気屋さんはふと思い出したかのように言う。
🤓
そろそろ対価のお話をしなければなりません
🐹
対価、ですか
🤓
はい。
🤓
今日の夕焼けを見て、思い出したことを一つだけ。ここに置いていってもらいます。
🐹
記憶、ですか
彼は首を横に振った。
🤓
いいえ。
🤓
あの日、こうすればよかったのに、という後悔です。
一瞬、言葉が出なくなった。
🤓
あの日こうしていれば。
もう少し話していれば。
そもそも京介さんがいなかったら。
🤓
そんな、『もしも』を一つだけ。
夕焼けを見る。
もう少し早くお金を貯めれていたら、指輪を渡せた。
帰るのがもう少し早かったり遅かったりしたら、交通事故に巻き込まれなかった。
🐹
…一つで、いいんですか
🤓
はい。
🤓
全部は奪いません。
思い出したもの全て、貴方が生きていくために必要なものですから。
🐹
…じゃあ
🐹
ずっと一緒に、綺麗な夕焼けを見れる、って信じて疑わなかった気持ちを
🐹
夕焼けも、京介と過ごす時間も、京介自体も…全て、続いていくものだと思っていました。
当然のことのように、信じていた。
🐹
それを、後悔として…置いていきます。
天気屋さんはゆっくりと頷いた。
🤓
確かに、受け取りました
その途端、心の中にある棘が少しだけ、削れて取れたような気がした。
風が、すっと頬を撫でる。
夕焼けが、さっきとは違って見えた。
🐹
この夕焼けは、きっと今日しか見られないんでしょうね
そう呟くと、天気屋さんは同意する。
🤓
ええ。
🤓
それだからきっと、美しいんだと思います。
その言葉が、京介の言葉と重なった。
🐶
今日と同じ夕焼けはもう見られないって思うと、浪漫あるよな〜…
🐶
まあ、それが綺麗である所以っていうか。
俺は思わず少し笑ってしまった。
🐹
やっぱり、京介と天気屋さん、似てます
🤓
光栄です。
太陽は完全に沈んで、辺りは真っ暗だった。
🤓
もし、貴方が誰かを天気で救いたいと思ったなら
天気屋さんの後ろに、星が瞬いている。
🤓
電話で連絡してください。
🤓
天気屋はいつも人手不足ですから。
それ以上彼は何も言わなかった。
急かすことも、答えを求めることもなく。
🐹
…考えておきます
🤓
十分です。
空はもう、夕焼けの名残だけを残して、静かに色を変えていた。

end
不思議な話を書きたい欲第2弾。
天気屋とそのお客さんのお話でした。
天気屋さんはなんかふわふわしてる人がいいなーって思ってたじにしたけど、中々たじな必要性はなかった…うーむ
あと髙牧。やはり髙牧は正義。
でも京介を死なせてしまい申し訳ないです。
不思議な話を書きすぎて普通の話が要素少なすぎて書きにくいと思ってしまうようになってしまった…
それはまた追々修行ということで。
リクエストもまだ募集してます!ここのケミでお願いしますとかでも全然大丈夫なので気軽にしてね
ではミズメでした〜

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