流石というべきか、図書館は別荘内にあるというのに
かなり広かった。
既に何人かアカデミー生もいて、
先輩が厳選した著書を思い思い手に取って読んでみたり、
小声で勉強を教え合ったりしている。
私はというと、本棚の陳列方法をすぐに把握し、
目的の場所へ一目散に向かう。
世界的に有名な俳優の著した書籍の原書を取り出す。
そしてそのままテーブル席に向かい、
さっと周囲を見渡してから早速本に目を通す。
演技力、表現力をもっと磨きたいと思う自分にとって
役立つような言葉ばかりで、ページを捲る手が止まらなかった。
ーーピカッ……ゴロゴロ……
耳をつんざくような突然の雷鳴に、はっと顔を上げる。
どうやら随分と夢中になって読んでしまっていたようだ。
雨風はより激しさを増し、
図書館内の人数は最初よりも少なくなっていた。
雷。聞こえてきたその言葉に、私は慌てて立ち上がる。
その音に何人かが吃驚してこちらを見てくるが、
気にしてはいられなかった。
原書を本棚のもとの位置に戻し、
急いで図書館を後にする。
屋外を走る間、傘を差していても
左右から雨が振り込んでくる。
頻繁に辺りが光り、そして間もなくゴロゴロと音が鳴った。
どこかへ逃げたかった。
あの雷鳴が届かない場所へ。雨風が降り注がない場所へ。
なんとかエントランスに辿り着いたとき、
私の震える手足は、もう言うことを聞いてくれなかった。
誰かが通るかもしれない。
頭ではそう考え付くのに動けない。
そのまま入口付近の柱に寄りかかってしゃがみ込み、
目を瞑って耳を防ぐ。
早くこの嵐が通り過ぎてほしい。
そう願う私の心とは正反対に、
雷雨はますます激しくなる一方だ。
ーーあの日の夜も、雨風が酷かった。
轟くような雷が、鳴っていた。
それが三日間続いていた。
こんな雨の日は目を閉じると蘇ってくる。
私の頭に恐怖を植え付けた、あの日の光景が。
記憶力が優れていることも、よいことばかりではない。
雨の日は苦手だ。
苦手というより怖いのかもしれない。
身体を震わせながら俯いていると、
頭上から名を呼ばれた。
いつもの鋭いあの人だ。
会いたくなかった人が、そこに立っていた。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!