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第1話

ぼくがぼくじゃないみたいだ
3,131
2023/10/25 09:39
H side



「お邪魔します」



大我が初めて俺の家に来た。



「どうぞ」



恋人として。



付き合ってまだ1ヶ月。
お互いが探り合い、もどかしくて、焦れったくて
一番どうしていいか分からない時期でもある。



大我との付き合いは長いけど
こうして「交際」ってゆー肩書きが付いたら
全く別物に変わった。



今まで味わった事のない緊張感。
初めてデカいステージに立つ時よりもビビってるかもしれない。




毎日、
毎日、
大我を想う気持ちと同じぐらい
大我に嫌われたくないと思う気持ちが心を占領する。




長い時間を共に過ごせる時間は幸せだけど
しくじれないって、ソワソワ落ち着かなくて




高嶺の花を手に入れた代償は大きい。
みんなの大我を自分のものに出来たとしても
去り行く恐怖心なんかも付いてきちゃってさ
でも、そんなの贅沢な悩みだよね。




それぐらい大我が好きで
こんなに愛せる人と人生初めて出会った事に



「北斗?」


「……っん?!」


「何か嬉しい事でもあった?」


「え……?ぁ、……」


「今、思いっきりニヤニヤしてたから」



口元も無意識に緩んでいるようだ。



大我の事考えてた。なんて、そんな素直な気持ちはまだ口に出す事を躊躇ってしまう。




当たり前だけど、男と付き合うのは初めて




何かの間違いだろうと、何度も首を振ったけど
そのうち、大我へのおかしな妄想に首を振る事が多くなり確信した。



もう、だいぶ前から分かっていたのかもしれない。



とにかく他の奴と仲良くしてる大我を見てると
たまらない気持ちになった。



何とも思ってなかった相手が憎くらしくなるし



「ほく……と……?なんかあった?」


「別に」



本人にまで冷たくしちゃったりで
罪悪感にどうにもこうにもいかなくなり
自分を責めたりもした。



大我をものにする事なんて無理。
全世界の人が思ってただろう。
1番自分が思ってたけど
その、夢を捨て切れずに居た。



大我が自分の恋人になる事を
一生妄想して生きていくんだろなと思ってた。



が、しかし
こうなれた。



生きてるうちにこんな幸せもらえて
どこまでの運を使い果たしたか分からない。



次生まれ変わってくる時は、きっと石ころなんじゃないかな。
でも、それでもいい。



今、大我は俺のもん。
絶対手放したりしないよ。
絶対に。











触れたい
キスしたい
繋がりたい



大我が視界に入ってる間も、そうじゃない時も
四六時中
頭の中でグルグルする欲望。



大我も俺の事……
そんな風に思ってくれてるのだろうか。



触られたい
キスされたい
迫られないと
思ってくれてるのだろうかって
大我が受け身で勝手に考えちゃってるんだけど



そんなの、まだ未知の世界。



もしかしたら、大我の方がグイグイ攻めてくるかもしれないし。



でも大我になら何でも許せる
何をされてもいいよ。



大我は脱いだ靴を綺麗に揃えてから
俺が揃えたスリッパに足を入れ込もうとしたんだけど
上手く入らず前に蹴飛ばしてしまい、耳まで真っ赤にしている。




「あ……ごめん……っ」



ははは、と笑う大我と俺。
明らかにぎこちない。


ちくしょう。
可愛い。


がっつり交わる視線も今日はお互いが泳いでいた。



また、やっちゃった……
大我の両手に買ってきた食材の荷物。



車から降りる時、大我は素早く荷物を取ったんだろう。それを今頃気付くなんて
恋人として失格だろ!!


いつもなら気付ける事が心臓の音に惑わされて気付けない。


「……持たせてごめん……」



耳を赤くする大我の手から荷物を受け取ろうとしたけど



「大丈夫だよ」



優しく微笑む可愛い恋人に



「ありがと……」



気付けば抱き締めキスをしていた。




続く

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