第3話

「寒さに負けた日」
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2026/01/10 11:00 更新






その日は、目が覚めた瞬間から寒かった。









カーテンの隙間から入ってくる光がやけに白くて、
空気もぴんと張りつめてる感じがする。









布団の中はあったかい。








というか、ここだけが生きられる場所。










「……無理」









小さく呟いて、
俺は布団に顔をうずめた。















起きなきゃいけない理由は、特にない。









今日はメンバーの個人仕事が入っている為、
仕事も各自で編集day。








まだ期限の余裕はあるから、急ぎの予定もない。









隣のやまとも、まだ寝てる。








なのに、起きるという選択肢が頭の中に存在しない。









「……寒い日は動かなくていいって法律、誰か作って」









当然、返事はない。
















隣を見るとやまとは布団にくるまって、
肩だけちょっと出して寝てる。








「……やま」









呼んでみる。









「……ん、」









返事はあるけど、目は開かない。








いつもの事。









それだけで少し安心する。









「……寒すぎる」









もう一回言う。









「……冬だからな」








半分寝た声。








「……今日、無理」









「……毎年そういう日あるよな」









「……今日は、その日。」








やまとは少しだけ体をこっちに寄せてくる。









それだけで、布団の中の温度が上がる。














本当はトイレにも行きたいし、喉も乾いてる。









でも。









布団の外は、敵。










「……動きたくないぃ」









正直な気持ちを言うと、
やまとがうっすら笑った気配がした。









「うん分かる」









「……やまとも分かるんだ」









「寒い日は、人をダメにする」









「……やまも?」








「…俺も。」












「……じゃあ、今日はダメな日。冬に負けた。」








「うん、そうだね」








やまとは、あっさり肯定する。















時間が、ゆっくり溶けていく。









スマホを見る気にもならないし、
テレビのニュースも、今は見たくない。








布団の中で、ただ呼吸してるだけ。








「……このまま一日終わらないかな」









俺が言うと、やまとは鼻で笑った。









「それは無理、笑」










「……じゃあ、昼まで」








「うーん」









「……じゃあ、昼過ぎまで」








「検討する」








そのやり取りすら、あったかい。















やまとが先に起き上がろうとしたとき、
俺は反射的にやまとの袖を掴んでた。









「……どこ行くの、」








自分でもびっくりするくらい弱い声。









やまとは、動きを止める。








「トイレ」








「……ちゃんと戻ってくる?」








「戻ってくるよ」








「………やまといないと、寒くなるじゃん」









「ほんとにすぐだから、ゆうちゃん待ってて?」








そう言いながらもやまとは、
俺の手を外さないでいてくれる。









「……ほら」








布団をめくって俺の肩までかけ直してくれる。









「…トイレ行ってくるね?」









「……うん」
















数分後。








やまとは本当にすぐに戻ってきてくれて、
布団に入る。









その瞬間、俺は無意識に寄っていった。









「……やまとの体、冷たすぎる」









「お布団の外寒すぎた。ありえない、まじで。」









「……だから言った」








「正解だったな」








やまとは寒そうに俺を抱き寄せる。









「……今日は、動かない日でいいよ」









「……ほんと?」









「ほんと」









その言葉だけで体の力が抜けた。
















昼前。








お腹は空いてるけど、それ以上に寒い。









「……ごはん」









「……どうしよっか」









「……布団の勝ち」








「………ですよね」








やまとは、少し考えてから言った。









「じゃあゆうたの代わりに俺が動く」









「……え、なんで…」









「大丈夫だから。ゆうたは布団に包まれてて。」









「……ごめん、」










「いいよ全然」









やまとは布団から出て、
コートを羽織るみたいな勢いで部屋着を着込む。









その背中を見ながら、
俺は布団をぎゅっと抱えた。









「……やまと」









「ん?」









「……ありがとう」











やまとは、振り返らずに言ってくれた。








「寒い日は、助け合いでしょ?」

















キッチンから音が聞こえる。








電子レンジの音、
カップを置く音。









俺は、やまとに言われた通りに、
布団の中で丸くなりながらその生活音を聞いてた。










「……幸せだな」









思わず、
口から出た。
















やまとが戻ってきてトレーを布団の横に置く。









「ほら、召し上がれ」









「……神。」









「大げさ」









「…ん…あったかい」










スープを飲むと体の芯に、じわっと染みる。









「…どう?……動けそう?」









「……それは無理」










「だよね、知ってた。」









やまとは俺の横に座って、背中を軽くさする。

















午後。









結局、俺は一歩も外に出なかった。









トイレも、
やまとに「一緒に行く?」って言われて、渋々。










戻ってきたら、即布団。










「……完全に、冬に負けてる」










「毎年の事だろ」











「……でも、今年は特に」









「理由、知ってる。」









「え、なに」










「……俺がいるから。」









その言い方が、
あまりにも自然で。










胸が、きゅっとした。















夕方。









窓の外が少し暗くなる。










「……今日、ほんとに何もしてない」











「しただろ。」









「なに」









「ちゃんと休んだ。」










やまとは、俺の頭を撫でる。









「寒い日は、それが一番大事」









「……そっか」










「そうだよ」

















夜。









布団に入ると、昼間よりさらに寒い。










俺は、やまとに寄る。











「…ゆうた……近い。」









「……寒いもん」










「しょうがないな、」










やまとは俺を抱きしめる。









「……動かなくていい日作ってくれてありがとう、」










俺が言うと、
やまとは小さく笑った。










「ゆうたが寒がりなの、俺がいちばん知ってるから。」










「……来年も?」









「来年も」









「……再来年も」









「何年でも」


















寒くて、動きたくなくて、世界が布団でできてる日。









でも。









その布団の中に一緒にいる人がいるなら。










それだけで、本当に十分だった。






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