第4話

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2026/01/10 12:45 更新
 



ある日、お母さんが居なくなった。


巷ではこれを「 親の蒸発 」というらしい。




確かに跡形も残らず消えていった現状にピッタリな表現だなー、なんて思っていた15歳。

父はお金を稼がないし、
少し溜まるとアルコールにお金が消えていく。

すこし早めに大人になることを強いられた私は
既に独りで生きる術を覚えていた。





『これでいいですか?』

「うん…もう少し強く、」





要望に合わせてやると
目の前の男性から温い吐息が漏れる。

薄暗い部屋に不釣り合いな年齢の男女が二人。
不規則な水音。私は彼を見下ろす。




生々しい性のリアルを目の前にしても、
今更何も感じたりしない。

夢と春を売ること。
稼ぐには若すぎる私には それしか無かった。





「ありがとう。はい、これお金ね。」




1万円が3枚。3万円。

指先でザラつきの感触を味わいながら、
静かに3枚の重みを噛み締めた。





・・・




〇‪✕‬‪‪坂。

知る人ぞ知る、グレーの穴場スポット。


フェンスにもたれかかりながらスマホを弄る。
出来るだけ自然に立ち止まる。
もし誰かに見つかっても言い訳出来るくらいに。



「……あなたの名字さん?」



若干の不信感が滲む声が
人混みに紛れて微かに耳に入る。

まさか。知り合いじゃありませんように。
私はパーカーのフードで緩く顔を隠した。



『……』

「すみません、ちょっといいですか?」
あなた
流河旱樹さん……
俳優と同じなんですね。


与えられた名刺は、
明らかに急ぎで製作しましたと言わんばかりの
低クオリティ。

こんなもん偽名に決まってる。
相手はL。……私は彼を落とせるの?

今更心配になってきた。
頭の面で勝てる気は一切しないし。

L
はい。


黒目がちな丸い目。

私の緊張が伝わらないように
あえて目を逸らさずにいると、
彼の視線が蛇のように絡みついて。


''怖い''

L
あなたさん…でしたっけ。
貴方、手紙の送り主なんですよね?……
あなた
…………


夜神くんにLを落としてほしいと言われたから
とにかく相手にしてもらう為に
『Lの秘密を知っている』と手紙を出したけど。

はっきり言ってノープラン。

馬鹿か。私は。

L
……イタズラ、
という解釈で宜しいですか?
あなた
………貴方が、エルっ?


さっきの反応から女性耐性が低そうだと予想して、
とりあえずぶりっ子してみたが
彼の表情は固まったまま崩れない。

圧倒的に不信感が勝ってしまっているんだから
当たり前だ。


でも何故か、焦りはなかった。

経験則だろうか。

いける、そう思っていた。

L
私がその質問に答えるメリットは?
L
………あなたの名字あなた。
20歳。高卒。キャバクラ勤務。

出身地区が夜神月と同じ。
もしかして知り合いですか?


遠くを見ている目。

あ、と思った。

店のすりガラスを通して
何らかの暗号を送りあっているらしい。

やることが陰湿で好きになれない。
その点夜神月の方がマシ。私は心の中で顔を歪めた。

L
今世間で何が起こっているか
知らない訳ではありませんよね。

Lが捜査に出てきた訳。
警察が何を追っているか。


Lは淡々と続けていく。
私は呼吸を崩さない。

L
貴方はどこまで知っていますか?
答えようによってはタダでは済みません。


睨むような、探るような、怒っているような。
とにかくLの感情は私に全集中している。

どうすればLの心を射止められる?

不信感をときめきが追い越せる?

あなた
………………
L
…………言い換えます、
L
『答えなくても』です 。



その瞬間、目の前がぐらついた。

『__大人しくしろ!』


大の大人が3人がかりで私を取り押さえた。
突然の驚きでパニックになりかける。

ていうかパニックだ。助けて。怖い。
夜神月ほど賢くない私が
警察に捕まったらどうなってしまうんだ。痛いし。

好きでもない夜神月に
思わず助けを呼びかけたくなるこの場面。

私は……どうすれば、私は……


あなた
エ…エ、ル……助けてっ…
L
…………私?
あなた
うんっ……エ、ルっ…怖い…


愛情と庇護欲と恋慕。

それらは一体何が違うのだろうか。

もし、Lが恋心を持たなくても。

ぐちゃぐちゃにしてしまえば、
その感情がなんなのか分からなくなる。

あなた
(判別なんて させない)

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