ボスの声が扉越しに聞こえる。
独立して新しい組織を築く、その理由として方々からの睨みが効いてきたから...というのは一見充分なように思える。
しかし、私はそうではないと感じる。
正確には『それだけではない』か。
こちらがあちらから睨まれるということは、こちらもあちらをある程度睨んでいるということだ。
自治体にも影響力のある私達の立場を考えると、お互い下手に動くことはできないという状態は、ある種これ以上ない程健全な状態でもあるのだ。
では何が考慮されてのことか。
組織を二分化となると、かなり重大な混乱がこの組織へ降り掛かることは確実と見ていい。
つまり扉の中の部屋に集められた『お前達』は、『二分化してでも残したい優秀な人材』ということになる。
但し、その混乱に陥った場合に生き残れない可能性が高い、未熟な者...と取ることもできる。
その集まりに私が呼ばれていないのは前者か後者に当て嵌まらないからであり、まぁどこをとっても一級品の素晴らしい私はどう考えても後者に当て嵌まらなかったからであろうが。
ではその『混乱』とは?
そんな素振りは全くなかったにも関わらず、幹部の緊急会議を終えて直ぐ人を集めるこの焦りよう、それから昨今の情勢。
恐らく、ボスに何かある。
例えば...『組織同士の抗争により死亡する』だとか。
うん、やはりその線で合っていそうだ。
さっすがともちゃん最高!天才!!!
なんて拍手喝采が聞こえる...
...が、それ以外に聞こえたものはなんだ。
沈黙。
只々沈黙がその部屋にあったように思う。
つまり、
誰一人として立候補者がいないのだ。
仕方ない、ここは私の出番のようだな。












編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!