KOJI,M
最近、ラウがすんごいソワソワしてる。
……そんな気がするのは、気の所為か?
前みたいに満面の笑みでめめや俺をからかってくることもなく、無邪気に話しかけてくるでもなく……なんか俺の方を気にするように見つめてる……なんで? え、俺なんかしたかな?
「ラウも、なんだかんだ言ってめめのこともお前のことも心配してるんだろうよ」
照兄はあんまり気にした様子もなくそう言うけど……なぁんか、引っかかる。
「なぁラウ!!」
「ひあっ!」
というわけで、強行突破してみることにした。
ラウは驚いた声を上げ、しおしおと俺に謝ってきた。
「ごめんね……」
「……なんでラウが謝ることがあるん?」
「だって、俺が二人を連れてきたからこんなことになったんでしょ……?」
「……それは違うと思うけどなぁ」
まだ、めめの人生を奪った人は見つかってないらしいけど、遅かれ早かれこうなってたんやったら、手を貸してくれる人たちに巡り合わせてくれたラウは天使通り越して神様にも等しいと思う。
ていうか、そんなことを気にしてたんか……。
「俺、めめと友達になろうって約束したの。本当は家族が欲しかったけど、家族は代償を払ってなるものじゃないって言われてね。だから、友達になろうって」
……色々突っ込みたいところはある。確かに家族は代償を払ってなるもんやないけど友達も代償を払ってなるもんやない。
「……ラウは、家族がほしいん?」
ラウはコクリと頷いた。
そう言えば、ここに来てすぐの時も、屍人たちを家族だと言い張ってたし、家族ごっこらしいことをしているようには見えた。その時俺は、歪で歪んでるって思ったけど、ラウは純粋に、家族という繋がりを求めてるみたいや。
「ふっかさんとか照兄は?」
「ふっかさんは俺の監視だし、岩本くんは……確かにお兄ちゃんとか、パパみたいだけど……でも、結局家族ってどんなのかわからないから、わかんない……」
「わからんことばっかりやなぁ」
思わず苦笑してしまったけど、ラウはホンマに子供みたい。見た目こそ20歳くらいの青年やけど、実際は俺の何倍も長い時間を生きてるけど、それ以上に、人間が生きながら学ぶことをあんまり知らんみたい。
なにもかもツギハギで作られてる、そんな気がする。
「家族、かぁ」
「俺はね、生まれた時から天使だったから親とか、家族とか、成長とか、そういうものがわからないの」
天使というのには二種類あって、人間から天使になる人と、生まれた時から天使の人がおるらしい。
生まれた時から天使の人っていうのは、生まれた瞬間から役割を与えられてそれをこなす。大人か子供かって言ったら大人として扱われ、愛情を持って育てられることも成長という概念自体存在しない。自分は後者の場合で、悲しい存在だとラウールは言う。
「構ってほしかったのかもね」
「ん?」
「だから、今ここにいるのかも」
ラウールが言いたいのは大罪どうこうの話やろか。ラウールが犯した罪とはなんなのか、気になってないわけではない。
「ラウはなんで堕天使になったんか……聞いてもええ?」
「んはっ♡ 大好きな康二くんに特別に教えてあげる」
RAUL
生まれたその時から、俺はずっとふっかさんについて働いていた。人間たちの魂の管理、制裁、いろんなものを見てきたけど、人間が生まれてから死ぬまでの一生が、俺にとっては興味の的だった。
それは、俺には得られないものだったし経験したこともないものだったから。
でも、時折親が子に見せるような"愛"を感じることがあった。
「ラウ?」
「……ふっかさん!」
そう、ふっかさん。多分、人間で言うと、ふっかさんはお母さんみたいな人。なんでかわかんないけどそんな安心感のある人だった。
「ふっかさんは……人間から天使になったんだよね?」
「そうだよ」
「人間ってどんなの? いいなぁ、俺にも親がいて、俺を愛してくれて……"生きて"いられたらなぁ……」
羨ましかった。成長というものが欲しかった。人間のように生きたいとずっと思っていた。そんな俺の言葉を、ふっかさんはどう思っていただろうか。
「……ある時ね、ぼーっとしてて人間の人生が記録された本を落としたの。その時、たまたま見つけちゃったんだ。……生まれながらにして天使のはずの、俺のページ」
「え?」
「そう、人間の記録しか、ないはずなのに、ほとんど白紙の俺のページを見つけてしまったんだ」
俺は、すぐにふっかさんを問いただして真実を知った。真実を知った俺は……全てを受け入れるのをやめて、荒んで、壊れて……そして……。
「俺は、自分のページとふっかさんのページを破り捨てたんだ。それで……堕とされた」
「……なんで、そんなこと、したん?」
「……ふっかさんが俺の未来を奪った。ふっかさんも自分の命を捨てた。あの時の俺は、それ以外の情報なんて入ってこなくて、ただ……酷いって。ふっかさんの言葉も、気持ちも、何もかも、どうでもよく思えちゃって……」
それでも、ふっかさんは俺を見捨てることはなかったんだ。俺が堕とされる時、監視を引き受けたのはふっかさんだった。なんでそうしてくれたのかはわからない。だけど……ふっかさんの優しさに甘えてここまで来ていたこともちゃんと自分でわかっている。
……破り捨てた俺の過去、もっとちゃんと見ておけばよかったな。なんて、そんな後悔があったり、なかったり……ね? 康二くんは、俺の罪を知った上でも優しく頭を撫でてくれた。












編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!