《末澤side》
腕時計を何度も確認しながら走った。
けれど、五分のタイムリミットが来る前に、日没のタイムリミットの方が早く来てしまった。
末澤「嘘やん……」
街灯が灯り始め、料理屋が夕食の呼び込みを始めている。
鳥居は遠目に見えているのだ。
けれど、今更急いだところで、五分以内には辿り着けるだろうが、青年の言った日没までという言葉は守れない。
末澤「……最悪や」
鳥居に駆けつけ、くぐったところで何も起きない。
ただ、鳥居の先にかかる木造の橋を踏むだけ。
神社の社が見えることもなく、ただ大きな建物がそびえ立っているだけ。
背中に冷たい汗が流れ、指先が急速に冷たくなっていくのが分かった。
怖かった。
五分のタイムリミットが切れるまで、三十秒も無い。
あの青年だって、きっともう、助けには来てくれない。
(……お礼だけでも、言っときたかったな)
俺は滲む視界に気付かないふりをして、鳥居の傍のベンチに腰掛けた。
もう五分は経った。
どんな匂いかは知らないが、人間の匂いをプンプンさせ始めているのだろう。
鳥居の向こうの建物にも灯りが入り始める。
もしかすると、何かのお店なのかもしれない。
大型商業施設なのかもしれない。
末澤「……そんなん、どうでもええわ」
このまま俺は、餓死でもするのだろう。
きっと、帰ることなどできないだろうから。
??「……君、こんなところで何してんの?」
末澤「……え?」
??「いや、人間がこんな所におったら、捕まるで?」
座り込む俺を見下ろすように立つ男。
きっと、年齢はさっきの青年と変わらないくらい。
襟足の長い、暗めの銀髪。彫りの深い整った顔立ち。
白い道着に、藤色の袴を纏っていた。
背は、さっきの青年より高い。
末澤「あ、いや……」
??「あ、俺は別に敵ちゃうから。むしろ、人間好きやし」
末澤「……そう、なん?」
小島「俺、小島健っていいます」
末澤「……小島?」
小島「そう。小島健。小島でええよ」
そう言うと、小島ははにかんだ。
小島「まあ、名前を教えたぐらいやから、ここに放置はしていかへんから、安心し?」
末澤「……ほんま?」
俺が目を見開くと、小島はしっかりと頷いて、手を握ってくれた。
そして、辺りを見渡し、懐から黄金色の飴玉を取り出した。
さっきの猫男の商人が押し付けてきた物とは、見るからに違っていた。
小島「俺は術が不完全やから、ちょっと道具に頼らなあかんくて……これ舐めてくれる?」
末澤「……違法なやつじゃないん?」
小島「ん?……ああ、ちゃうよ。てか、よう知ってんな」
小島は軽く目を見開いた。
俺は慌てて言い訳をする。
末澤「いや、なんとなく……うん、大丈夫なんかなって思っただけ」
小島「まあ、警戒心はあった方がええからな。一旦匂いは消す。君が俺らと同じ人型に見えるように」
末澤「……人型」
小島「そう。ちょっとの間だけやけどな」
脳裏に、さっきの青年が浮かんだ。
猫男の商人が言っていたように、この世界では人間の形をしたものを、そのまま人型と呼んでいるのかもしれない。
小島「口開けて」
小島の声に、素直に口を開ける。
その瞬間、甘さと清涼感が口いっぱいに広がった。












編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!