昼休みのチャイムが鳴ると、
教室の空気が一気にほどけた。
さっきまでノートを取っていた手が止まり、
あちこちで椅子が引かれる音がする。
机を寄せる音、笑い声、
購買や食堂に向かう足音。
白鳥沢は静かな学校だと思っていたけど、
昼休みだけはどこも同じだ。
私はペンを置いて、
伸びをひとつした。
視界の端で、
何人かの女子がこっちを見ているのが分かる。
別に珍しくもない光景だった。
頭の中には、午前の授業なんて
頭に入っていないも同然だった。
代わりに浮かんで来るのはバレーボールのことだけ。
最近ノートの端にバボちゃんの落書きが増えた。
カワイイ。
目を奪われたあの瞬間を
どうしても間近で見たくて。
——— 絶対にあそこに入りたい
この思いだけで数週間は動いていたように思える。
監督のところへ行って、
「マネージャーをやらせてください」と頭を下げる。
断られる。
また次の日に行く。
また断られる。
その繰り返し。
普通なら、
そろそろ諦める頃なのかもしれない。
でも
誰に負けるのか、
自分でもよく分からない。
監督か、
部の空気か、周りの空気か
それとも自分自身か。
でも、
負けたまま終わるのは、
どうしても嫌だった。
廊下の窓から、
初夏の風が吹き込んでくる。
カーテンがふわりと揺れて、
光が床に落ちていた。
生憎にも、友達は今日は体調不良で欠席だったので
ひとりで食堂に行くことにした。
食堂に入ると、
人の声と匂いが一気に押し寄せてきた。
揚げ物の香り。
味噌汁の湯気。
トレーが当たる軽い音。
私は唐揚げ定食を取って、
窓際の席に座る。
トレーを置いて、箸を手に取る。
——— その時
横から声がした。
顔を上げると、
体育館で何度か見た同じ学年の男子。
赤髪を逆立てていて
背が高くて、
妙に楽しそうな目。
もう座ってんじゃん。
そう言うと、
彼は向かいに腰を下ろした。
名前だけ聞いて、
私は軽く頷く。
天童はトレーを置いたまま、
じっとこっちを見てきた。
その視線が、
なんだか不思議だった。
軽そうなのに、
どこかでちゃんと見てる感じ。
何を考えてるのか、
いまいち掴めない。
でも、
別に嫌な感じはしなかった。
唐突に言われる。
即答だった。
迷う理由がない。
天童は私の発言に少しだけ目を細める。
その言い方は軽いのに、
妙に確信があった。
私は唐揚げを一口かじりながら言う。
結構ゲラゲラ笑うタイプなんだ
どこにツボったかは分からないけれど、
プルプルと小刻みに肩は揺れていた。
でも本音だった。
天童は、
その言葉を聞いてにやっと笑う。
ニヤリと目を細めて
機嫌が良さそうにそう言う天童。
やけに軽い口調で、
まるで私が置かれている状況を楽しんでいるかのよう。
天童が少しだけ身を乗り出した。
その言葉は、
まるで決定事項みたいな響きだった。
お願いでもなくて、
励ましでもなくて。
ただ、
そうなるって知ってるみたいな声。
にやっと笑う。
やっぱり、
この人は読めない。
でも。
天童をはっきりと見て言う。
自然と声が出た。
そう言うと、
天童は満足そうに頷いた。
その一言が、
妙に胸に残った。
応援されたわけでも、
褒められたわけでもない。
でも。
“なる前提”で言われたことが、
少しだけ悔しくて、
少しだけ嬉しかった。
私は唐揚げをもう一口かじりながら、
心の中で小さくつぶやく。
今日の放課後も、
また監督のところに行く。
何回断られても、
関係ない。
負けるつもりなんて、
最初からなかった。
強いギャル!!頑張れギャル!!
天童の口調難しいよ( ; ; )













編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。