第4話

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2026/06/10 12:01 更新
《末澤side》

 腕時計を何度も確認しながら走った。
 けれど、五分のタイムリミットが来る前に、日没のタイムリミットの方が早く来てしまった。

末澤「嘘やん……」

 街灯が灯り始め、料理屋が夕食の呼び込みを始めている。
 鳥居は遠目に見えているのだ。
 けれど、今更急いだところで、五分以内には辿り着けるだろうが、青年の言った日没までという言葉は守れない。

末澤「……最悪や」

 鳥居に駆けつけ、くぐったところで何も起きない。
 ただ、鳥居の先にかかる木造の橋を踏むだけ。
 神社の社が見えることもなく、ただ大きな建物がそびえ立っているだけ。

 背中に冷たい汗が流れ、指先が急速に冷たくなっていくのが分かった。
 怖かった。
 五分のタイムリミットが切れるまで、三十秒も無い。
 あの青年だって、きっともう、助けには来てくれない。

(……お礼だけでも、言っときたかったな)

 俺は滲む視界に気付かないふりをして、鳥居の傍のベンチに腰掛けた。
 もう五分は経った。
 どんな匂いかは知らないが、人間の匂いをプンプンさせ始めているのだろう。

 鳥居の向こうの建物にも灯りが入り始める。
 もしかすると、何かのお店なのかもしれない。
 大型商業施設なのかもしれない。

末澤「……そんなん、どうでもええわ」

 このまま俺は、餓死でもするのだろう。
 きっと、帰ることなどできないだろうから。

??「……君、こんなところで何してんの?」

末澤「……え?」

??「いや、人間がこんな所におったら、捕まるで?」

 座り込む俺を見下ろすように立つ男。
 きっと、年齢はさっきの青年と変わらないくらい。
 襟足の長い、暗めの銀髪。彫りの深い整った顔立ち。
 白い道着に、藤色の袴を纏っていた。
 背は、さっきの青年より高い。

末澤「あ、いや……」

??「あ、俺は別に敵ちゃうから。むしろ、人間好きやし」

末澤「……そう、なん?」

小島「俺、小島健っていいます」

末澤「……小島?」

小島「そう。小島健。小島でええよ」

 そう言うと、小島ははにかんだ。

小島「まあ、名前を教えたぐらいやから、ここに放置はしていかへんから、安心し?」

末澤「……ほんま?」

 俺が目を見開くと、小島はしっかりと頷いて、手を握ってくれた。
 そして、辺りを見渡し、懐から黄金色の飴玉を取り出した。
 さっきの猫男の商人が押し付けてきた物とは、見るからに違っていた。

小島「俺は術が不完全やから、ちょっと道具に頼らなあかんくて……これ舐めてくれる?」

末澤「……違法なやつじゃないん?」

小島「ん?……ああ、ちゃうよ。てか、よう知ってんな」

 小島は軽く目を見開いた。
 俺は慌てて言い訳をする。

末澤「いや、なんとなく……うん、大丈夫なんかなって思っただけ」

小島「まあ、警戒心はあった方がええからな。一旦匂いは消す。君が俺らと同じ人型に見えるように」

末澤「……人型」

小島「そう。ちょっとの間だけやけどな」

 脳裏に、さっきの青年が浮かんだ。
 猫男の商人が言っていたように、この世界では人間の形をしたものを、そのまま人型と呼んでいるのかもしれない。

小島「口開けて」

 小島の声に、素直に口を開ける。
 その瞬間、甘さと清涼感が口いっぱいに広がった。​

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