第4話

1日目
21
2023/10/01 10:00
 どうして佐伯先輩の姿が目に見えているのだろう。志葉先生がこんな嘘を吐くなんて思えないし、お葬式にも参列してきたばかりだ。
美冬
美冬
自分でも思ってるよ、なんでまだこの世ここにいるんだろうって
 先輩は、僕の心が見えているかのようにそう呟いた。やっぱりその声は少し前まで毎日聞いていた声で、目に映った笑顔も知っている。
美冬
美冬
でもまだあの世あっちに行ってないってことは、なんか心残りでもあるのかな。私には心当たりないけどね
 
 自分のことではないかのように、先輩は微笑みながら続けた。
何か言わなくてはと思い口を開きかけると、少し離れたところにいた亮輔がこっちに戻ってきた。
亮輔
亮輔
ただいまー……って、佐伯先輩!?
美冬
美冬
あれ、もしかして中田くんもわたしのこと見えるの?
亮輔
亮輔
まぁ見えてるっすけど……零次、これどういうことだよ?
零次
零次
俺もよくわかってないんだよ。なんか聞き馴染みある声が聞こえたから見てみたら先輩がいて……
 慌てふためく僕たちを横目に、先輩はなんだか楽しそうに笑っている。
美冬
美冬
そんなに慌てるほどのことでもないよ。漫画じゃよくあることだしね
 意味がわからない。だけど、先輩はそういう人だ。そういう人だから、死してなおこの世ここにいるのだろう。
そう考えたら、なんだか急にこの状況が当たり前に思えてきた。
零次
零次
まぁ、そういうことなんだろうな
 当たり前のように言ってのけると、亮輔は言葉通り目を丸くして黙ってしまった。



その後、僕たちは少しの間話してから解散した。その話題は他愛ないものだったけれど、なぜか心が和んだ。先輩ゆうれいの仕業だろうか。
零次
零次
じゃあ、僕もそろそろ帰りますね
 亮輔が帰ってから3分後、僕はそう言って先輩に手を振った。少し寂しい気もするけれど、帰りが遅くなっては家族に心配される。
美冬
美冬
うん。今日はありがとね。楽しかったよ
 その言葉を聞いて歩き出そうとすると、再び先輩が口を開いた。
美冬
美冬
もしよかったら、明日も来てほしいな
 なんだか恥ずかしい気持ちになりながら帰り道を歩く。少しして振り返ると、先輩の姿は見えるのに、そこからのびるはずの影は見えなかった。

やっぱり、佐伯先輩は死んでしまったんだ……。

プリ小説オーディオドラマ