どうして佐伯先輩の姿が目に見えているのだろう。志葉先生がこんな嘘を吐くなんて思えないし、お葬式にも参列してきたばかりだ。
先輩は、僕の心が見えているかのようにそう呟いた。やっぱりその声は少し前まで毎日聞いていた声で、目に映った笑顔も知っている。
自分のことではないかのように、先輩は微笑みながら続けた。
何か言わなくてはと思い口を開きかけると、少し離れたところにいた亮輔がこっちに戻ってきた。
慌てふためく僕たちを横目に、先輩はなんだか楽しそうに笑っている。
意味がわからない。だけど、先輩はそういう人だ。そういう人だから、死してなおこの世にいるのだろう。
そう考えたら、なんだか急にこの状況が当たり前に思えてきた。
当たり前のように言ってのけると、亮輔は言葉通り目を丸くして黙ってしまった。
その後、僕たちは少しの間話してから解散した。その話題は他愛ないものだったけれど、なぜか心が和んだ。先輩の仕業だろうか。
亮輔が帰ってから3分後、僕はそう言って先輩に手を振った。少し寂しい気もするけれど、帰りが遅くなっては家族に心配される。
その言葉を聞いて歩き出そうとすると、再び先輩が口を開いた。
なんだか恥ずかしい気持ちになりながら帰り道を歩く。少しして振り返ると、先輩の姿は見えるのに、そこからのびるはずの影は見えなかった。
やっぱり、佐伯先輩は死んでしまったんだ……。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。