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第1話

第一ラウンド
14
2025/08/20 14:23 更新
朝焼けの薄光が山脈の稜線を染める頃、曙光織(あけぼの みおり)は白のロングコートを翻し、白のテンガロンハットを軽く傾けて山道を進んでいた。彼の白い髪と白い瞳は、まるでこの世のものとは思えないほど冷たく輝き、朝霧の中で幽鬼のように浮かんでいた。
背後には、鎖に繋がれた少女・玉緒(たまお)が、怯えた瞳で従っていた。彼女の華奢な身体は薄汚れた布を纏い、足元は裸足で擦り傷だらけだった。声を取り除かれた彼女は、沈黙の中で彼の背中を見つめることしかできなかった。光織の視線は彼女に一切向かず、ただ前方の山賊の根城を見据えていた。
光織は山賊を取り締まる特殊な役目を負う警官だった。この荒々しい辺境の地で、無法者たちが子供を密猟し、売りさばくという卑劣な犯罪が横行していた。その首魁、アレオパギタを捕らえるため、彼は単身この山に乗り込んでいた。
玉緒は震える手で鎖を握り、光織の背中を見つめた。彼女は光織の「武器」だった。生まれながらにして呪術的な力で「武器」に変形する能力を植え付けられた奴隷であり、光織にとって、彼女は人間ではなく、戦うための手段に過ぎなかった。
山道の先に、粗末な砦が現れた。木と石で雑に組み上げられたその場所からは、酒と汗の臭いが漂い、哄笑と怒号が響いていた。アレオパギタの根城だ。光織はコートの裾を軽く払い、玉緒を一瞥した。言葉を発さず、鋭い視線だけで彼女に変形を促した。
玉緒の身体が光に包まれ、変形が始まった。彼女の姿が液化し、金属の輝きを帯び、巨大な白い銃へと変わっていく。光織が片手で持てるサイズながら、銃身は禍々しい威圧感を放ち、表面には玉緒の意識が宿るかのような脈動が走っていた。光織は無表情でその銃を握り、引き金を軽く撫でた。声も言葉も交わさず、彼と玉緒の間に流れるのは冷徹な主従の絆だけだった。
砦の門が軋みながら開き、汚らしい身なりの男たちが現れた。その中心に立つのは、アレオパギタ――獣のような体躯に、顔中を覆う無精髭と、ギラつく目を持った男だった。彼は織を見てニヤリと笑った。「お前が噂の白い警官か。餓鬼共を奪い返す気で来たんだろ? だがよ、俺の縄張りで無事に帰れると思うなよ!?」
光織は一言も返さず、玉緒が変形した白銃を構えた。アレオパギタが斧を振り上げ、部下たちと共に突進してくる。瞬間、銃口から放たれた光弾が、山賊の一人を吹き飛ばした。爆音と共に地面が抉れ、悲鳴が響く。光織の動きは機械のように正確で、無駄がなかった。一発ごとに敵が倒れ、血と硝煙が山道を満たした。
「化け物め!」アレオパギタが咆哮し、巨大な斧を振り下ろす。光織は軽やかに跳び、白銃を再び構えた。玉緒の白銃は、彼女の沈黙の恐怖と服従が力に変わったかのように、正確無比な射撃を繰り返した。アレオパギタの斧が空を切り、彼の肩に光弾が命中。血飛沫が飛び、彼は膝をついた。
「貴様…何者だ…!」アレオパギタが呻く。光織は冷たく答えた。「ただの警官だ。君のような黒者紛いを始末するために存在する」
最後の光弾がアレオパギタの胸を貫き、彼は倒れた。砦は静寂に包まれ、生き残った山賊たちは恐怖に震えながら逃げ出した。光織は白銃を下ろし、玉緒を元の姿に戻した。彼女は地面に崩れ落ち、震える手で顔を覆った。声を出せない彼女の瞳には、恐怖と諦めが滲んでいた。光織は彼女を見ず、砦の奥へ進んだ。そこには、捕らわれた子供たちが怯えながら縮こまっていた。光織は無言で鎖を解き、彼らを解放した。子供たちは泣きながら感謝の仕草を見せたが、光織は一顧だにせず、玉緒に視線だけで命じた。立て、と。
玉緒はよろめきながら立ち上がり、光織の背中を見つめた。声を持たない彼女の瞳には、恐怖と諦め、そして微かな希望の光が宿っていた。いつか、この鎖から解放される日が来るのではないかと。
朝日が山を照らし、白い警官とその沈黙の奴隷は、血と硝煙の戦場を後にした。

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