第3話

第3話 [いつかの約束]
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2025/08/04 13:56 更新
それは、雨上がりの夕方だった。
屋上は濡れていて、ベンチに腰かけることはできなかったけど、ふたりは傘を持たずに立っていた。
潮の香りと、どこか草のにおいも混じったような空気。
あなた
今日、話したいことがあって……
あなた は、言葉を選びながらゆっくり切り出した。
晶哉は黙って頷いた。
ただ聞くという姿勢が、彼らしかった。
あなた
私ね、心臓が悪いの。
もう限界に近くて……移植を待ってるの……。
でも、見つからなくって……。
言葉にした瞬間、胸がひどく苦しくなった。
この“秘密”は、誰かに話すたびに、自分の現実を突きつけられるようだった。
晶哉は驚いた様子も見せず、ただまっすぐあなたの目を見た。
晶哉
晶哉
ずっと……ひとりで抱えてたんですね……。
その一言に、涙が滲みそうになる。
あなた
もう、待っても無駄かもしれないって思ってる。
誰かの命が終わらなきゃ、私には生きる順番が来ないって……。
だから……、それを“望んでる”自分が嫌で仕方なかった……。
晶哉
晶哉
それでも、生きてほしいと思ってる人がちゃんとここにいるよ。
晶哉の声は、静かでやさしかった。
あなた
……あなたは?
あなたは、尋ねた。
あなた
病気、治らないんでしょ?
晶哉
晶哉
うん、治らない。
でも、生きてる今を大事にしようと思ってる。
あなたさんに会えて、それが初めて“ちゃんと意味のある時間”だって思えた。
海風がふたりの髪を揺らす。
しばらく沈黙が続いた。
あなた
もし……
あなた がぽつりと呟く。
あなた
もし、私が移植を受けて、元気になれたら……
晶哉
晶哉
うん
あなた
そしたら、一緒に……どこか行こうよ。
海でも、街でも。
どこでもいいから。
“退院したら”じゃなくて、“一緒に行こう”って言える未来が欲しい
晶哉は笑った。
とても温かい、そしてほんの少しだけ切ない笑顔だった。
晶哉
晶哉
じゃあ、約束ですね。
どこへでも、連れていくよ
あなた
本当に?
晶哉
晶哉
本当に。
ふたりの指先が、そっと触れ合った。
それは手を繋ぐにはまだ遠く、でも心が寄り添うには十分な温もりだった。
あなた は思った。
この人に出会えたことが、奇跡なんじゃないかって……

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