鳴海side
街の喧騒。屋台の煙。
ネオンのちらつきとともに、若者たちはスマホを片手に笑い合っていた。
そんな中、ひとつの動画が、静かに──けれど確実に、拡散されていた。
駅前の電光掲示板は、彼女の存在を警告していた。
でも──SNSは、違った。
「やばすぎwwwあの斧の子マジで強い」
「強すぎて震える…推せる」
「笑い方怖いけど、なんかクセになる」
「こんな子、どこにいるの?会いたい!」
「これ絶対ただ者じゃない、次の動画待ってる」
「強い」「ヤバすぎ」「推せる」
刺激と狂気が混ざったその映像は、ある種の"美しさ"すら帯びて、広がっていった。
そしてその波は、ある場所にも届いた。
ビルの屋上。
夜の風が、彼女の髪をわずかに揺らす。
灰色のセミロング、黒いタートルネック。
その肩に無造作に掛けられたコートが、ビルの縁で翻る。
女──呪掻 鳴海は、無言でスマホの画面を見つめていた。
SNSに上がった、“あの映像”。
銃弾を跳ね返す反応速度。
骨を断ち切る一撃の重み。
何より──あの斧少女の、笑い方。
「……いいね」
静かに呟くその声は、乾いていた。
スマホ画面に映る動画を、鳴海はじっと見つめた。
映像の背景には、ぼんやりと浮かぶ赤い看板と、通りの角に立つ古びた街灯。
細かく拡大していくと、地面のタイル模様や、遠くに見える小さな公園のベンチまでも確認できた。
「……この街灯の形状は確か、あの通り特有のものだな」
鳴海は瞬時に情報を頭の中で整理し、地図アプリと照合する。
「角の建物の壁に貼られたポスターも一致……ここだ」
スコープを覗く瞳に、動画の中の少女が立つ場所が鮮明に映り込む。
「距離約2.8キロ、駅前の繁華街。逃げる気配はない」
冷静な声で呟き、ライフルの銃口をゆっくりと背中に向けた。
次の瞬間。
彼女は、スマホを片手で閉じ、スコープ付きのカスタムライフルを肩に担ぐ。
レンズ越しに捉えたのは──
雑踏の中を歩く少女の姿。
その肩には、昨日と同じ斧。
青髪。150cmほどの影。
警戒はない。けれど、どこか研ぎ澄まされている。
「反応速度は予測不能、でも……逃げる様子は、なし」
標的の動きに合わせ、鳴海はスコープの中心を少しずつ動かす。
「ちょっとだけ……試してみるか」
その声に、感情はほとんどなかった。
ただ一つ、あるとすれば──
興味。
それも、狂気すれすれの種類の。
ライフルの銃口が、少女の背にそっと合わさる。
トリガーにかかる指先は、まだ優しい。
──鳴海は撃たない。
今日は“観察”だけでいい。
だって──
「面白いおもちゃは、すぐ壊したらもったいないでしょ?」
風が吹き抜ける屋上で、彼女の口元だけがかすかに笑った。











編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。