その日は、目が覚めた瞬間から寒かった。
カーテンの隙間から入ってくる光がやけに白くて、
空気もぴんと張りつめてる感じがする。
布団の中はあったかい。
というか、ここだけが生きられる場所。
「……無理」
小さく呟いて、
俺は布団に顔をうずめた。
⸻
起きなきゃいけない理由は、特にない。
今日はメンバーの個人仕事が入っている為、
仕事も各自で編集day。
まだ期限の余裕はあるから、急ぎの予定もない。
隣のやまとも、まだ寝てる。
なのに、起きるという選択肢が頭の中に存在しない。
「……寒い日は動かなくていいって法律、誰か作って」
当然、返事はない。
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隣を見るとやまとは布団にくるまって、
肩だけちょっと出して寝てる。
「……やま」
呼んでみる。
「……ん、」
返事はあるけど、目は開かない。
いつもの事。
それだけで少し安心する。
「……寒すぎる」
もう一回言う。
「……冬だからな」
半分寝た声。
「……今日、無理」
「……毎年そういう日あるよな」
「……今日は、その日。」
やまとは少しだけ体をこっちに寄せてくる。
それだけで、布団の中の温度が上がる。
⸻
本当はトイレにも行きたいし、喉も乾いてる。
でも。
布団の外は、敵。
「……動きたくないぃ」
正直な気持ちを言うと、
やまとがうっすら笑った気配がした。
「うん分かる」
「……やまとも分かるんだ」
「寒い日は、人をダメにする」
「……やまも?」
「…俺も。」
「……じゃあ、今日はダメな日。冬に負けた。」
「うん、そうだね」
やまとは、あっさり肯定する。
⸻
時間が、ゆっくり溶けていく。
スマホを見る気にもならないし、
テレビのニュースも、今は見たくない。
布団の中で、ただ呼吸してるだけ。
「……このまま一日終わらないかな」
俺が言うと、やまとは鼻で笑った。
「それは無理、笑」
「……じゃあ、昼まで」
「うーん」
「……じゃあ、昼過ぎまで」
「検討する」
そのやり取りすら、あったかい。
⸻
やまとが先に起き上がろうとしたとき、
俺は反射的にやまとの袖を掴んでた。
「……どこ行くの、」
自分でもびっくりするくらい弱い声。
やまとは、動きを止める。
「トイレ」
「……ちゃんと戻ってくる?」
「戻ってくるよ」
「………やまといないと、寒くなるじゃん」
「ほんとにすぐだから、ゆうちゃん待ってて?」
そう言いながらもやまとは、
俺の手を外さないでいてくれる。
「……ほら」
布団をめくって俺の肩までかけ直してくれる。
「…トイレ行ってくるね?」
「……うん」
⸻
数分後。
やまとは本当にすぐに戻ってきてくれて、
布団に入る。
その瞬間、俺は無意識に寄っていった。
「……やまとの体、冷たすぎる」
「お布団の外寒すぎた。ありえない、まじで。」
「……だから言った」
「正解だったな」
やまとは寒そうに俺を抱き寄せる。
「……今日は、動かない日でいいよ」
「……ほんと?」
「ほんと」
その言葉だけで体の力が抜けた。
⸻
昼前。
お腹は空いてるけど、それ以上に寒い。
「……ごはん」
「……どうしよっか」
「……布団の勝ち」
「………ですよね」
やまとは、少し考えてから言った。
「じゃあゆうたの代わりに俺が動く」
「……え、なんで…」
「大丈夫だから。ゆうたは布団に包まれてて。」
「……ごめん、」
「いいよ全然」
やまとは布団から出て、
コートを羽織るみたいな勢いで部屋着を着込む。
その背中を見ながら、
俺は布団をぎゅっと抱えた。
「……やまと」
「ん?」
「……ありがとう」
やまとは、振り返らずに言ってくれた。
「寒い日は、助け合いでしょ?」
⸻
キッチンから音が聞こえる。
電子レンジの音、
カップを置く音。
俺は、やまとに言われた通りに、
布団の中で丸くなりながらその生活音を聞いてた。
「……幸せだな」
思わず、
口から出た。
⸻
やまとが戻ってきてトレーを布団の横に置く。
「ほら、召し上がれ」
「……神。」
「大げさ」
「…ん…あったかい」
スープを飲むと体の芯に、じわっと染みる。
「…どう?……動けそう?」
「……それは無理」
「だよね、知ってた。」
やまとは俺の横に座って、背中を軽くさする。
⸻
午後。
結局、俺は一歩も外に出なかった。
トイレも、
やまとに「一緒に行く?」って言われて、渋々。
戻ってきたら、即布団。
「……完全に、冬に負けてる」
「毎年の事だろ」
「……でも、今年は特に」
「理由、知ってる。」
「え、なに」
「……俺がいるから。」
その言い方が、
あまりにも自然で。
胸が、きゅっとした。
⸻
夕方。
窓の外が少し暗くなる。
「……今日、ほんとに何もしてない」
「しただろ。」
「なに」
「ちゃんと休んだ。」
やまとは、俺の頭を撫でる。
「寒い日は、それが一番大事」
「……そっか」
「そうだよ」
⸻
夜。
布団に入ると、昼間よりさらに寒い。
俺は、やまとに寄る。
「…ゆうた……近い。」
「……寒いもん」
「しょうがないな、」
やまとは俺を抱きしめる。
「……動かなくていい日作ってくれてありがとう、」
俺が言うと、
やまとは小さく笑った。
「ゆうたが寒がりなの、俺がいちばん知ってるから。」
「……来年も?」
「来年も」
「……再来年も」
「何年でも」
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寒くて、動きたくなくて、世界が布団でできてる日。
でも。
その布団の中に一緒にいる人がいるなら。
それだけで、本当に十分だった。












編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。