鏡の前で、淡いピンクのルージュを引く。
完璧に整った姿──それがカノン・ロザラインの鎧だった。
「ヴィル先輩……。わたし、わりと本気で怒ってますからねー…」
昨日、撮影の合間にユウが差し入れを持って現れた。
ヴィルは微笑みながら受け取り、柔らかく言葉を交わしていた。
それを見ていたカノンの中で、何かが静かに爆ぜた。
(綺麗な人を見れば、誰でも微笑むのね。……でも、それは“ヴィル・シェーンハイト”だから。
誰もが見惚れて当然。でも、わたしだって──)
鏡の前のカノンの瞳が鋭く光る。
清楚な顔立ちに、一瞬だけ強気な“本性”が滲んだ。
「……ふふっ、いいわ。勝負してあげる。
あの子が“可愛い”で攻めるなら、私は“完璧”で上書きしてやる。」
部屋に一人きりなことをいいことに鏡を確認せずに口角をあげる。
「あぁ、これじゃ本当にヴィランじゃない。」
だが、ドアを開けた瞬間には、儚げな微笑みに戻っていた。
ヴィルの前では──決して“強い女”を見せない。











編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。