「他に、好きな人、いるんだ?」
別れた後、暫くして彼女は、友達に戻りたいと自ら伝えてきた
もう未練はないと伝えてきた
彼女の好きな人は、きっと僕の知らない人なんだ、そうに決まっているのに
「あら、あなたもよく知っているでしょ?」
なんでこんなにも、彼女の言葉が気にかかるのだろう
彼女と話すとなんで自分がぐらついて、分からない事ばかり増えるのだろう
「じゃあ、私帰るわ」
腕時計を見て、彼女はひらりと手を振り微笑んだ
「あ、うん、お疲れ様」
「お疲れ__あなたなら、分かるわよ
それだけ、ばいばい」
彼女が残した笑顔と言葉は僕の胸に焼き付いて、謎に満ちたまま離れなかった
僕なら、分かる___
何も彼女のことは、分からなかったけど、ひとつだけ分かったことがある
僕は彼女とうまく時間が合わなくて、
一人の時間が作れなくて、
自分勝手に振ってしまったけど
__だから彼女が友達に戻りたいというのなら、そうしようと思ったけれど
__もしかしたら、引き摺っているのは僕なのかもしれない
僕は、君の影をまだ追いかけているのかもしれない
僕は、____まだ、好きなのかもしれない
そんな、揺れる波だけ、
…わかったのは、それだけだった
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!