ジョングクさんと通話してから小一時間が経った頃、今駐車場に着いたよとメッセージが入った。なので慌てて鏡の前で髪を軽く整えてからテーブルの上に配膳した料理を確認しつつ出迎える準備をしていたら、来客を知らせるインターホンが鳴ってモニターを確認するとそこには黒のバケットハットに黒のマスク姿なジョングクさんが嬉しそうに目元を柔らかくしてこちらに手を振っている姿があった。ほんと可愛い人だよね、可愛いって言うと「かっこいいにして!あなたにはそう思われていたいの!」そう言って拗ねるから本人には言わないけども。
どうぞ入って下さいとエントランスのオートロックを解除したのを確認したら玄関に向かってジョングクさんをそわそわとしながら待っていると、部屋のインターホンが鳴り鍵を解錠してドアを開けたらジョングクさんは私の名前を呼び「お邪魔しまーす会いたかったー!」と、玄関先で抱きつかれてしまった。ふわりと柑橘系の爽やかな彼の香水の匂いが嗅覚を甘く刺激して、きゅっと胸が仄かに苦しくなる。私この匂い本当に好き…
私を抱きしめながらぐりぐりと肩に額を押し付けて甘える尻尾を振った大型犬のようなジョングクさんの背中をなだめるようにそっと手でぽんぽんしつつ、とりあえず中に入ろうと促すと彼はこのまま行くと言って私を抱き上げた。
何やってるんですかと慌てる私に大人しく抱かれていなさいとジョングクさんは部屋の鍵を閉めてから靴を脱ぐと用意してあったルームシューズを履いてそのままリビングに。もうこれは何を言っても降ろしてくれないと察した私はジョングクさんに言われた通りに大人しくされるがままでいる事にしようかな。あんなに嬉しそうな顔をされたら何も言えないって。
リビングに入るとテーブルに配膳されたトマトソースにクリームを混ぜ合わせたものにコチュジャンを足したロゼパスタと、ちゃんと野菜も取れるようにと作ったサンチュゴッチョリを見てジョングクさんは目を輝かせて喜んでくれた。韓国料理は今まで母と一緒にならば作った事はあったが、自分だけで作ったのは初めてで味には少し不安が残るけどジョングクさんがこうも喜んでくれたから嬉しくなって口元が緩んでしまう。
つい嬉しくなって貴方の為ならいつでも作りますよといった意味合いを持つ素直な気持ちを口にしたらジョングクさんは何事?と目を見開いて驚いている。いつになく素直だとか言って。かっと頬が熱くなると自分の発言を思い返して恥ずかしくなり、降ろして下さいと少し身動ぐとジョングクさんはマスクを取って素直なのも良いけど、素直じゃない私が可愛いのだと満面の笑みを見せたら羞恥心に色々と限界を迎えた私が怒ったのは言うまでもない。
私を解放した後、サニタリールームに案内して手洗いを済ませたジョングクさんと並んで食事を取ってからキッチンで使った食器を洗っている間、ねえねえと言ってずっと背後で私の体に手を回しながら肩に顎を乗せて甘えてくるものだから本当に大型犬のようだと思えて笑ってしまった。だって構って構ってと後追いが止まらない甘えたの大型犬みたいなんだよ、本当に。
グク、ハウス!なんて冗談を言ってみたら「わん」と言って耳に軽くキスをされてしまい危うく食器を落とすところだった。この駄犬めと意を込めてじとりとした視線を送ると、犬扱いした私が悪いとジョングクさんはしたり顔で笑っている。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!