あいつが逝ってから、部室はひどく静かだった。
俺は、あいつが遺した言葉をみんなに届ける「郵便屋」になった。
田中と西谷への手紙を読んだときは、二人ともジャージの袖がびしょびしょになるまで泣き喚いていた。
「二人の熱いプレーに、何度も心臓を叩き起こしてもらったよ」なんて書かれてたら、あいつら、一生バレーやめられねーべ。
潔子さんへの手紙には、「隣に立たせてくれてありがとう、世界一かっこいい女性です」って。
潔子さんは何も言わずに、ただ静かに、でも大粒の涙をポロポロと零して手紙を抱きしめていた。
そうやって、一人一人の「心」に、あいつは自分のカケラを植え付けていったんだ。
「……さてと」
部員たちが去り、夕暮れの部室に一人残った俺は、最後に残った一通を開いた。
他の誰のものよりも分厚い、俺への「特別仕様」の手紙。
『菅原さんへ
これを読んでいるということは、私はもう菅原さんの隣にはいないんだね。
悲しい顔をさせて、本当にごめんなさい。
菅原さん、私のためにたくさん泣いてくれてありがとう。
救護室で私の手を握って寝ていた菅原さんの顔、ずっと忘れません。
ナンパから助けてくれたときのかっこいい姿も、嫉妬して頬を膨らませる可愛い姿も、全部、私の宝物です。
菅原さんに告白されたアングレカムの丘。
あの時、私は「はい」って答えたけれど、本当は「死にたくない」って叫びたかった。
もっと、菅原さんが上げるトスを見ていたかった。
菅原さんのユニフォームを洗濯して、一緒に坂道を下って、卒業して、……その先の未来も、ずっと一緒にいたかった。
でもね、菅原さん。
私の心臓が止まるまで、カラスたちの鳴き声が聞こえていたのは、菅原さんが私の人生を「最高」にしてくれたからです。
私は、世界で一番幸せなマネージャーとして、菅原さんの腕の中で旅立てたんだよ。
だから、お願い。
いつか、私のいない日常に慣れてしまっても、自分を責めないで。
菅原さんのその優しい笑顔で、これからも烏野を、みんなを支えてあげてください。
私の分まで、生きて。
私の分まで、バレーを愛して。
大好きだよ。
来世でも、その次でも、絶対に見つけるから。
だから、……またね。
烏野高校排球部マネージャー あなたより』
「……っ、バカ。……『またね』なんて、ずるいべ……」
読み終えた瞬間、視界が完全に滲んで、手紙の文字が読めなくなった。
部室の窓の外、茜色の空をカラスたちが群れをなして飛んでいる。
あいつを連れて行った、あの日の空と同じ色。
「カァー、カァー」
あいつが愛した、カラスたちの鳴き声。
俺は、ジャージの胸元に手紙をぎゅっと押し当てて、声の限りに泣いた。
お前が守った日向が、高く跳ぶ。
お前が見惚れた影山が、トスを上げる。
そして俺は、お前が愛したこの場所で、お前がくれた笑顔を繋いでいく。
心電図の音が止まったあの日から、俺の新しい日々が始まる。
いつか、お前が俺を見つけてくれるその日まで、俺はこのカラスたちの鳴き声が響くコートで、戦い続けるから。
「……見ててくれよ、あなた」
俺は涙を拭い、あいつがくれた「特別仕様」のお守りを握りしめて、夕焼けの中へと一歩を踏み出した。











編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。