《ラジオデーモン》その強さは圧倒的だった。
強いとは思っていたけど……あのヴァレンティノをここまで一方的に……。
唖然としていたオレに、アラスターが声をかけた。
言って腕を広げる。オレは迷わず駆け寄り、その腕の中に飛び込んだ。
ああ……ずっとすれ違っていたり、誤解していたりで、久しぶりのアラスターの感触……。
夢じゃないんだ! オレ、この腕の中に戻ってこられたんだ!
ああ! すっげえ嬉しい!
こんな幸せなことがあるなんて信じられない!
ただの《契約》じゃなくて、アラスターと本当に心から愛し合えるなんて!
オレたちはきつくきつく抱き合った。今までベッドの中で抱き合ってきたのとは全然違う。
アラスターの愛が、そのまま何よりも強く感じられる!
オレはこの《ラジオデーモン》を愛し、また、愛されている。
感動が強すぎて言葉にならなくて……オレも、アラスターも、それ以上の言葉はなく、
どちらともなく互いに唇を重ねた。
バアン!!!!
そして、オレは我に返った。
ここは、『天国』ではなく、『地獄』であることに。
咳き込んだアラスターの口から大量に血が溢れた。
ヴァレンティノ、いつの間に!?
瓦礫から立ち上がった奴の手には銃があり、こちらに銃口を向けていた。
アラスターが撃たれたのか!?
オレをかばって!??
オレはすぐに膝をつくアラスターに駆け寄った。
マイクステッキを支えになんとか倒れずに済んでいるアラスターは、血の気の引いた真っ青な顔だった。
抱き起そうとしてすぐにギョッとして手を引っ込めた。オレの両掌が真っ赤だ。もう、どこからアラスターの服で、どこから血の色なのかわからない……。
ヴァレンティノの銃と銃弾は天使の鋼でできている。いくらアラスターでも、こんなにひどい傷じゃ……。
アラスターはこんな時にまで、笑顔でオレを元気づけようとする。
勝ち誇ってヴァレンティノが高笑う。
オレはゆらりと立ち上がった。
目があった瞬間、
ヴァレンティノがビクリを身をすくませた。
グルルルル………!
オレは激怒していた。
これほど激しい憤怒にかられたことはない。
もう、満月も罪も寒さも呪いも……何も怖くない。
アラスターを失う恐怖に比べれば。
オレは死んで初めて、
ありのままのオレ自身を受け入れていた。
オレは両手を上げた。
アラスターの血でべったりと塗れた手のひらを。
そして―ーーーーーー、
オレは、両手についたアラスターの血を。
一滴残らず舐め取った。
オレは「愛する者の血肉を喰らう」という禁忌を自ら再び犯した。
この罪をアラスターに捧げる。
この力は愛する者を守るために使う。
オレは自分の中に封じていた《内なる悪魔》を解き放つ。
もう満月のように暴走させるのではなく、飼い慣らすのだ。
この……極上の《血》をもって。
《呪い》を力に変えて
腹を減らした怪物が覚醒する。
ああ……愛する者の血は、これほどに美味いのか………。
オレは罪人。飢えた狼。堕ちた邪悪な魂。
《青き暴食の悪魔》
ジジジジジ……… ガガガガガガガッ…………
オレの全身に、恐ろしいほどの魔力が溢れる。
オレの体が変化していく。
長い髪は青から赤く……しかし、髪の先端は黒く。
狼耳は長く伸びて鹿耳となり、短く角が生える。
銀色の牙は黄色く染まり、長い尻尾は短く赤くなり、
青い瞳は禍々しいラジオ針の形に歪む。
オレは高く咆哮を上げた。
アラスターもヴァレンティノも、突然「変身」したオレに驚愕している。
今のオレは、狼の悪魔でありながら、アラスターの特徴を色濃く残した姿だ。
ぐるるるるる……と小さく唸ってオレはラジオ針の目でヴァレンティノをにらんだ。
……実はこれ、摂取した血肉の量に変身時間が比例するんだよな……時間切れになる前にヴァレンティノを倒さねえと…。
オレは獣のように飛びかかり、ヴァレンティノに襲い掛かった。
前に戦った時は、ボロ負けしたほどにヴァレンティノは強敵だが、アラスターの血を得たオレは、メチャ強くなっている。
ヴァレンティノが次々に二丁銃を撃ってくるが、オレの敏捷性には敵わない。オレは獣のように縦横無尽に屋内を駆け回り、壁や天井を飛び跳ねて全く狙いを定めさせない。
短気なヴァレンティノはすぐに隙を見せた。オレは飛びかかり、奴の顔面を殴りつける。
伸ばしてきた腕を逆にとらえ、噛みつく!
オレはそのまま顎に力をこめ、関節と逆向きに顎を捻った! ポキンと簡単に、ヴァレンティノの腕を一本食いちぎってやった!
ヴァレンティノの絶叫がこだまする。………が。
すぐさまオレは距離を取ると、口にくわえていた腕を吐き出した。
……そうか。今の覚醒モードのオレは「愛する者の血肉」じゃないと喰えないんだ。
この《力》は、なんでもかんでも力を吸収できるチートではないらしい。
ヴァレンティノが大きく羽を広げ、空中へと飛び上がる。距離を取って遠距離で狙撃するつもりだ。
オレはすぐさま、自分の足元から黒い触手を召喚した。
触手はすぐさま、空中にいるヴァレンティノに巻き付いて動きを封じる。
驚愕するヴァレンティノ。オレは触手の上を駆け上がり、ヴァレンティノめがけて大きく爪をふるった。
オレの右手が、青い炎に包まれる。
オレは爪で深々とヴァレンティノの体を大きく斬り裂いた。
傷が瞬時に青く燃え上がり、ヴァレンティノの全身に燃え広がっていく。
ヴァレンティノの羽が青く燃え、凍って、砕けた……。
全身を凍てつかせながら、ヴァレンティノは力なく床に落下した。
ちょうど、アラスターの血の効力が切れ、変身が解けた。あれほど少量の血ならば数分がせいぜいだろう。
オレはアラスターに駆け寄った。アラスターはすでになんとか立ち直り、笑顔で出迎えた。
オレは傷に障らないように、そっとアラスターを抱きしめた。
互いに見つめ合い。
自然とオレたちは唇を寄せ―ーーーー。
なぜか、急に空間がホテルと繋がり、どやどやとお嬢たちがやってきた。
互いに無事を喜びあうも、オレは困惑した。
急に天井の辺りで金色の光が瞬いたと思ったら……六枚の翼を羽ばたかせ、誰かがゆっくりと降り立った。
お嬢が驚いて叫んだ。
パパ? ……ってことは……………。
オレは目を向いた。
な……なんたる僥倖!!!!
お嬢によく面影を映すりんごほっぺ。金色の髪、白い肌!小柄な体躯に堂々たる威厳を宿し、品格漂う純白の衣装。蛇とリンゴの意匠の帽子にステッキ。
かつて、大天使として天国に君臨しながら、地獄に堕とされた美しき《暁の明星》………。
はわわわわわわわわわ………………!!!!!!
カッコいい! まぶしい! 尊すぎる!!!
おっと? どうやらアラスターとルシファー陛下は仲が悪いらしい。
恐れ多すぎてアラスターの背中から離れられないオレ。
と、その時、ヴァレンティノがようやく身を起こした。さすがの暴君も、そこに地獄の王の姿を認めては、ブチ切れるどころか青ざめるばかりだ。
ひと睨みでヴァレンティノを黙らせる……。
か………カッケーーーーーー!!!!!
さすがお嬢の御父上様!!!
役者のように勿体ぶった仕草で、我らが地獄の王はおっしゃった。
続く












編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!