第74話

#7 再開、マウンドの上で
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2025/07/29 00:13 更新
「ちょっとだけだよ……ほんとに、少しだけだから」

そう自分に言い聞かせながら、あなたの名字(漢字)あなたの下の名前(漢字)はマウンドに立った。
新品ではない、でも手入れの行き届いたグローブ。
握ったボールが、掌にぴたりと馴染む。

(——いつぶり?)

たぶん、もう1年以上。
野球から距離を置き、触れないようにしてきたあの感覚。
だけど、心と身体は驚くほど素直だった。

御幸がしゃがみ、構える。

「準備、いい?」

「……行きます」

風を切って、腕が振り下ろされる。

ビシィッ——ン!!

ミットが激しく音を立てる。
御幸の眉が動く。
後ろで見ていた春市や東条が思わず声を漏らす。

「うそ……今の、かなり速くない?」

「てかコントロールも……すごい」

バッターボックスに入った倉持が苦笑いを浮かべながらバットを構える。

「……ほんとに女子かよ。ちょっと手加減してくれないと、心が折れるわ」

あなたの下の名前(漢字)は無言で首を横に振った。

「手加減、しません。そういうの、嫌いなんで」

その言葉に、倉持がニヤリと笑った。

「だろうな!」

——再びピッチ。
ストレート、スライダー、時にチェンジアップも織り交ぜて、あなたの下の名前(漢字)の投球は見る者すべてを圧倒していく。

1年生たちはざわつき、三年の先輩たちでさえ神妙な顔をしていた。
そんな中、ひとり静かにマウンドを見つめていたのが、降谷暁だった。

(……やっぱり)

あのとき、自分が勝手に傷つけた彼女。
でも彼女は、今こうして“投げる”ことで、すべての答えを出してくれている。

(やっぱり……彼女は、ピッチャーなんだ)

最後の1球を投げ終わったあなたの下の名前(漢字)は、静かに息を吐いてミットを下ろした御幸に一礼した。

「ありがとうございました」

「……すげぇよ、お前。高校でちゃんと野球続けてたら、マジで今ごろ代表狙ってたんじゃね?」

ぽつりとそう言われ、あなたの下の名前(漢字)は笑った。
泣きたくなるくらい嬉しかった。

そのあと、グラウンドを離れようとした彼女に、降谷がそっと声をかける。

「……やっぱり、君のピッチング、好きだ」

あなたの下の名前(漢字)は立ち止まり、少しだけ戸惑ったように降谷を振り返る。

「……そんなの、初めて言われたよ」

「うん。僕も初めて言った」

「バカ」

——でも、その“バカ”には棘はなかった。
むしろ頬が赤く染まっていて、降谷は心臓の音が耳に届くほどドキドキしていた。

「また……投げてもらってもいい?」

その問いに、あなたの下の名前(漢字)はほんの一瞬だけ、目を伏せて。

「その時のバッターが、ちゃんとした覚悟持ってるならね」

言いながら歩き去っていく背中。
その姿を、降谷はただ真っ直ぐに見つめていた。

(甲子園に……また行きたい)

彼女に、マウンドに立たせる方法はまだ分からない。
だけど、彼女の夢を一緒に見ていく覚悟はできている。

——そして、遥の心にも小さな灯が灯る。

それはまだ“恋”とは呼べないかもしれないけれど。
確かに、誰かに“認められた”喜びと、心がざわめく感覚だった。

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