その日は自分でもよく分からないくらい、
朝から調子が違った。
体調が悪いわけじゃない。
眠いわけでもない。
ただ――
なんか、ふにゃっとしてる。
⸻
目が覚めて一番最初に思ったのは、
「……やま、いるかな。」 だった。
いつもなら目覚ましを止めて、ぼーっと天井見て、
それから起きる。
でも今日は、無意識に隣を探してた。
「……やま」
小さく呼ぶ。
返事はないけど、
気配はある。
その安心感だけで、
もう一回布団に顔をうずめた。
⸻
少しして、やまとが起きる音がした。
「……おはよ」
声、低い。
「……おはよぉ」
自分でも分かる。
声が、変。
やまとが一瞬止まった。
「……今の、なに」
「…おはよ………??」
「………語尾」
「……?」
無自覚だった。
⸻
やまとは布団から起き上がって、俺のほうを見る。
その瞬間、
やまとの眉がじわっと下がった。
「……今日、どうしたの」
「ん?なにが」
「ん〜…いや……」
言葉を選んでる顔。
「いつもより、……ちっちゃい」
「…ッちっちゃくない」
「態度が」
俺はよく分からないまま、
布団の端を掴んだ。
「……だって、まだ眠いもん」
「眠いと、そんな声になるっけ」
「なる」
たぶん、なる。
⸻
起きる気になれなくてそのまま布団に転がってると、
やまとが近づいてくる。
「……起きないの?」
「……やだ」
即答。
自分でもびっくりした。
やまとは、
完全に固まった。
「……今、やだって言った?」
「……言った」
「珍しすぎだろ」
「……だって」
理由は、特にない。
ただ、布団があったかくて、
やまとが近くて。
それだけで、なぜか動きたくなかった。
⸻
やまとは俺の横に座って、
しばらく黙ってた。
その沈黙が、なんか優しい。
「……今日さ」
やまとが、ぽつっと言う。
「赤ちゃんみたい」
「……は?」
「否定はしないんだな」
「してるじゃん」
「声に力がない」
俺は枕に頬をすりっと擦りつけた。
「……赤ちゃんじゃない」
「うん」
「……少しだけ、甘えたくなっちゃっただけ」
「それを、世間では赤ちゃんって言う」
「……やま、意地悪」
「意地悪じゃないよ」
やまとは、
俺の髪を撫でた。
「困ってる……かわいい」
⸻
朝ごはんの時間になっても、
なぜかいつもよりも全然シャキッとしなかった。
ソファに座って、
マグカップを両手で持つ。
「……ぁち」
「ゆっくりだよ、ゆうた」
「……うん」
一口飲んで、
ふぅって息を吐く。
やまとは正面に座って、
ずっと俺を見てる。
「……なに」
「いや」
「なに」
「……可愛すぎる」
「……それ、言わないで」
「言う」
即答だった。
⸻
パンをかじるのも、いつもより遅い。
ぼろっと落としそうになって、
やまとが慌ててティッシュを差し出す。
「ほら」
「んっ……ありがと」
その受け取り方も、
たぶん、いつもより素直。
やまとが、深くため息をついた。
「……今日俺、一日持つ気しない」
「なにが」
「………理性」
「……?」
俺は意味が分からなくて首を傾げた。
それを見て、
やまとが天井を仰ぐ。
「ほら、そういうとこ、、」
⸻
昼になっても、
調子は戻らなかった。
むしろやまとがいる安心感で、
さらに甘くなる。
ソファで並んで座ってると、
自然と距離が縮む。
「……やま」
「ん?」
「……くっついても、、いい?」
普段なら絶対に聞かない。
勝手に座るか、逆に距離取るか。
でも今日は聞きたかった。
やまとは一瞬、目を見開いてから小さく笑った。
「…どうぞ」
⸻
俺は、やまとの腕に体を預けた。
「……あったかいね」
「そりゃな」
「……落ち着く」
「……」
やまとが、何も言わなくなる。
でも腕に入る力が、少しだけ強くなる。
「………やま」
「ん」
「……なでて」
一瞬、時間が止まった気がした。
⸻
「……自覚ある?」
やまとが、
低い声で言う。
「…??なにが」
「今のゆうたの破壊力」
「……ない」
「だろうな」
そう言いながら、
やまとは俺の頭を撫でた。
優しくて、ゆっくり。
「……これが一日続いたら俺、過保護通り越しちゃう」
「……だめ?」
「だめじゃない」
即答。
「…ただ可愛すぎて俺が困っちゃうだけ」
⸻
午後。
俺はやまとが動くたびに目で追ってた。
キッチン行くと、ついていきたくなる。
トイレ行くって言うと、
「すぐ戻ってね」って言いそうになるのを
必死で我慢する。
「ねえやまと……俺、変?」
聞くと、やまとは少し考えてから言った。
「……変じゃないよ」
「ほんと?」
「今日は赤ちゃんモードなだけ。」
「……その言い方やだ」
「可愛いね」
「……」
⸻
夕方。
俺は、
やまとの服の袖を掴んでた。
無意識。
「……どうした?」
「……いなくなるかと思った」
「キッチン行くだけだよ」
「……でも」
「でも、なに」
「……戻ってくるって分かってても」
言葉にするのが難しかった。
やまとは、俺の手を包む。
「すぐ戻ってくるからね」
「……うん」
「ちゃんと、ここにいる」
その言い方が、すごく優しくて。
胸がじわっとする。
⸻
夜。
ベッドに入っても、
俺はやまとにくっついたまま。
「……今日のさ」
やまとが言う。
「赤ちゃんっぽいゆうたも、すごい好き」
「……ほんとに?」
「ほんと。」
「……やまとちょっと困ってたくせに」
「困ってるけど」
やまとは、
俺の額に軽くキスする。
「それ以上に、可愛くて、」
「守りたくて、」
「離したくなくなる。」
⸻
俺は少しだけ照れて、
やまとに顔を埋めた。
「……もし明日も、こうしたいって思っちゃったら?」
「明日?」
「赤ちゃん。」
やまとは、少し笑ってから答えた。
「そのときは、」
「俺が一日、ゆうたに付き合うよ。」
「……ほんと?」
「ほんと」
⸻
その約束が、
なんだか嬉しくて。
俺は、そのまま眠りに落ちた。
今日は、赤ちゃんみたいだったかもしれない。
でも――
それを、ちゃんと受け止めてくれる人がいるなら。
たまには、こういう日があってもいいなと思った。












編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。