紫霊side
紅魔館のロビーの柱にもたれかかって、相棒の赤髪が先程出ていった玄関の方をぼーっと見つめる。
相棒の赤髪というのは、ご存知の通りルビーのことだ。
今日は依頼は入っていないと言っていたから、十中八九あのバカの喫茶店にでも行っているのだろう。
俺の相棒のルビーと金髪バカ…キラは、どうやら付き合っているらしい。
あいつは相変わらずバカなもんだから、この前紅魔館で食事会をしていた時うっかり口を滑らせていた。
それからは随分騒がしかった。
ただ、意外にも2人に奇異の目を向けるやつはいなかったのを覚えている。
流石は幻想の郷…幻想郷といったところか。
…でも
それを聞いた時から…俺の心は何故か、キラに対する嫌悪とルビーへの何かで埋め尽くされている。
想い人を横目に見て幸せそうな顔をするキラに虫唾が走る。
騒ぎ立てながら「俺のものだ」と言わんばかりに後ろからルビーに抱き着くキラに虫唾が走る。
俺の相棒に想いを伝えたキラに虫唾が走る。
バカな恋人をあしらいながらも、満更でもなさそうに頬を赤く染めるルビーが気に食わない。
俺と話していたのに、キラがキラがと言ってすぐそいつの元に向かうルビーが気に食わない。
俺の相棒のくせにキラのものになったルビーが気に食わない。
俺の方がルビーとの付き合いは長い。
それなのに…
…。
その時、突然この館のメイド長から大声で名前を呼ばれる。
はぁーっと溜息をつき、呆れたという顔で俺の方を見る。
全く悪びれていない様子の俺を見て、目の前の番犬は肩を落とす。
メイド長には目も向けず、そのまま俺は金髪のちびコウモリが目を輝かせて待っているであろう地下室に向かった。
紫霊side
地下の訓練場
目の前の幼い吸血鬼は、不服そうに頬を膨らましながら壁にもたれかかって座り込む。
しばらく間を置いて、フランが口を開く。
こいつが口にしたその名前に過剰に反応してしまい、目を見開いてフランを見つめる。
目の前のそいつは、見た目にそぐわない憂い顔を浮かべ天井を見る。
外の世界の少女漫画の読み過ぎだろうか。突拍子もないことを言い出すフランに、俺は思わず間抜けな声が漏れる。
これまた大人っぽい余裕そうな笑みを浮かべながら、口角を上げて俺の方に視線を移す。
ルビーに対する、あの得体の知れない思いは恋だったのか。
キラに対する、あのどうしようもない嫌悪感は嫉妬だったのか。
ルビーは俺の相棒なのに?
俺の方がルビーのことを好きなのに?
この世で1番ルビーのことを好きなのは俺なのに?
それなのに…
フランがその名前を口にした瞬間、自分の中の何かが切れ、衝動的にフランの顔のすぐ隣の壁を思い切り殴る。
目と鼻の先にあるその顔は、怯えた様子で俺のことを見つめている。
その瞳は恐怖のせいか、小刻みに震えている。
フランのその怯えたか細い声と、自らの拳から流れ出る血を見て、段々と頭が冷えていく。
おぼつかない足取りで、俺はこの部屋を後にした。
紫霊side
紫霊の部屋
仕事柄他人に情を移すなんてことなかったから、「恋」だと言われても、正直あまりピンときていない。
でも、今まで俺が暗殺者時代の任務の中で見てきた男女のあの煌めきと同じだと言うなら、納得はできる。
あいつが憎い。
ルビーの隣にいるあいつが。
どうにかしてあのポジションを、ルビーを奪い取りたい。
でもどうやって?
あいつを消せばいい。
そうだ。簡単な話。
隣がいなくなれば、俺はそこに行ける。
正真正銘俺はルビーの相棒だと、真にルビーの隣にいるべきは俺だと。
ルビーは俺のものだと。そう証明できる。
…
…
紅魔館のロビーには、重苦しい空気が流れていた。
一週間前、霊夢たちの仲間であり、ルビーの恋人であるキラが突如失踪したのだ。
普段より深く魔女帽子を被った魔法使い、霧雨魔理沙が口を開く。
右手を腰に当てたまま、霊夢はちらっと左側に目をやる。
その視界には、ソファに横たわって塞ぎ込んだ様子のルビーがいた。
そのすぐ側には、ソファの背もたれにもたれかかってルビーのことを心配そうに見つめている紫霊がいる。
紫霊がいくら話しかけても、ルビーは微動だにしない。
霊夢の言葉を遮り、紫霊は顔を伏せたまま続ける。
その時、ルビーが小さく口を開く。
何日も泣いていたのだろう。その声は酷く掠れている。
ルビーのその言葉を聞いて、紫霊は少し顔を曇らせる。
その時、今の今まで全く喋っていなかったキラの相棒、ザキが口を開く。
目を伏せたまま、震えた、でもはっきりと思いの籠っているその声で、ザキはそう告げた。自らにも言い聞かせるように。
真っ直ぐとした力強い目で、霊夢はそう言う。博麗の巫女としての強さがよく分かる。
霊夢は、自分の親友の目の下にある隈を気にしながらも、止めることはせず、自分も部屋に戻るため階段を昇って行った。
そのまま、ルビーと紫霊を除いた他数名も、各々の部屋に戻るためロビーを後にした。
全員がいなくなってからしばらくして、紫霊がゆっくり口を開く。
はぁ、と小さくため息をつきながらも、どこか愛おしそうな表情を浮かべて、毛布を取りに自分の部屋へ戻って行った。
ザキの部屋の前
ザキがしばらく寝泊まりする仮の自室に入ろうとドアノブに手を掛けた時、どこからともなく現れた咲夜に引き止められる。
ドアノブから手を離し、体ごと咲夜の方に向けそう聞く。
真剣な眼差しでザキのことを見つめる。
何か心当たりがあるように目を逸らすと、ザキはまたドアノブに手を伸ばし、咲夜と共に部屋に入っていった。
数日後。魔理沙のその叫びが紅魔館中に響き渡る。
かなり混乱しているのか、過呼吸気味になり途切れ途切れに言葉を発する紅葉を、魔理沙は背中をさすって落ち着かせる。
魔理沙の服を掴むその手は、小刻みに震えている。
紅葉のその言葉を聞いて、魔理沙も絶句し、どんどん顔色が悪くなる。
その時、正面にある階段から切羽詰まった表情をしたザキと咲夜が駆け降りてきた。
魔理沙の言葉を遮り、ザキは大声を上げて早口で指示をする。
魔理沙の疑問には答えず、いつの間にか寝ているレミリアとフランを抱えた咲夜が外に向かって走り出す。
壁にもたれかかって腕を組み、メイド長の次の言葉を待つ。
咲夜の想定外の返答に、ザキは思わず目を見開く。
表情1つ変えず淡々と告げる咲夜に、ザキは少しずつ険しい顔になっていく。
普段よりさらに低い声で、俯きながらメイド長を問い詰める。
それを聞かれると、咲夜は初めて答えずらそうに眉をしかめた。
ザキは覚悟を決めたように、顔を上げ咲夜の目を真っ直ぐ見つめた。
魔理沙が、不安そうな顔をしたパチュリーと小悪魔を連れて奥から走ってくる。
こういう時の冷静さと理解の早さは、流石、博麗の巫女と異変を解決し回っていた魔法使いといったところだ。
声は震えているものの、力強い意思の篭った目で咲夜を見つめる。
そんなところに、紅葉の芯の強さを感じる。
そうして咲夜たちは、紅魔館のロビーから消えた。
ザキが正面の階段から2階に駆け上がろうと振り向いた時、手すりを伝ってルビーがフラフラと降りてくる。
掠れた声を絞り出し、ルビーはそう答える。
まだ喋るのは辛いのだろう。ルビーは俯いたまま、無言で頷く。
そうしてザキがルビーのもとへ駆け寄る。
その時、少し顔を上げたルビーの目がザキの後ろにあるものを捉え見開かれた。
ザキが何事かと振り向いたその瞬間、紫髪の男の手に握られている血の着いたナイフで、ザキの首が掻っ切られ血が飛び散る。
床に倒れ込み、首を抑え紫霊を睨みつける。
相当深く切り込んだのだろう。ザキの首から流れ出る血が止まる様子は無い。
視線だけをザキに向け、自分の足元にいるその死にかけの人間を見下ろす。
紫霊の眼中には、もう虫の息となったザキなど微塵も映ってないのだろう。
恐怖に塗れた顔で茫然と立ち尽くしているルビーのもとに、紫霊はさっきとは別人のような柔らかい笑みを浮かべ近付く。
紫霊は愛おしそうに、軽く笑いながらルビーを宥める。
怒りを含んだその声を絞り出しながら、精一杯紫霊を睨みつける。
淡々とした表情で紫霊は理由を告げる。
ルビーが口にしたその名前を聞いた瞬間、紫霊は目の色を変えルビーを睨みつける。
すぐ目の前の人物から溢れ出るそのあまりの威圧感に、ルビーでさえも萎縮してしまい背筋が凍る。
紫霊はすぐ隣の柱にナイフを思い切り突き刺し、両手をゆっくりルビーの首元に伸ばし首を絞める。
ルビーの首からゆっくりと手を離し、壁に突き刺したナイフを手に取ってそのままルビーを優しく抱きしめる。
ルビーは恐怖のあまり、身体が震え息が詰まる。
返り血の付いた顔を愛おしそうに歪めて、紫霊はルビーの耳元で囁いた。
数日後
紅魔館
紫霊は自分の目に映る最愛の人が「…さぁな」と言って首を傾げる仕草を見て、ふふっと微笑む。
少しからかってやろうと、自分の目線より低い位置にある赤髪に手を伸ばしくしゃくしゃと撫で回す。
その赤髪が少し恥ずかしそうに顔を逸らす仕草にすら、愛おしそうに顔をにやけさせる。
紫霊の視界には、不思議そうに自分を見上げるルビーが映っている。
一人静かな部屋で、紫霊はそう呟いた。
一人きりの部屋 END.












編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。