第6話

5
128
2025/10/20 09:00 更新
鳴海side




街の喧騒。屋台の煙。



ネオンのちらつきとともに、若者たちはスマホを片手に笑い合っていた。






そんな中、ひとつの動画が、静かに──けれど確実に、拡散されていた。




駅前の電光掲示板は、彼女の存在を警告していた。





でも──SNSは、違った。





「やばすぎwwwあの斧の子マジで強い」

「強すぎて震える…推せる」

「笑い方怖いけど、なんかクセになる」

「こんな子、どこにいるの?会いたい!」

「これ絶対ただ者じゃない、次の動画待ってる」






「強い」「ヤバすぎ」「推せる」



刺激と狂気が混ざったその映像は、ある種の"美しさ"すら帯びて、広がっていった。






そしてその波は、ある場所にも届いた。




ビルの屋上。




夜の風が、彼女の髪をわずかに揺らす。





灰色のセミロング、黒いタートルネック。




その肩に無造作に掛けられたコートが、ビルの縁で翻る。





女──呪掻 鳴海は、無言でスマホの画面を見つめていた。





SNSに上がった、“あの映像”。






銃弾を跳ね返す反応速度。

骨を断ち切る一撃の重み。

何より──あの斧少女の、笑い方。







「……いいね」



静かに呟くその声は、乾いていた。




スマホ画面に映る動画を、鳴海はじっと見つめた。




映像の背景には、ぼんやりと浮かぶ赤い看板と、通りの角に立つ古びた街灯。




細かく拡大していくと、地面のタイル模様や、遠くに見える小さな公園のベンチまでも確認できた。






「……この街灯の形状は確か、あの通り特有のものだな」






鳴海は瞬時に情報を頭の中で整理し、地図アプリと照合する。


「角の建物の壁に貼られたポスターも一致……ここだ」





スコープを覗く瞳に、動画の中の少女が立つ場所が鮮明に映り込む。





「距離約2.8キロ、駅前の繁華街。逃げる気配はない」






冷静な声で呟き、ライフルの銃口をゆっくりと背中に向けた。





次の瞬間。





彼女は、スマホを片手で閉じ、スコープ付きのカスタムライフルを肩に担ぐ。





レンズ越しに捉えたのは──





雑踏の中を歩く少女の姿。






その肩には、昨日と同じ斧。





青髪。150cmほどの影。




警戒はない。けれど、どこか研ぎ澄まされている。






「反応速度は予測不能、でも……逃げる様子は、なし」




標的の動きに合わせ、鳴海はスコープの中心を少しずつ動かす。




「ちょっとだけ……試してみるか」





その声に、感情はほとんどなかった。





ただ一つ、あるとすれば──









興味。









それも、狂気すれすれの種類の。





ライフルの銃口が、少女の背にそっと合わさる。





トリガーにかかる指先は、まだ優しい。






──鳴海は撃たない。






今日は“観察”だけでいい。






だって──














「面白いおもちゃは、すぐ壊したらもったいないでしょ?」








風が吹き抜ける屋上で、彼女の口元だけがかすかに笑った。

プリ小説オーディオドラマ