前の話
一覧へ
< s h o s i d e >
夜に目がはっきりと覚め、
珍しく誰もいない病室をこっそりと抜け出した。
久々に飲んだ多量の薬。
腕に引いた赤い線は、
光に赤黒く照らされる。
……なんか、ダメな日やったんよね。
苦しくて仕方なくて。
逃げることしかできんかった。
ゆうくんに話して、
最低限の回数の許可を貰って、
少しは…、落ち着いたんやけど。
やっぱり寝れんくて、
心臓の鼓動は早くなり、
頭はふわふわと揺れる感覚に陥る。
腕は少し傷んで、
ただその痛みも忘れるほどに、
心はキリキリと傷を深める。
月に照らされる廊下の壁にそっと身を寄せ、
深く息を吐いた。
苦しい、
苦しい、
…苦しい、。
頭が何も考えられなくなって、
真っ白な浮遊感に襲われる。
聞き覚えのある声が耳に馴染み、
それに返答する力もない僕は、
ただ息を荒くして、
この場所にいることを証明することしかできなくて。
僕の名前を力を込めながら呼ぶ声は、
僕の心の荷物を少し拾ってくれた。
僕のことを優しく抱きしめて、
背中を擦りながら持ち上げてくれるゆうくん。
ただ理由も問いたださずに、
ずっと優しく大きな手で僕を温めてくれる。
あっという間に部屋まで運ばれて、
静かにドアを開けると、
小さな足音が部屋の中から響いてきた。
いむくんに勢いよく抱きつかれて、
少し体制を崩しかけながらも受け止める。
暖かくて僕を包み込んでくれる。
いむくんは、
表では太陽みたいに輝いとるけど、
…ほんまは、
月みたいに暖かくて優しい人やな、なんて思う。
「 唯一無二の " 親友 " だから 」
……そうやよね、
もう、僕は、
こんなにも大切な人に恵まれとるんやった、。
……かけがえのない、大切な人に。
…もう離れたあかんよ。
絶対にそばにいる。
大好きやよ。
ほんまに、大好き、。
……こんなにも僕のことを好いてくれてありがとう。
僕を心配してくれてありがとう。
僕を探してくれてありがとう。
大切だって口にしてくれてありがとう。
……僕も、めっちゃ大切に思っとる。
……やから、、
___これからもずっと、離れんといてほしい、な。
「 大好きやよ、大切な " 親友 " たち…… ! 」
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。