前の話
一覧へ
次の話

第1話

1.
40
2023/05/24 03:51 更新
 交番は、恐ろしくつまらないところだ。舞い込んでくるのは道案内、落とし物、探し物、迷子、落とし物、落とし物。みんなモノを落としすぎている。落ちても気がつかないモノなんて、最初から買うなという話だ。

大世古朋奈
あー。やっと解放された……モモばぁは話が長いからなぁ。うわ、もうお昼じゃないですか! 宇野さん、昼休憩にしましょう!
 交番の受付に立って近所のおばあさんと話し込んでいた俺のペア、大世古朋奈おおせこともながデスクに引っ込んできた。憧れの警察官になれて嬉しいのか知らないが、とにかく声がデカくやる気に満ち溢れている女だ。俺はこの女が苦手で、正直あまり関わりたくない。でもペアだから仕方がない。
宇野賢太郎
悪い。先に食べた。受付出とくから、大世古はここで休憩してろ
大世古朋奈
えー、また一人で食べたんですか? 今日一緒に当直ですよね? なるべく一人行動は慎んでほしいです
宇野賢太郎
……当直と一人行動は別に関係なくないか?
大世古朋奈
ペアなんだからもう少し歩み寄りたいって話ですよ
宇野賢太郎
俺は一人で充分だ
 睨めば怯むと思ったが、大世古は逆に睨み返してきた。気が強い女というのは可愛げがなくて憎たらしい。俺はため息をついてデスクのある部屋から出た。逃げたわけではない。相手にするのがバカらしくなったのだ。後ろから「もう。協調性がないんだから」とブツブツ言っているのが聞こえた。

 俺が警察官になったのは、市民を守りたいとか、正義の味方になりたいとか、そんな正義感から警察官になったわけではない。

 ──警察官、という国家権力が欲しかっただけ。

 今日は当直だ。俺にはやらなきゃいけないことがある。あの日、弟から届いたメッセージ。スマホを取り出してメッセージアプリを開いた。『宇野和彦かずひこ』とのやり取りをタップする。

『兄ちゃん』
『俺殺されるかも』
『ヤバい組織に捕まった』
『もうダメだ』
『ごめん兄ちゃん』
『俺を追い込んだ奴は』

 そしてその最後に届いたメッセージは『純也』だった。

プリ小説オーディオドラマ