注意⚠️
・嘔吐、過呼吸表現
・本誌241話のネタバレ
時間軸:東卍結成前
看病:佐野真一郎
side場地
マイキーが、三途の口元を切り付けた。
三途の口元とマイキーの右手は血で赤く染まっていて、オレはただその光景を見ていることしか出来なかった。
よく晴れた日だった。
あの一件以来、時折その時の様子がフラッシュバック
することがあった。マイキーが三途の顔を傷付け、その後に無理やり「笑え」と命令する。その命令に三途は
笑う。その異様な光景が、脳内で再生される。
それを思い出した時は必ず体調を崩す。
症状はいつも違うけど、絶対過呼吸は起こる。
一度病院に行って検査してもらったけどどこも異常は無くて、心因性のものだって言われた。
その時は薬を貰って、家に帰った。
薬は、強い不安を感じた時に1錠だけ飲むこと。
常に持ち歩いておくこと。
無くなる前に必ず伝えること。
絶対に過剰摂取しないこと。
お袋とそう約束し、薬を飲むようになった。
今日はマイキーん家に来ていた。
理由はマイキーの爺ちゃんがやってる道場で稽古を
していたから。
稽古が終わった今、オレは離れにあるプレハブ倉庫に
来ていた。
真一郎くんがこの倉庫でバイクの整備をしているから。
今日は、真一郎くんのバイクショップは定休日らしい。
バイクを弄っている真一郎くんから少し離れた所に
座り、作業を眺める。
倉庫の中を見回す。工具や部品が置いてある棚、机の上の雑誌、所々に転がるスプレー缶、など。此処が作業場だということは明らかだった。
ふと視界に入った、先が折れた飛行機の模型。
マイキーが大切にしていた、コンコルドのプラモデル。
ハルチヨの口に傷が出来た、原因。
気付いた頃には、もう遅かった。
呼吸が狂う。
薬は手元にあった。あったけど、こうなってしまったらもう飲めない。
苦しい。怖い。息が、出来ない。
脳内で、映像が再生される。
マイキーを止めようとしたけど出来なかった自分、
ハルチヨの口に傷をつけたマイキー、口元に傷ができたハルチヨ。
駄目だ、このままじゃ呼吸が整わない。
息が出来ないなか、どうにか真一郎くんを呼ぶ。
…良かった、気付いてくれた。
真一郎くんに "たすけて" と、伝える。
真一郎くんが駆け寄ってくる気配。
その後に、抱きしめられる感覚。
トン、トン、と一定の感覚で、優しく背中を叩く感覚。
真一郎くんにそう促されて、背中を叩くスピードに
合わせて息を吐く。
短く吸って、長く吐く。
なんか、気持ち悪い。
そう思ったのは、過呼吸になってから数分後のこと
だった。
胃の辺りが、グルグルする。
多分吐く…と思う。
クイッと真一郎くんの服の裾を引っ張る。
裾は掴んだまま、反対の手で口元を押さえながら
答える。
目の前に置かれたゴミ箱。
その縁を掴んで、顔を近づける。
小さく嘔吐きながら、胃の中のものを吐き出す。
けど、鼻につく臭いで、吐き気が治まらない。
真一郎くんにそう言われたけど、顔を上げれそうにない。まだ吐き気が残ってる。
無理だってことを伝えたくて、首を横に振る。
コクリと頷く。
…ちゃんと、伝わったみたいだ。
突然、真一郎くんから問い掛けられた。
正直、具体的なことは分からなかった。
けど、早く気持ち悪いのを無くしたくて、問い掛けに頷く。
真一郎くんの姿が、オレの目の前から消える。
背中から伝わる体温。オレの背後に移動したことがわかる。暖かい…。
指が、下唇の上に置かれる。
小さく開いた口の中に、真一郎くんの指が入ってくる。
骨ばった真一郎くんの指が、どんどん奥の方へ進んでいく。それにつれて、少しずつ不快感が増していく。
気持ち悪い、苦しい、そんな思いが渦巻く。
舌の付け根あたりに、指の腹が触れる。
そのままグッと押され、舌がしなる。
指が舌の付け根を押しながら、さらに奥へ進む。
気持ち悪くて、苦しくて、涙が頬を伝う。
何かがせり上がってくる感覚と、口から指が抜かれる
感覚。
パタパタ、とゴミ箱に吐瀉物が落ちていく。
吐きすぎて、喉が痛い。
真一郎くんが、背中を摩ってくれている。
その行為に、少し安心した。
それから数分後、大分吐き気が落ち着いたオレは顔をゴミ箱から遠ざけ、いつの間にか横に移動していた真一郎くんの方に、身体を倒した。
ゆっくりと頭を撫でられながら問われる。
コクリと頷いて水をもらい、新しい袋に吐き出す。
その後に一口、水を飲む。喉を通るひんやりとした水が気持ちいい。
そこまで終わり、また真一郎くんが撫でてくれる。
撫でられるのが気持ちよくて、だんだん眠くなってくる。
そう言った真一郎くんは、オレを持ち上げる。
横抱きで。
にっ、と笑いながらそう言う真一郎くん。
横抱きのまま、端に置かれているソファへと連れていかれる。
ソファに着いて、座らされる。
真一郎くんは端の方に座る。
太腿を軽く叩きながら、真一郎くんが言う。
真一郎くんのお腹の方に顔を向け、膝枕の体勢で寝転がる。
オレの頭を優しく撫でながら、真一郎くんが聞く。
今までのことを、真一郎くんに話す。
─そう、思い出すのは昼夜問わず、オフクロが居ない時がほとんどだった。
だから、過呼吸になったら意識が落ちるまで耐えるか、口をタオルで押さえてオフクロに電話をかけ、声を聴きながら呼吸を戻すかだった。
だから…
"ありがとう" と、伝える。
髪を梳かすように、優しく撫でられる。
その行為から誘発された睡魔に身を任せるように、オレは眠りに就いた。
Fin──












編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。