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第7話

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2025/11/03 10:49 更新
漣side





街は、いつもより少しだけうるさかった。





屋台の呼び込み、スマホを構える音、遠くで鳴るクラクション。





それら全部が、ひとつの膜になって、漣の耳を包み込む。








「……騒がしい」






声にならない呟きが、喉の奥で消える。




足元のアスファルトは、まだ昼の熱を残している。




ネオンの光が濡れた路面に反射して、揺らいで見えた。




それでも漣の歩調は変わらない。

まっすぐ、一定のリズムで。






通りの向こうで、誰かがスマホをこちらに向けている。


斧を背負った少女を撮ろうとする光。


けれど漣は目を向けない。






自分がどう映っているかなんて、どうでもよかった。







“退屈じゃなければそれでいい”——そう思っていた。







斧の柄を軽く持ち替える。







わずかに生じた風圧で、青い髪が頬にかかる。






その瞬間、何かが──変わった。








風の流れが止む。





音の膜が、ほんの一瞬、薄くなった。






漣は足を止めた。





視線の先、遠くのビルの屋上に、何かが“在る”気がした。



気配ではない。音でもない。



けれど、確かにこちらを見ている“点”がある。






周囲の雑踏がまた戻る。





信号の音。笑い声。油の匂い。




さっきまでと同じ街のはずなのに、何かが違う。






──視線の密度。






数多の目が向けられている中に、ひとつだけ異質な視線があった。





他のどれよりも鋭く、静かで、冷たい。





漣は顔を上げる。





視線の先には、夜の空気を切り裂くような月光。





その奥に、わずかな“光の反射”が瞬いた。





ビルの屋上、ガラスのように細い何か。





遠くすぎて、輪郭なんて見えない。



でも──それが「こちらを見ている」とだけは分かった。






目が合ったかどうかは、分からない。





ただ、心のどこかが少しだけざわめいた。





胸の奥の“退屈”が、ひと筋のノイズのように震えた。









「……」








言葉が浮かばない。


風が再び動き出す。


髪が揺れ、斧の刃がわずかに光を返す。






何も起きない。撃たれもしない。





それでも、どこかに“何か”が確かに存在していた。






漣はもう一度だけ、空を見上げた。





月の下で揺れる光は、もう消えていた。





「……今日は、少し面白いかも」





小さく息を吐いて、歩き出す。





人混みの中に再び沈む影。









彼女の足音は、誰にも気づかれない。








それでも確かに、夜は変わっていた。





“誰かがこちらを見ていた”という事実だけが、



彼女の胸の奥で、まだ微かに熱を持っていた。

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