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第1話

もう良い歳だから立ち読みとか出来る訳ないよね。
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2026/02/26 20:18 更新
某日、大江戸マート。
坂田銀時
「…はー、ワンピースはまだ完結してないのに銀魂は終わる終わる詐欺の果てやっと完結したと思ったら炎上篇で荒稼ぎと。よくやるねーワーさんナーさんも良く許したよ全く…。」

鼻を穿りながら穿つを仰ぐ様に独り言をぶつくさと述べる白銀髪の侍。
侍と言うにはあまりにもていたらくで、あまりにも、真っ直ぐな目をした男だった。

定員
「アンタ何時間そこで立ち読みしてんの?そろそろ追い出すよ。」

坂田銀時
「すみません店員さん!あと1ページなんです!モジュロの虎杖悠仁が!」

有無を問わず定員に投げ飛ばされる銀時。

坂田銀時
「ほべらっっっ!!!!
…いってて…銀さん今旬ジャンルの主人公だよ…?こんな仕打ちある??」

放り出された銀時は腰を持ち上げ摩った。そのまま再びぶつくさ呟いていれば、砂を踏み締める足音が。

土方十四郎
「なにしてんだ立ち読みハナクソ侍。」

聞き覚えのある声に銀時は半身で視線を飛ばした。

そこにいたのは真選組副長、土方十四郎だった。

坂田銀時
「何もしてねぇよ。ジャンプ読んでたら放り出された。今をときめいてる銀さんを放り出すあの店員を切腹させてくれ。」

土方十四郎
「アホか。今をときめいてんのは俺だって一緒だわ。」

坂田銀時
「うるせー腐った湯婆婆。銀さん達のお零れを貰ってった税金泥棒だろ。」

土方十四郎
「うるせえシリコン太夫。俺達が登場する事によって新規の銀魂ファンを獲得してんだろが。」

二人は額に皺を寄せ睨み合った。

坂田銀時
「ああ゛???お前のV字、ぱっつん前髪にしてやんぞ。」

土方十四郎
「なら俺はお前の毛根が死滅する様に呪い掛けんぞ。」

坂田銀時
「ああん?」

土方十四郎
「ああ???」

坂田銀時
「………。辞めようぜ。俺達ァ、顔合わせる度に歪み合いしかしてねえ。そろそろほら、完結もしたしちょっとくれぇは酒酌み交わしたりしません?」

土方十四郎
「………。」

沈黙を決め込む土方。銀時は答えを急かす事もなく、しっかり土方の方に身体を向けた。

坂田銀時
「銀さん、柄にもねぇ事言ったんだわ。そう黙りを続けられっと小っ恥ずかしくなるんだけど。」

土方十四郎
「本当だな。柄にも無さすぎて最終回かと思った。…そうだなあ。……あと少しで見回りも終わる。いつものおばちゃんの所で良いか。」

坂田銀時
「最終回ならとっくに過ぎてんだよ。……おう。じゃあ後で。…。」

土方十四郎
「……おう。」

土方は紫煙を潜らせ背を向けた。

互いに慣れない会話、ぎこちなく歩けば銀時は先にいつもの飲み屋へ向かった。
カウンター席に腰掛ける銀時。

酒には手をつけず、大根の田楽を突いた。

女将
「銀さん銀さん、誰かと待ち合わせかい?珍しいね。銀さんが酒にも手を付けないなんて。もしかして…。」

坂田銀時
「いいや違う違う。そんな相手じゃねえさ、ただの腐れ縁だ。おばちゃんも知ってる野郎だよ。」

女将は察した様子でやわこく微笑みを溢した。
数分談笑を交わしていると店の引き戸が滑り、暖簾を潜る土方の姿。

土方十四郎
「よお。」

坂田銀時
「ん、早かったじゃねえか。」

銀時の隣の椅子へ腰掛ければ注文する間もなくサービスだと言って女将が熱燗を二人の間に置いた。
小さなお猪口に一本の酒。土方は熱燗を摘むと尺をする様に銀時の方へ熱燗の口を向けた。

坂田銀時
「有難う。…しっかし変な風の吹き回しだ。てっきり来ねえもんかと思ってたよ。」

土方十四郎
「嗚呼…いや…、たまにゃ良いだろう。こう言う機会もよ。」

二人の猪口には酒が注がれ、縁を重ねて乾杯を。

互いに口に運ぶ酒はどうにも美味く、小さく溜息を付いた。
二人の間に暫く沈黙が走る。

面と向かって話す機会は少なく、ましてや何も無い平和な時にこうして酒を酌み交わすのも珍しい。

馬が合わない、犬猿、そう言った仲ではあるが

互いに歩んできた岐路はそう違わない。

口を開いたのは土方だった。
居酒屋の喧騒に紛れ、天井に煙を吐き出した。

土方十四郎
「……万事屋は…いくつになった。」

坂田銀時
「何その親戚のおじさんみたいな質問。」

土方十四郎
「うっせえよ。俺がジジイならお前もジジイだ天パ。」

坂田銀時
「ああ???…あー、……30、」

土方十四郎
「……嗚呼、」

突っ掛かるといつもみたく取っ組み合いになり埒が開かない。口を慎んだ様に酒を一口運んだ銀時はポツリと呟いた。

坂田銀時
「何。銀さんもう三十路なんだよ。言わせないでくれる??つか…お宅も同い年だろ。」

土方十四郎
「まあ…な。…俺な、万事屋。……見合いの話が来てんだ。もう良い歳だからって、とっつぁんが持ち掛けて来た。」

坂田銀時
「……ふうん…。相手は。」

土方十四郎
「とっつぁんの娘だよ。えらく俺を気に入ったらしい。」

銀時は変わらず酒を口に運んだ。

坂田銀時
「だから今日来たのか土方。俺に何か言って欲しかったのか。お前、武州に残した女を未だに忘れちゃ居ねえだろ。」

田楽の爪楊枝を口で弄びながら核心を突く様な一言に、土方は黙り込んだ。

坂田銀時
「…当たり、か。……良いんじゃねえのか。忘れられなくても。ミツバ…だっけか。その人もおめーに幸せになって欲しいってのは根底として変わんねぇだろうし。」

土方十四郎
「………。…俺は…。」

喧騒が何も聞こえなくなる程、二人は互いに集中していた。銀時は横目で土方を眺めた。気紛れで誘った飲みの席でまさかこんな相談事をされると思ってもおらず。

ただの気紛れで来る気になったとは思っていなかったが、こんな重役を担うなんて思いもよらなかった。
土方十四郎
「…俺ぁ……なんでお前に打ち明けたのかも分からねえ。近藤さんにも話してねぇんだ。…アホ臭いが、お前なら何か答えが、出るかと思ってな、」

銀時は黙って耳を傾けた。
そうやって頼られるのは、悪くない気がする反面、形容し難い不安定な感情が前に出そうになってしまいそうになるから。

坂田銀時
「俺は広辞苑でもなんでもね〜よ。俺は未完成だ。お前もよく知ってるだろ。掛けて足りない部分を、アイツらが補ってる。…そうだな、お前を補ってるのはゴリラや沖田、真選組、真選組であるお前、だけか?」

土方十四郎
「たまにお前は核心を突くような言葉を言いやがる。そんなところも気に食わねえ。」

坂田銀時
「っはは、そりゃど〜も。」

土方十四郎
「副長と言う俺自身も、俺を補ってる、そう言いてえのか。」

坂田銀時
「実際のとこ、そうだろ。」

土方十四郎
「…違えねえ。」

頬が少し色付きだす二人。熱燗を飲み干すと女将に同じものを一つ頼む土方。今度は銀時が尺をすれば曇る顔をする土方の方に身体を向けた。

坂田銀時
「何がお前の心を引っ張ってる。女だけじゃねえ。真選組だけじゃねえ。他に何が足を引っ張る。」

土方は険しく顰めた眉をぐっと戻し、横目で銀時を眺めた。
土方十四郎
「分からねえ。…分からねえが、何故か、何故か知らねえが、縁談の話が来た時、真っ先に浮かんだのはてめえのアホ面だった。」

銀時は口に運んでいる途中の猪口を止めた。

何故に自身を思い出したのか分からない。

それが土方の足を止めた理由なら、知りたくなった。

坂田銀時
「……つまりなんだ、俺に惚れてるとでも言いてえのか。」

土方十四郎
「それが分かってんなら苦労はしねえ。」

坂田銀時
「ファイナルファンタジー現象でも起きてんのか。鬼の副長さんが俺を?マヨネーズに餡子混ぜるくらい無いだろ。」

土方十四郎
「それは俺も願い下げだ。マヨネーズを猫の餌にすんじゃねえ。」

坂田銀時
「だぁから、このノリすっと話が進まねえだろV字ハゲ。」

土方十四郎
「ハゲてねえよ腐れ天パ。…嗚呼…そうだな、…戻してえ。んなやりとりを求めに来た訳じゃねえ。」

坂田銀時
「お前のその感情は、俺を兄やゴリラと重ねて…って訳じゃねえのか。」

銀時は一口酒を運んだ。

土方十四郎
「お前があの二人に重なる事があったら進んで切腹するわ。その可能性だって考えたが、まだ妙に違和感があって、違えと…。」

坂田銀時
「で、俺に抱いてる感情が、好意なのかも知れねえ、と。」

土方十四郎
「・・・そうだ。」

坂田銀時
「生憎俺ぁ、そっちの気はねえぞ。」

土方十四郎
「嗚呼、充分過ぎる程に知ってる。」

銀時を横目で眺めていた土方は視線を合わす事も無く、口に酒を運んだ。

淡白な会話、何か行き詰まった感情を解ける術が欲しかった。

数時間そんな他愛も無いやり取りの末、結末は出終い。

坂田銀時
「おばちゃん、勘定。」

珍しく割り勘で卓上に置かれた現金。
二人は暖簾を潜り今朝の様に砂を踏み歩みを進めた。

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