第9話

同期会
1,294
2025/09/17 15:00 更新
*******続き*******


あの夜を境に、同期の空気は変わった。

それまではライバル心ばかりが先に立っていたのに、
あなたの下の名前が涙を見せたことで、
互いの距離がぐっと縮まった。


翌日からの勤務。

現場に出れば相変わらず緊迫しているが、
休憩室に戻ると、どこか柔らかい雰囲気が漂っていた。
藤川一男
藤川一男
「おい、あなたの名字。今日の挿管、まあまあだったじゃん」
藤川が軽口を叩けば、
白石恵
白石恵
「“まあまあ”じゃなくて“上手かった”でしょ」
白石が即座にフォローし、
あなたの下の名前が恥ずかしそうに笑う。

緋山もいつものきつい言葉の裏に、
どこか妹を見守るような視線を隠せないでいる。

藍沢は藍沢で、変わらず冷たく淡々としているのに、
その言葉が以前より棘を感じさせなかった。


こうして――
彼らはようやく「同期」として
ひとつになりつつあった。
数日後の夜。

珍しく全員が同じタイミングで上がれた日。
藤川一男
藤川一男
「……なあ、そろそろみんなで飲み行かね?同期会、これまで出来てなかったし」
藤川がぽつりと切り出す。
白石恵
白石恵
「藤川先生、ずっと言ってたもんね」
冴島はるか
冴島はるか
「確かにね」
白石が返すと、冴島も笑みを漏らす。
藤川一男
藤川一男
「たまにはいいだろ。な、藍沢」
藍沢耕作
藍沢耕作
「別に。俺はどっちでも」
素っ気ない返事をしつつも、断る様子はない。
緋山美帆子
緋山美帆子
「じゃあ決まりね」
緋山がさっさと荷物をまとめる。
緋山美帆子
緋山美帆子
「ほら、あんたも行くわよ」
そう言ってあなたの下の名前の肩を軽く押した。
(なまえ)
あなた
「…え、あ、はい!」
不意に名前を呼ばれ、
あなたの下の名前は慌てて返事をした。

こうして、フェロー5人と冴島――
はじめて全員揃って、街へと繰り出すことになった。
居酒屋

仕事を終えた人々でにぎわう店内、
奥の座敷に案内された。
緋山美帆子
緋山美帆子
「ほら、こっち座んな」
緋山にぐいっと腕を引かれて、
あなたの下の名前は端の席に押し込まれる。

テーブルの真ん中には枝豆や唐揚げ、
焼き鳥の皿が並び始め、
店員が大きなジョッキを次々と置いていく。
藤川一男
藤川一男
「じゃ、まずはお疲れさま!」
全員
「かんぱーい!」
ジョッキがぶつかり合い、泡がこぼれる。

全員が揃ってテーブルを囲むのは、
これが初めてだった。
ぐい、といく藍沢。
それに負けじと、緋山も白石も。

藤川は調子に乗って最初から日本酒に手を出し、
冴島は涼しい顔でビールを片手に笑っていた。


一方のあなたの下の名前は……

最初の何口かで、頬がほんのり熱くなった。
緋山美帆子
緋山美帆子
「……あんた、顔赤くなるの早すぎ」
(なまえ)
あなた
「え、…うそ」
(なまえ)
あなた
「まだ半分しか飲んでないのに……」
あなたの下の名前は恥ずかしそうに
ジョッキを両手で持ったまま俯いた。
藤川一男
藤川一男
「おいおい、弱っ」
藤川が容赦なく突っ込む。
藤川一男
藤川一男
「これから医者としてやっていくには、体力も酒耐性も必要だぞ!」
白石恵
白石恵
「……酒耐性は関係ないと思うけど」
白石が呆れたように返すと、
冴島も肩をすくめた。
緋山美帆子
緋山美帆子
「……そういうとこでしか威張れないのね、藤川は」
藤川一男
藤川一男
「なっ……ひ、ひでえな」
藤川は顔をしかめるが、
あなたの下の名前は思わず笑いをこぼした。
(なまえ)
あなた
「あ、いや、でも……お酒は好きなんで……!もっと飲めるようになりたいです…!」
藍沢耕作
藍沢耕作
「お前は、何を言ってんだ」
藍沢はクールに言い放つ。
藤川一男
藤川一男
「ほら見ろ、本人もそう言ってることだしさぁ……
藤川一男
藤川一男
「ま、しょうがねぇ。俺がお前を鍛えてやるよ…!」
(なまえ)
あなた
「……はい、お願いします…!」
緋山美帆子
緋山美帆子
「何言ってんの……そういうのは、別に鍛えるもんじゃないでしょ」
緋山が鼻で笑いながらも、
あなたの下の名前のグラスにさりげなく水を注ぐ。

その後も、どんどんお酒が運びこまれ、
和やかな雰囲気で会話が広がった。
藤川一男
藤川一男
「でもさ、こうやって同期で集まれるのっていいよな。現場にいるとさ、余裕なさすぎてまともに喋れないし」
冴島はるか
冴島はるか
「ほんとそうですね」
白石恵
白石恵
「さっきの現場だってギリギリで……」
緋山美帆子
緋山美帆子
「あーもう、飲み会でまで仕事の話はナシ! せっかくの酒が不味くなる」
緋山が割って入り、枝豆に手を伸ばす。
藍沢耕作
藍沢耕作
「別に不味くなる、ってことはないだろ」
緋山美帆子
緋山美帆子
「なるって。あんたみたいに医療バカなやつは違うかもしれないけどさー。私は今は色々忘れて、ただ楽しく飲みたいわけよ」
藍沢耕作
藍沢耕作
「お前なぁ……
白石恵
白石恵
「……まぁまぁ、ふたりとも」
藍沢と緋山がいつもの調子でやり合い、
白石が慌てて止めに入る。

見慣れた光景に、周囲は笑いに包まれた。
(なまえ)
あなた
(なんか、いいな……。楽しいな)
あなたの下の名前は心の中で
そんなことを考えながら眺めているとーー
藤川一男
藤川一男
「あなたの名字、ほら次はこれいってみろよ」
藤川がウーロンハイを手渡そうとする。
(なまえ)
あなた
「あっ、でも……私まだ、これ残ってるんで……」
藤川一男
藤川一男
「いいのいいの。どうせちびちび飲んでんだから減らないし」
白石恵
白石恵
「藤川先生、そんな無茶ぶりしないの」
白石がすかさず止めに入る。
藤川一男
藤川一男
「……あれ? もしかして白石、溺愛モードか?」
白石恵
白石恵
「…っ、別に!そんな言い方…しなくても」
緋山もにやりと笑い、わざと軽口を叩く。
緋山美帆子
緋山美帆子
「あんたは、いつも守られてていいわねぇ〜羨ましいわぁ」
(なまえ)
あなた
「……そんなんじゃ……!」
あなたの下の名前は照れくさそうに視線を落とす。
それを見て、緋山はさらに追い討ちをかける。
緋山美帆子
緋山美帆子
「ふふ。何、そんな顔真っ赤にしてんの。暑いの?」
(なまえ)
あなた
「…ち、違い…!」
緋山美帆子
緋山美帆子
「はいはい。じゃあしょうがない。あんたにはこれ、あげる」
緋山は自分の水が入ったグラスを、ガンっと差し出す。
(なまえ)
あなた
「え…でも、これ……
緋山美帆子
緋山美帆子
「あれ?いらないの?人がせっかく……
(なまえ)
あなた
「あ、いりますいります!」
あなたの下の名前は慌ててグラスを、
自分の方へ引き寄せる。
冴島はるか
冴島はるか
「緋山先生、そんなにいじめないの」
白石恵
白石恵
「そうよ、可哀想じゃない」
ふたりのやりとりを、
みんな微笑ましく見ていた。
藍沢耕作
藍沢耕作
「……ふっ」
藍沢も、小さく笑う。
(なまえ)
あなた
「緋山先生、おいしいです!ありがとうございます…!」
緋山美帆子
緋山美帆子
「は?ただの水でしょ?…あんた、何言ってんの?」
(なまえ)
あなた
「いや、でもーー」

時間が経つにつれて、
テーブルの空気はますますくだけていった。

緋山は声を立てて笑い、
冴島は「はいはい、うるさい」といいながらも
楽しそうにグラスを傾ける。

そして、ふとした間に緋山があなたの下の名前に視線を向けた。
緋山美帆子
緋山美帆子
「ねぇ、あなたの名字」
(なまえ)
あなた
「……はい?」
緋山美帆子
緋山美帆子
「そろそろ敬語やめてくんない?」
あなたの下の名前の手がぴたりと止まった。

持っていたグラスを机に置き、
目を丸くして緋山を見る。
(なまえ)
あなた
「えっ……け、敬語ですか?」
あなたの下の名前がしどろもどろになった瞬間、
藤川が身を乗り出した。
藤川一男
藤川一男
「そうそう!俺もずっと思ってた。お前、なんで俺らに敬語なの?」
(なまえ)
あなた
「だって、それは……」
緋山美帆子
緋山美帆子
「それは…って、何なのよ?ずっと“です”“ます”って、他人行儀すぎじゃない?」
(なまえ)
あなた
「いや……
白石恵
白石恵
「そうよ、私たちは同期。そろそろタメ口で話してくれたら、嬉しいな」
(なまえ)
あなた
「えぇぇ……」
あなたの下の名前は耳まで赤くなり、
グラスを握ったまま固まる。

そんな彼女を逃がすまいと、緋山が追い打ちをかける。
緋山美帆子
緋山美帆子
「ほら。試しにやってみ?」
(なまえ)
あなた
「や、やってみって……」
藤川一男
藤川一男
「緋山に、“それ取って”って言ってみ」
(なまえ)
あなた
「む、無理です!」
緋山美帆子
緋山美帆子
「はい、敬語アウト!」
テーブルの周りは一気に盛り上がる。
白石恵
白石恵
「あなたの名字先生〜! 頑張れ!」
冴島はるか
冴島はるか
「言っちゃえ、言っちゃえ」
藍沢耕作
藍沢耕作
「……ふっ」
あなたの下の名前は完全にうつむいた。
(なまえ)
あなた
「……ひ、ひやませんせい、それ……取って」
小さな声が、ざわめきの中に落ちる。
一瞬の沈黙。

そして――
藤川一男
藤川一男
「おお!」
白石恵
白石恵
「かわい〜〜!」
緋山美帆子
緋山美帆子
「……ふふ」
あなたの下の名前は両手で顔を覆い、
消え入りそうに笑った。
(なまえ)
あなた
「……すいません(汗)」
緋山美帆子
緋山美帆子
「ほら、また!」
(なまえ)
あなた
「……っ(照)」
必死に首を振るあなたの下の名前。

その姿に冴島は「可愛いなぁ」と、
思わず口にしてしまう。
藍沢もグラスを片手に、静かに笑っていた。
その様子に、緋山がニヤリと笑ってさらに追い詰める。
緋山美帆子
緋山美帆子
「じゃあ次は藍沢で。はい、言ってみ?」
(なまえ)
あなた
「ええっ!? な、なんで藍沢先生まで…もうやめてくださいよぉ」
緋山美帆子
緋山美帆子
「はい、また敬語! アウト〜!」
藍沢は無表情でジョッキを口に運びながら、
わずかに片眉を上げた。
藍沢耕作
藍沢耕作
「……別に強制はしないけどな」
冴島はるか
冴島はるか
「うわ、それが一番やりづらいやつ!」
白石が笑い、
藤川は「はいはい!じゃあ俺にも!」と身を乗り出す。

緋山があなたの下の名前に耳打ちする。
(なまえ)
あなた
「え、いや、それは……
緋山美帆子
緋山美帆子
「いいから、早く早く」
緋山はニヤニヤしてる。
(なまえ)
あなた
「……ふ、ふじかわ……ちょっと黙って……」
どっと笑い声が広がり、
藤川は胸を押さえ、大げさに倒れる。
藤川一男
藤川一男
「うわー、おい…!」
藤川一男
藤川一男
「緋山!余計なこと吹き込むなって」
緋山美帆子
緋山美帆子
「余計なことじゃないでしょ、事実でしょ?あなたの名字はよく分かってるね〜」
(なまえ)
あなた
「ちょっとー!緋山先生……!」
慌てるあなたの下の名前の髪を、緋山がくしゃっと撫でる。
緋山美帆子
緋山美帆子
「うん、やっぱかわいいわ」
(なまえ)
あなた
「か、かわっ……やめてください!」
あなたの下の名前はますます顔を赤くして俯いた。

それからというもの、
みんなの「からかいターゲット」は
完全にあなたの下の名前に集中した。
緊張と遠慮ばかりだった空気は、
もうどこにもなかった。

そこにあるのは、
年上の兄姉たちに可愛がられる妹――

そんな温度感だった。
*****続く*****

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