アーサーの何十倍も大きな月ーー〈大いなる厄災〉が、アーサーに襲いかかる。
初めて実感する強大な力に足がすくみ、呪文が口から出てこない。
本能的に死を悟ったその瞬間ーー
紺色の髪が、視界を遮った。
アーサーはその髪を、昔から見ていた。
とても長くて、艶やかで、大切な人の髪ーー
紛れもなく、アーサーの育ての親、オズだった。
振り返ったオズは、その赤い瞳に安堵を灯すと、膝から崩れ落ちた。
アーサーは屈み、オズを抱き抱えた。
杖を零した手を強く握った。
悪夢に泣いた夜、オズがそうしてくれたように。
オズの瞳から生気が失せる。
よく見るとオズは、あちこちに致命傷を負っていた。先程負ったのだろう。
アーサーは血の気の引いた顔で被りを振った。
オズの周りを、光の粒子が舞い始める。
昨年、ファウストが死にかけた時も同じ光が出たと言う。
あぁ、この人は、死んでしまうのだろうか。
まだ、何の恩返しもできていないというのに。
どれだけ祈り、どれだけオズを強く抱きしめても、光の粒子は増える一方で。
消えかけた声で、オズはアーサーの名を呼んだ。
アーサーはぱっと顔を上げ、オズを見つめた
瀕死の人間が発したとは思えない程、アーサーの中にこだました。
それが最期の言葉となり、オズは目を凝らしても見えない程透け、石へと変貌した。
どれだけオズの名を叫んでも、返事はない。
ただ、風が鳴っていた。
アーサーは跳ね起き、辺りを見回した。
閉じられたカーテン。書類の積み上がった机。鮮やかな花の生けられた花瓶。
何も変わらぬ、アーサーの部屋だ。
先程のはアーサーの夢だった。言わば、幻。
安堵の息を零したと同時に、寒気がした。
辺りが凍りついたように寒くなる。
アーサーは、肩を押さえて震え出した。
ありえないのに。
オズがアーサーを置いて死んでしまうなど、ありえないのに。
だが今は、100%ありえないと断言できない。
オズは〈大いなる厄災〉の奇妙な傷の影響で、夜は魔法が使えない。
魔法が使えない間に、北の魔法使いや、〈大いなる厄災〉が襲撃しに来る可能性だってある。
正夢になりませんように。
そう願うばかりだった。












編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!