KAZUNARI
「今日こうして1から10組まで集まってもらったのは、文化祭の出し物を決めるためです。」
1から10組までの音楽選択の生徒、約100人が小体育館に呼ばれる。
1クラス30人で選択科目は3つだから10人ずつ分けられる計算になる。
そして10クラス分ということで100人。
しっかし人が多い。
目が回りそうだ。
雅紀もJもいないし知らない人ばっか。。。
「去年は音大目指してたピアノの上手い子がひとりで演奏してから、他のみんなで合唱やってたりしてましたよ。」
「え!それ良くないですか!」
「確かに!誰かピアノ弾ける人いないの?」
だんだんと周りが盛り上がってくる。
「そう言えば、一番最初の授業で何の楽器を演奏できるかアンケート取ってましたね。ちょっと今確認してくるのでみんなで他にもいい案を探しててください。」
そう言って駆け足で出ていく先生。
これ15分くらい潰れるやつじゃん。
先生がいなくなった途端にみんな友達のところに移動して喋ってる。
なんか邪魔になってる気がして壁側にでも行くことにした。
そーいえば俺、ピアノって書いた気がする。
選ばれてしまったらどうしよう。
まぁ、ピアノ弾ける人なんてゴミのようにいるんだから大丈夫だろう。
脳内で忙しく話し合ってると頭がパンクする音がする。
体の力が抜けてその場で転びそうになる。
「大丈夫?」
社交ダンスをしてる男女のようなポーズをとる俺ら。
支えてくれたメガネ男がもう一度心配そうに大丈夫かと聞いてきた。
「あ、うん」
「それにしても二宮よくフラつくよね。」
「え、なんで俺のこと知ってんの?」
「俺、10組の櫻井翔。選択科目も一緒だし体育でも結構関わりあるからそりゃ知ってるよ。」
「あー、そうだっけか。」
「うん笑 で、大丈夫なわけ?この前も体育でバタンしちゃったでしょ」
「あー、ただの貧血。大したことないって」
最近、新しく雑貨屋のバイトを始めてドタバタなんだ。
商品の置き場とか商品の特徴とか詳細を覚えないとでつい夜更かししてしまう。
そろそろ体調がヤバいなって思ってソレをサボると「覚えてこい」って先輩に怒られるし。
しかもお客さんの前で。
流石にそれはイヤで毎晩頑張ってる。
だからそのせいで最近は頻繁に倒れてしまう。
「iのみや、にのみや?」
「お、ん?」
「先生来たけど、続けられそ?保健室行く?」
文化祭正直どうでもいいし、放課後のバイトで倒れないためにも休んでおこうかな。
「保健室いくわ。櫻井ありがと」
「え、いや、いいんだけど着いてかなくて大丈夫?」
「うん平気。ありがと」
「はいよー」
「二宮くんどーした?」
「ちょっとだけフラフラするんで休ませてください」
「こっちのベッドでいいかな?体温測ってこれ書いたらまた呼んでね」
体調チェック表を書いてるとふと彼を思い出す。
櫻井、ゴールデンレトリバーみたいな顔してたな。
メガネの奥のつぶらな瞳がまさにゴールデンレトリバーに…
昔飼ってたゴールデンレトリバーのテオにそっくり。
「二宮っ、ごめん」
テオ…に似てる櫻井。
授業終わりに様子を見に来てくれたのかなって程度のテンションでいたら
急に「ごめん」なんて勢いよく謝ってくるもんだから驚いた。
「てか、なにがごめんなの?」
「それがさ──」
「は?まじで…?」
あの時間、
ピアノは一人演奏じゃなくて二人演奏することに決まったらしい。
それで弾ける人たちから二人厳選してやってもらうって。
で、ピアノを弾ける人が6人出てきてテストをしたらしい。
櫻井もその中のひとりで、しかも合格したらしい。
もうひとりはと言うと…俺らしい。
テストが終わり、櫻井と源という人がやることになったことに対して女子たちが反発したらしい。
その中のひとりが「二宮くんの小学の時の演奏見てみます?高校生のこの人達より上手いんだから。」そう言って先生に動画を見せたんだ。
(↑てかなんでそんなの持ってんだよ。怖っ)
そしたら先生が「やっぱり二宮くん」と。
「どーしてもお願い。」
「や、でも」
「選ばれなかった人達からしてみれば、二宮の事が羨ましくてしょうがないと思う。選ばれたからにはその人たちの分も頑張ろうよ?」
そんな目でこんな正論言われたら受け入れるしかないよ。テオ
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!