第13話

無理はダメ
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2025/12/14 09:00 更新
*******続き*******
それから数日。

救命の朝は、今日も容赦なく始まった。

あなたはみんなの前では相変わらず、
背筋を伸ばし、ニコニコと笑う。

けれど、それを見ている同期たちの胸には、
小さな違和感が積み重なっていた。

白石が、さりげなく声をかける。
白石恵
白石恵
「…ねえ、あなたの名字先生。最近ちゃんと寝てる?」
(なまえ)
あなた
「はい…!」
あまりに即答すぎて、
白石は一瞬、言葉を失った。

隣で緋山が、すっと視線を送る。
緋山美帆子
緋山美帆子
「“はい”じゃなくて、何時間?」
(なまえ)
あなた
「え、…えっと……」
緋山美帆子
緋山美帆子
「……はぁ」

緋山は腕を組み、溜息をつく。
緋山美帆子
緋山美帆子
「数字が出てこない時点でアウト。こないだも同じこと言ったわよね?」
(なまえ)
あなた
「……はーい、すみません」
緋山の言い方はきつい。けど、目は優しい。

藤川が苦笑いで口を挟む。
藤川一男
藤川一男
「あなたの名字さぁ、嘘つくの下手なんだから正直に言っちゃえよ」
(なまえ)
あなた
「う、嘘じゃないです!」
藍沢耕作
藍沢耕作
「じゃあ目の下の”それ”はなんだ」
(なまえ)
あなた
「…え」
藍沢耕作
藍沢耕作
「クマだろ?」
(なまえ)
あなた
「い、いやぁ…」
(なまえ)
あなた
「メイク…?かな」
緋山美帆子
緋山美帆子
「…はぁ?それは無理があるでしょ」
(なまえ)
あなた
「いや、その…」
あなたは目の下を指で触りながら、
言葉を詰まらせる。

白石が続けた。
白石恵
白石恵
「じゃあ…今日、朝ごはんは?なに食べた?」
(なまえ)
あなた
「ヨーグルト…」
緋山美帆子
緋山美帆子
「だけ?」
(なまえ)
あなた
「いや……それに、りんごとバナナ…」
緋山美帆子
緋山美帆子
「あのねぇ、ヨーグルトに入れたものを聞いてるんじゃないの。主食は?炭水化物は?」
(なまえ)
あなた
「……」
冴島が眉をひそめる。
冴島はるか
冴島はるか
「ちょっと、ちょっと。それじゃあ栄養、足りてなさすぎですよ」
冴島はるか
冴島はるか
「救命でそれは危険です」
藍沢耕作
藍沢耕作
「お前、倒れたいのか?」
(なまえ)
あなた
「いや、今日はたまたま、寝坊しちゃって、時間なかったからそうなっただけで……いつもは……」
言いながら、視線が泳ぐ。
白石恵
白石恵
「あなたの名字先生…」
やわらかい声だった。
だから余計に、居心地が悪くなった。
(なまえ)
あなた
「…あ、そうだ。ちょっと私、ロッカールームに忘れ物しちゃった。取ってきます」
そう言うと、
あなたは逃げるように部屋を出て行った。
白石恵
白石恵
「…あ、ちょっと…!」
白石が声をかけるも、もう遅い。
緋山美帆子
緋山美帆子
「……はぁ、逃げたね」
藍沢耕作
藍沢耕作
「逃げたな。」
藤川一男
藤川一男
「怒られる前の俺みたいだ」
冴島はるか
冴島はるか
「笑いごとじゃないですよ」
白石はそのやり取りを見ながら、
胸の奥に小さな引っかかりを残した。
白石恵
白石恵
(あなたの名字先生、大丈夫かな)
昼前。

あなたは担当患者のベッドサイドで、
モニターの波形を確認していた。
(なまえ)
あなた
「〇〇さん、呼吸…昨日より楽そうですね」
患者
「そうなんだよ。おかげさまで。あなたの名字先生がちゃんと診てくれてるからだな。ありがとう」
あなたはほっと息をついて笑った。
――この瞬間があるから、頑張れる。

つくづくそう思う。


しかし、
(なまえ)
あなた
(……っ、あれ、また)
ここ最近、視界の端が時々、ちらつく。
(なまえ)
あなた
(気のせい。…たぶん)
数回瞬きし、深呼吸。
(なまえ)
あなた
(大丈夫、大丈夫。患者さんのためなら、まだまだ頑張れる)
そこへーー
緊急コールが鳴った。

無機質なアナウンスが、救命センターに響く。

「救急搬送!交通外傷!意識レベル低下、血圧低下! 到着まで3分!」

空気が一気に張る。

緋山が真っ先に動いた。
緋山美帆子
緋山美帆子
「行くわよ」
(なまえ)
あなた
「はい!」


処置室。

ストレッチャーが勢いよく滑り込む。
緋山美帆子
緋山美帆子
「血圧60!脈、細い!」
藍沢耕作
藍沢耕作
「気道どうだ!」
白石恵
白石恵
「自発呼吸はあり、でも浅い!」
声が交差する。

あなたは止血用のガーゼを手に取り、
出血部位を圧迫しながら、白石の指示を拾った。
白石恵
白石恵
「あなたの名字先生、右腕ルート取れる?」
(なまえ)
あなた
「はい…!」
針を進める。
(なまえ)
あなた
「取れました!輸液繋げます」
白石恵
白石恵
「お願い…!」
テープを引きちぎる指が、わずかに震えた。
(なまえ)
あなた
(…え?)
一瞬手が止まる。
その違和感を、藍沢は見逃さなかった。
藍沢耕作
藍沢耕作
「おい、あなたの名字。どうした」
(なまえ)
あなた
「…あ、いえ、なんでもないです。すみません」
藍沢耕作
藍沢耕作
「ぼーっとするな」
(なまえ)
あなた
「…はい」
答えた直後。

ぐらり……床が傾く感じ。
(なまえ)
あなた
(あれ……?)
視界の端が、ふっと歪んだ。
(なまえ)
あなた
(……っ)
頭の奥が、熱い。
なのに、身体の芯は冷たい。

息が浅い。
喉もひりつく。
(なまえ)
あなた
「……」
血の気がさっと引く感じがした。
緋山美帆子
緋山美帆子
「ねえ、ちょっと。あなたの名字、顔色ーー」
次の瞬間、目の前が真っ暗に。
(なまえ)
あなた
(やば…)

——ガシャン!

処置室に、
金属トレイが床に散らばる鋭い音が響いた。
緋山美帆子
緋山美帆子
「え…」
その瞬間、
あなたの身体がふらりと前に崩れ落ちる。
藍沢耕作
藍沢耕作
「……っ」

反射的に伸びた藍沢の腕が、
床に倒れ込む寸前であなたを抱き止めた。
藍沢耕作
藍沢耕作
「……おい」
藍沢耕作
藍沢耕作
「あなたの名字、聞こえるか」
(なまえ)
あなた
「……」
返事はない。
呼吸は浅く、額には冷や汗。

藍沢はそのまま彼女を支えながら、首元に指を当てた。
藍沢耕作
藍沢耕作
(……脈はある、な)
三井は手を動かしながら、あなたの方を覗き込む。
三井環奈
三井環奈
「藍沢、状況は?」
冷たい声。
藍沢耕作
藍沢耕作
「呼びかけに反応ないです。脈は振れてます」
藍沢耕作
藍沢耕作
「おそらく、過労による失神…かと」
三井環奈
三井環奈
「過労? でも勤務は……」
言いかけて、三井は言葉を切った。
三井環奈
三井環奈
「……いや、話はあと。とにかく今は処置を優先させましょう」
瞬時に視線を切り替える。
三井環奈
三井環奈
「藍沢、それから緋山。そのままあなたの名字の処置を」
藍沢耕作
藍沢耕作
「はい」
緋山美帆子
緋山美帆子
「はい」
三井環奈
三井環奈
「こっちは私と、白石、藤川。引き続き患者対応進めるわよ」
白石恵
白石恵
「はい」
藤川一男
藤川一男
「はい」
処置室の中で、空気が二つに割れる。
藍沢耕作
藍沢耕作
「緋山、ベッドに上げるぞ。お前は足持ってくれ」
緋山美帆子
緋山美帆子
「了解」
__
藍沢耕作
藍沢耕作
「行くぞ、1・2・3」
緋山美帆子
緋山美帆子
「軽すぎ…」
思わず漏れた言葉に、自分で気づいて唇を噛む。
緋山はそのまま袖をまくり、カフを巻いた。
数字が表示される。
緋山美帆子
緋山美帆子
「血圧……90/60。やっぱり低い」
藍沢耕作
藍沢耕作
「点滴入れよう。栄養剤、それと脱水もありそうだな」
緋山美帆子
緋山美帆子
「了解、ルート取るわ」
藍沢耕作
藍沢耕作
「頼んだ」
藍沢はあなたの肩に手をかけ、静かに声をかける。
藍沢耕作
藍沢耕作
「おい、あなたの名字、聞こえるか。俺の手、握ってみろ」
だがーー
(なまえ)
あなた
「……」
やはり反応はない。

藍沢は聴診器を耳にかけた。
スクラブの裾から聴診器を差し入れ、心音を拾う。
藍沢耕作
藍沢耕作
「――……。」
藍沢耕作
藍沢耕作
「……ん?」
藍沢の眉が、わずかに動く。
藍沢耕作
藍沢耕作
「……」
緋山美帆子
緋山美帆子
「なに?」
聴診器を当てたまま、もう一度確認する。
規則的なはずのリズムが、ほんの一瞬、跳ねた。
緋山美帆子
緋山美帆子
「…どうかした?」
藍沢耕作
藍沢耕作
「……不整脈、出てるな」
一瞬、空気が張り詰めた。
緋山美帆子
緋山美帆子
「……え?」
藍沢耕作
藍沢耕作
「頻脈だけじゃない。ところどころ、リズムが飛ぶ」
緋山美帆子
緋山美帆子
「……っ」
緋山は咄嗟にあなたの顔を見る。
意識は戻らず、呼吸は浅い。
藍沢耕作
藍沢耕作
「……こいつ、持病は?既往歴は?」
緋山は一瞬、言葉に詰まる。
緋山美帆子
緋山美帆子
「……分からない。少なくとも、私は聞いてない」
藍沢耕作
藍沢耕作
「……」
藍沢は顔を上げ、視線を遠くに投げる。
藍沢耕作
藍沢耕作
「三井先生!」
三井環奈
三井環奈
「ん?」
藍沢耕作
藍沢耕作
「岩原の既往歴、何か聞いてますか」
三井環奈
三井環奈
「……いいえ。特には聞いてないわ。何かあった?」
藍沢耕作
藍沢耕作
「若干ですが、不整脈が」
三井環奈
三井環奈
「了解。念の為、ちゃんと確認して。そっちは任せるわ」
藍沢耕作
藍沢耕作
「了解です」
藍沢は視線を戻し、口を開いた。
藍沢耕作
藍沢耕作
「心電図取ろう。ただの過労性ならいいが……」
緋山美帆子
緋山美帆子
「だね。準備する」
藍沢耕作
藍沢耕作
「急げ」


モニター心電図の機械を引いて戻ってきた緋山が、
ふと藍沢の手元を見て目を見開いた。

ハサミ…✂️
緋山美帆子
緋山美帆子
「……え、ちょっと」
藍沢耕作
藍沢耕作
「前、開かないとだろ」
淡々とした声。
緋山美帆子
緋山美帆子
「いや、そうだけど…」
確かにそうだ。
スクラブは、前が開かない。

でもーー
藍沢耕作
藍沢耕作
「切るぞ」
緋山美帆子
緋山美帆子
「ちょっと待って……じゃ、じゃあせめて、私が」
一歩、前に出る。
藍沢耕作
藍沢耕作
「は?いいって。…お前はルートの続きをーー」
緋山美帆子
緋山美帆子
「いやいや、同期だし……ほら、一応、ね」
緋山美帆子
緋山美帆子
「あんたがやるのは……」
言いかけて、言葉が詰まる。

藍沢は手を止めず、視線も上げずに言った。
藍沢耕作
藍沢耕作
「なにを言ってる。今こいつは患者だ」
藍沢耕作
藍沢耕作
「これは、医療行為だ」
緋山美帆子
緋山美帆子
(…はぁ。そりゃそうだけど。配慮は必要でしょ)
緋山美帆子
緋山美帆子
(なんでそういうことが分かんないかな、……ったく)
視線を逸らさず、きっぱりと言った。
緋山美帆子
緋山美帆子
「分かってる。医療行為。そうよ?」
緋山美帆子
緋山美帆子
「でも私がやるに越したことないでしょ。女同士」
ハサミをひょいと取り上げる。
藍沢耕作
藍沢耕作
「そんなこと気にして——」
緋山美帆子
緋山美帆子
「いいから」
緋山美帆子
緋山美帆子
「藍沢。あんたは…あっち向いてて。すぐ終わらせるから」
一瞬、沈黙。

藍沢は眉をひそめたが、すぐに舌打ち混じりに言う。
藍沢耕作
藍沢耕作
「……分かった。じゃあ、早くしろ」
くるりと背を向ける。

緋山は小さく息を吐き、あなたの方へ向き直った。
緋山美帆子
緋山美帆子
(ほんとこいつ、鈍感で困る)
シャリ…

ハサミを入れる音が静かに響く。
スクラブが開かれ、緋山は素早く電極を貼っていった。

そして、貼り終えると、
すぐにタオルをかけ、肌を覆った。
緋山美帆子
緋山美帆子
「……はい、いいわよ」
藍沢耕作
藍沢耕作
「よし」
藍沢はすぐに振り返り、モニターに視線を移す。
藍沢耕作
藍沢耕作
「波形、出たな」
緋山美帆子
緋山美帆子
「……うん。たしかに、時々飛んでる」
藍沢耕作
藍沢耕作
「一過性の可能性が高いが……」
緋山美帆子
緋山美帆子
「……一応24時間取って、様子見たほうがいいわね」
藍沢耕作
藍沢耕作
「ああ。とりあえず点滴だけ入れて、病棟に移そう」
二人は手早く役割を分担する。

緋山が病院着を持ちに行き、
その間に藍沢が点滴ラインを整理する。  

着替えまで済ませると、
ストレッチャーに乗せ、処置室を出た。



緋山は歩きながら、あなたの顔を何度も確認する。
緋山美帆子
緋山美帆子
「……ねぇ、藍沢」
藍沢耕作
藍沢耕作
「なんだ」
緋山美帆子
緋山美帆子
「もし、これ……ただの過労じゃなかったら」
一瞬、言葉が詰まる。

藍沢は前を向いたまま、低く答えた。
藍沢耕作
藍沢耕作
「その時は、その時だ」
緋山美帆子
緋山美帆子
「……」


病室に到着。

ベッドに移し、点滴とモニターを再接続する。
機械音が一定のリズムで鳴り始めた。
藍沢耕作
藍沢耕作
「…よし」
緋山美帆子
緋山美帆子
「……」
ベッドサイドで、緋山はしばらく動かなかった。
あなたの手元に視線を落とし、指先をそっと整える。
緋山美帆子
緋山美帆子
(……はやく、目覚ましなさいよ)

ーーそのときだった。
(なまえ)
あなた
「……んっ、」
微かな声。
まぶたが、ゆっくりと開いた。


*****続く*****


作者より。

またかな〜り、
久しぶりになってしまいすみません🥹🥹

今回は、🍆さんからいただいたリクエストです!!
ありがとうございます💕

目が覚めてからは、まだ続き決めてないので、
何かアイデアとかあれば気軽にコメントください!

ではでは〜

プリ小説オーディオドラマ