第8話

第6話 お笑い芸人の養成所の日々2
83
2022/04/12 05:44 更新
洋子がお笑い芸人の養成所に入った4月
実は信忠も同じ養成所に入所していた

ただ同じタイミングで入所したものの、クラスが違ったため2人が顔を合わせることはなかった
今のところ

信忠がどうして芸人を目指すようになったのかと言うと、洋子と出会った日に起きた出来事が彼の考えを変えた

信忠はこれまで、借金返済のためだけに生きてきた
だがあの夜、バーで出会ったお笑い芸人との会話で気づいたのだ
あの芸人の言葉は腹が立つところもあったものの、どうして自分の人生を借金返済のためだけに遣わなければいけないのかと

とはいえ、今までお金を返すことと、生活をすることだけを考えて生きてきた信忠には、夢なんてものはなかった

自由、夢、希望、将来
そんなものは恵まれている一部の人間だけに与えられたもので、自分とは無縁だと思って21年間も生きてきたのだ

それなのに、今さら将来の夢を作っていいと言われても困る
そもそも、どうやって考えればいいのかもわからない
秋山 信忠
秋山 信忠
「……でも、どうせ夢を持つなら、お金になることがしたい」
今のペースで働いていれば、死ぬまでには借金を返せるだろう
だが、ただお金を使うだけの夢を持つことははばかられた
なぜなら、また借金を増やすだけの行為になりえるから

これまでさんざん色々なものを我慢してきたのに、たった一度の勘違いで、残りの人生をさらに厳しいものにしていいのか、という疑問もある
芸人さん
芸人さん
「1000万円って、意外と簡単になくなるよなー」
あなた
あの日聞いた、芸人の言葉が頭に響く
秋山 信忠
秋山 信忠
「そうだ。俺も芸人になればいいんだ。あんな男に出来るのなら、俺だってなれるはずだ。それで賞レースに出て、1000万円をもらえれば、借金も一気に完済できる」
そう思い立ったら、信忠はすぐにお笑い芸人の養成所について調べた
だが養成所に入るには、最初に70万円が必要だと書かれている

当然だが、そんなお金はどこにもない
新たに借金をするわけにもいかない
となれば、バイトを増やして70万円を貯めるしかなかった

そして1年が過ぎ、22歳になった今年、信忠はようやくお笑い芸人の養成所に入ることができたのだ

ただ、バイトを増やした1年間
信忠はただバイトをして小銭を稼いでいたわけではない
生まれて初めて夢ができたのだ
それを現実のものにするために、漫画喫茶でこれまで見ることのなかったお笑いライブを見てはネタの勉強をし、気に入った芸人のネタは全て文字起こしした

ボケの間合い、ツッコミの間合い、ピン芸人の間合い、コンビ芸人の間合い、トリオ芸人の間合い
全部を見比べ、どれが自分に向いているのかも勉強した

その中で、自分はコンビ芸人の方が向いているように思ったが、そのためには相方が必要になるし、賞レースで1000万円を手に入れても500万円しか手に入らないのはきびしいとかんじた

とにかく信忠は、新たにお金を賭けるということはせずに、それでも芸人と部隊の勉強を、お金を貯めながら行っていたのである

それは信忠の自信になっていた
だから、お笑い芸人の養成所に来た時、周りの人たちよりも自分の方が進んでいるのではないかとも思っていた、だが――
お笑い養成所の講師
お笑い養成所の講師
「秋山、声が小さい!」
秋山 信忠
秋山 信忠
「すみません!」
お笑い養成所の講師
お笑い養成所の講師
「秋山、声が大きすぎでうるさい! 間の声はないのか!」
秋山 信忠
秋山 信忠
「すみません!」
あなた
といった感じで、他の研修生と同じようにしごかれていた
いや、他の研修生に比べても劣等生と言ってもいい

信忠は社会人経験は長いが、研修生という立場は初めてだったし、高校にも行っていないため、団体行動が苦手だった
おかげで、周りの研修生と仲良くなることができず、お互いに切磋琢磨できる同期に恵まれず、1人でどうすればいいのかと悩む毎日を過ごすことになってしまったのだ
秋山 信忠
秋山 信忠
「それでも俺は……絶対にあきらめない!」

プリ小説オーディオドラマ