俺と傑と天内は高専に向かう途中、細い道の、たくさん店が立ち並ぶ通りに来ていた。
わたあめ、おしゃれなカップに入った飲み物、デコレーションの派手なドーナツ。
…いかにも女子が好みそうなものばっかり。
コイツが行きたいと言うわけだ。
天元様からのご命令「天内理子の要望には全て応えよ」とは言われたけど、さすがにこれには参った。
まだ夏休みが終わっていない奴らもいるんだろう。
平日のこの時間でも、人で通りがにぎわっていた。
もちろん、俺と傑はその中で浮いている。
傑がそう聞くと、天内は「フッフーン!」と返す。
そして、軽いスキップを2、3歩して、あるお店の前で止まった。
天内が嬉しそうにそのお店を指さす。
side あなたの名字あなたの下の名前
だーれもいない悟の家で、午前中に引き続き午後もダラダラしていると、突然外で雨が降り始めた。
…夏らしい季節だなぁと思って、私は畳の部屋でその様子を眺めていた。
しばらくすると、家のお手伝いさんたちが縁側に来て、窓を閉め始めた。
閑散とした広すぎる悟の家で、午後初めて見た「人」だった。
お手伝いさんは、どうやら私が見ていたことに気が付いたらしい。
こっそり声をかけてくれた。
人見知りな私は、ちょっとびっくりしたけれど、ちゃんと返事をした。
すると、そのお手伝いさんはニコッと私に笑顔を見せてくれた。
そして窓を閉め終わると、忙しそうに戻っていった…。
私はそんなことをつぶやきながら、ふと、手を見る。
左手には今朝、悟にもらった花の指輪がついている。
悟は、こんなに綺麗で可愛くて優しい人に囲まれて、育ったんだな…
なんて考えると、すごく寂しい気持ちになった。
…私もあの人たちのように、綺麗で可愛くて優しい人だったら良かったのにな…。
そしたら悟は、今でも少しは優しくしてくれたかな…_____
答えのない問いを浮かべて、私はそのまま、座っていた後ろの方へダイブした。
するとちょうど、携帯がリンコン♪と可愛らしい音を鳴らす。
メールかな、誰からだろう…
そう、メールを開くと、そのメールの送り主はなんと理子だった。
…私が同化にいく予定だったあの日から、私は通っていた学校を「転校」という理由で辞めた。
クラスメイトから連絡が来てることはあったけれど、もう私は、それに返信することはなかった。
ーこれ以上、寂しくなりたくなかったからー
けれど、理子からのメールは、ついつい開いてしまう。
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あなたの下の名前と来たいって言ってた
パフェ屋さん、来たよ!
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そんな言葉と一緒に、フルーツがいっぱい乗った豪快な大きなパフェが写った写真が送られていた。
私がまだ学校に通ってた頃、休み時間に新しくできたお店について話してるときに理子と話題になった、このパフェ屋さん。ずっと「一緒に行こうね」って言ってたけれど、結局2人で行くことはないまま、私は同化に行くことになってしまった…。
私は理子に「美味しそう!良かったね」と返信しようと思って、改めて画面を見る。
そして、写真をもう一度見た。
…ふと、あるものに目がつく。
思考を遮るように、またリンコン♪っと音が鳴る。
次のメールも理子からだった。
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この後、日が沈む前に、
会えるかな?
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side 五条悟
天内の言っていた店というのがなんとパフェ屋で、俺はすっかり上機嫌になっていた。
店に入って、3人で4人掛けのテーブルに座って、パフェを注文した。
ちょうどその頃に、雨が降り始めた。
そして早速パフェが届くなり、俺は構わずスプーンを入れ、一口。
天内は携帯でパフェの写真を撮って、その直後なにやらカタカタと文字を打った。
俺と傑は迷わず天内のパフェにスプーンを突っ込もうとする。
もちろん、煽り。
慌てて天内が、俺と傑のスプーンを止める。
あぁ、コイツ歌姫っぽいなw
俺と傑はしばらく少し笑って、その後は大人しく3人で自分のパフェを食べた。
味?
おいしい。
この件が済んだら、あなたの下の名前と食べに来ようかな…
なんて思っているときだった。
天内がサッと席を立つ。
天内の手には携帯が握られている。
俺と傑は許した。
…けれど、天内はなぜか雨の降っている店の外へ出ようとした。
傑が止めようとしたが天内は聞かない。
そのまま外へ出て行ってしまった。
そう、まるで俺たちから逃げるように、
俺も傑もすぐに気が付いた。
傑は俺の返事を聞くなり、すぐに天内を追うために外へ出ていった。
俺は少しそれを眺めながら、席を立つ。
…鬼ごっこなら、俺たちが負けるわけがない。
俺には六眼が、傑には呪霊たちがいるから、見つけるのは余裕。
追いかけっこだって、天内が相手なら負けるわけない。
だから、油断していた。
side あなたの名字あなたの下の名前
理子のメールがあってから、私は、理子に言われた通りの場所で待っていた。
―― この後、日が沈む前に、会えるかな?
そのメールに私が「会えるよ」と返すと、すぐに返信が来た。
指定された待合場所は、理子が写真を送ってくれたパフェ屋さんのある通りを、1つ曲がったところ。
あそこは一本の少し蛇行した道になっていて、その両側にいっぱい可愛いお店が並んでいる。
その道を抜けると噴水があって、右と左に道が分かれる。
その曲がった先が、理子の指定した待合場所だった。
雨が降っていて、空気がじとじとする。
しばらく待っていると、バタバタと走るような足音が聞こえてきた。
人通りが多いこの道を走るのは危ない。
私は何事だろうと思って少し顔をのぞかせた…_____
そう、走っていたのはなんと理子だった。
すごく急いだみたいで、前髪はボサボサ。
ひどく息を切らしてる。
しかも雨が降っているというのに、傘も持っていなかった。
私は急いで自分の持っていた傘を理子が濡れないように持ち直す。
私が聞き終わる前に、理子は私の腕を強く引っ張った。
ふわっと傘が浮いて、手から離れる。
な、何が起こってるの…?!
…さっき理子から送られてきた写真に、私が気になるものが1つ写っていた。
大きなパフェの奥に見えた、「うずまきのボタン」
画角の関係で一部分しか見えなかったけれど、あれはたしか、悟が通ってる呪術高等専門学校の…______
…詳しいことはわからないけれど、理子に聞いてるような時間はないみたい。
私は理子に言われた通り、走ることにした。
通りを歩く人たちはみんな傘をさしていて、まっすぐ走るのはできない。
人と人の隙間をぬって、必死に理子を追いかける。
雨が私たちを打ち付ける中、ずっと。
side 五条悟
パフェの店を出て、さっき傑が行った方向と逆の方へ、俺は天内を探しに走っていた。
あまり本気で走ると街をうろついてるパンピーに当たるから、軽く。
しばらく走って天内を探すけれど、人がうじゃうじゃ…しかも雨で視界が悪い中、傘で先が隠れてよく見つけられない。
ブブブっと携帯が振動する。
たしかにそうだ。
傑の呪霊操術は媒介なしで呪霊を出すことができるが、呪霊が出てくるスペースは最低限確保しないといけない。
今この通りはちょうど雨が降っていて、人の流れが悪い上に、傘をさしているとスペースが取りづらい…!
俺はグラサンを取る。
そこで俺たちの通話は終了した。
そして、俺は急いであなたの下の名前へ電話をかけた…______
side あなたの名字あなたの下の名前
理子が私の腕を引っ張って、走る。
私も理子に置いて行かれないように、走っていた。
空は巨大なカーテンのように、黒い雲で晴天の空を隠してしまっている。
雨がアスファルトに打ち付けて、ペトリコールが漂う。
…しばらく走っていると、開けた公園が見えてきた。
公園の中に花が色とりどりに咲いて、道がある、遊具のない、少し大人な公園。
理子はそこまで来ると走るのをやめて、はぁっ…!っと大きな息を吐いた。
そう言いかけたとき、突然私の携帯が着信音と一緒に振動を始めた。
理子と私は少し驚いたけれど、私は落ち着いて画面をのぞく。
私が電話に出ようとしたとき、理子が私の袖をつかんで、それを止めた。
理子がどこか不安そうな表情を浮かべる。
雨のせいか、少し濡れているようにも見える。
そう言って理子は私の持っていた携帯をピシャンっと閉めた。
手元の携帯は、着信音はもうならないけれど、まだ振動を続けている。
悟が電話をかけつづけているのだ。
理子は私の腕を掴んだ。
そこで私は、理子が置かれている状況が只事ではないことに気づいた。
普通、理子が悟のことを知ってるわけない。
私たちは星漿体というだけで、呪術師の名前を知るほどの立場ではないから…
つづく
本当は2話にわけたかったけれど、準備できなかったので長かったと思う💦
そしてめっちゃ明日投稿できなくなったーー!!!ごめん-!!
…ということで、28日にまた👋
本編急にしゅらば。
















編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。