ヨルは膝を抱えたまま、じっと床を見つめていた。
涙は出そうになる。
でも――
泣きたくない。
負けたくない。
そんな気持ちも同じくらい強かった。
「……悔しい」
ぽつりと漏れる。
Fukaseは静かに聞いていた。
ヨルは拳を握る。
「フォーエイトも解散するし」
フォーエイトの名前を口にすると胸が痛む。
「引っ越しもあるし」
「音楽もしたいし」
「夢だってあるし」
声が少し震える。
「なのに体だけついてこない」
その瞬間、涙が一粒落ちた。
ヨルは慌てて拭く。
でも次から次へと出てくる。
「泣きたくないのに」
「悔しい」
「まだ頑張りたいのに」
心の中では二つの気持ちがぶつかり合っていた。
休みたい自分。
前へ進みたい自分。
どちらも本音だった。
Fukaseはしばらく何も言わなかった。
そして静かに口を開く。
「ヨル」
ヨルは顔を上げない。
「強いな」
その言葉にヨルは首を振る。
「強くないよ」
「泣いてるじゃん」
Fukaseは少し笑う。
「泣くことと弱いことは別だろ」
部屋が静かになる。
「本当に諦めた人はさ」
Fukaseは続ける。
「悔しいって言わない」
ヨルの肩が小さく震える。
「まだやりたいことがあるから悔しいんだろ」
「まだ夢があるから苦しいんだろ」
その言葉が胸に刺さる。
ヨルは涙を拭きながら頷いた。
「……うん」
「歌いたい」
「音楽したい」
「みんなと前に進みたい」
今度ははっきり言えた。
Fukaseは頷く。
「じゃあ今日は休む」
「それも夢のため」
ヨルは少しだけ笑った。
「それ、ずるい言い方」
「大森元貴にも言われそう」
Fukaseも笑う。
「たぶんな」
涙はまだ止まらない。
でもさっきとは違った。
悲しさだけじゃない。
その奥には、
それでも進みたい。
そんな強い気持ちが確かに残っていた。











編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!