ある日、お母さんが居なくなった。
巷ではこれを「 親の蒸発 」というらしい。
確かに跡形も残らず消えていった現状にピッタリな表現だなー、なんて思っていた15歳。
父はお金を稼がないし、
少し溜まるとアルコールにお金が消えていく。
すこし早めに大人になることを強いられた私は
既に独りで生きる術を覚えていた。
『これでいいですか?』
「うん…もう少し強く、」
要望に合わせてやると
目の前の男性から温い吐息が漏れる。
薄暗い部屋に不釣り合いな年齢の男女が二人。
不規則な水音。私は彼を見下ろす。
生々しい性のリアルを目の前にしても、
今更何も感じたりしない。
夢と春を売ること。
稼ぐには若すぎる私には それしか無かった。
「ありがとう。はい、これお金ね。」
1万円が3枚。3万円。
指先でザラつきの感触を味わいながら、
静かに3枚の重みを噛み締めた。
・・・
〇✕坂。
知る人ぞ知る、グレーの穴場スポット。
フェンスにもたれかかりながらスマホを弄る。
出来るだけ自然に立ち止まる。
もし誰かに見つかっても言い訳出来るくらいに。
「……あなたの名字さん?」
若干の不信感が滲む声が
人混みに紛れて微かに耳に入る。
まさか。知り合いじゃありませんように。
私はパーカーのフードで緩く顔を隠した。
『……』
「すみません、ちょっといいですか?」
与えられた名刺は、
明らかに急ぎで製作しましたと言わんばかりの
低クオリティ。
こんなもん偽名に決まってる。
相手はL。……私は彼を落とせるの?
今更心配になってきた。
頭の面で勝てる気は一切しないし。
黒目がちな丸い目。
私の緊張が伝わらないように
あえて目を逸らさずにいると、
彼の視線が蛇のように絡みついて。
''怖い''
夜神くんにLを落としてほしいと言われたから
とにかく相手にしてもらう為に
『Lの秘密を知っている』と手紙を出したけど。
はっきり言ってノープラン。
馬鹿か。私は。
さっきの反応から女性耐性が低そうだと予想して、
とりあえずぶりっ子してみたが
彼の表情は固まったまま崩れない。
圧倒的に不信感が勝ってしまっているんだから
当たり前だ。
でも何故か、焦りはなかった。
経験則だろうか。
いける、そう思っていた。
遠くを見ている目。
あ、と思った。
店のすりガラスを通して
何らかの暗号を送りあっているらしい。
やることが陰湿で好きになれない。
その点夜神月の方がマシ。私は心の中で顔を歪めた。
Lは淡々と続けていく。
私は呼吸を崩さない。
睨むような、探るような、怒っているような。
とにかくLの感情は私に全集中している。
どうすればLの心を射止められる?
不信感をときめきが追い越せる?
その瞬間、目の前がぐらついた。
『__大人しくしろ!』
大の大人が3人がかりで私を取り押さえた。
突然の驚きでパニックになりかける。
ていうかパニックだ。助けて。怖い。
夜神月ほど賢くない私が
警察に捕まったらどうなってしまうんだ。痛いし。
好きでもない夜神月に
思わず助けを呼びかけたくなるこの場面。
私は……どうすれば、私は……
愛情と庇護欲と恋慕。
それらは一体何が違うのだろうか。
もし、Lが恋心を持たなくても。
ぐちゃぐちゃにしてしまえば、
その感情がなんなのか分からなくなる。











編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。