第10話

一章 幻の台本-2
100
2024/04/30 12:00
🦈
うわぁっ、…!?
盛大に尻餅ついちゃったわ…
痛いぃ…、
衝撃で閉じてしまった目をゆっくり開ける
誰かに思いっきりぶつかっちゃった、…
こさめにぶつかった衝撃で古風はシルクハット帽を流れるような手つきでさっと拾って被り、尻餅をついたままのこさめへと手を差し伸べる
失礼しました、レディ
ん、…?(
急いでいたもので、前をよく見ていなかったようだ、すまない
さっきレディって…(
お怪我はありませんか?
レディ…、(
🦈
こさめ男なんやけど!(
…へ、?
あら、なんとも間抜けな声ですわ(
🦈
I am boy!understand?
なんで英語ですか?(
🦈
兎に角!大丈夫です!
そ、そうですか、よかったです
て、てか…
🦈
身長でか!
そ、そうですか、?
🦈
180㎝はあるでしょ!
ま、まぁ…ありますね、
あ、あと、気を付けてください、この辺り野次馬だからね……
🦈
野次馬……?
あぁ、この近くで家事があったみたいでな、…
今もほら、西の空に黒々と煙りが立ち込めているだろう?
🦈
ほんとですね…
あんな大きなデパートだからな、消火に手間取っているんだろうな
それに今日は何のイベントがあるのか、この大通りにも人が沢山集まっているらしくてな
デパートから逃げる者以外にも、騒ぎを聞きつけた野次馬も凄い数だったさ、嘆かわしいことだ…
被害がこれ以上拡大しないといいんだがな…
🦈
そぉだったんですね…
全然気付かなかったわ…
だから今日に限ってこんなにも通りに人が多かったんやな
よく一つのことに夢中になってしまうと他が全く見えなくなってまう
こさめの悪いところ
1回冷静になろう!
周囲では火事という単語が飛び交っとる
遠くでは消防の警報が絶え間なく鳴り続けてて…
見上げた西の空には炎こそ見えないけど、今も黒い煙が吐き出され続けてる
この火事に気付かない方が可笑しいとも言えるくらい、周囲は火事という一つの喧噪に呑まれていた
これ以上にないほど大事な日に寝坊するという大失態に引き続き、この騒ぎの中、周りで火事が起きている亊にも気付かず突っ走っていたとは……
また、何時もの自己嫌悪が襲ってくる
そういう訳だから、あの辺りにはなるべく近寄らない方がいい、危ないからな
🦈
はい、有難う御座います…
しかし世の中、一体何が起きるか分からない
在り来たりで平穏な毎日が、突然悪夢に取って代わられるなんてことも、よくあること
大事な日に、いきなり火事で足止めをくらうなんていうことも、な
🦈
あ…、その、すみません!こさめがぼーっと走っていたせいで…お急ぎでいらしたんですね!
いやヾ、そんな亊を言いたかった訳じゃないんだ、わるいな
私は今日、如何しても観たい舞台があってな、それで急いでたんよ
チケットも特等席を取ってるし、多少遅れたとしても、開演までにまだ時間はあるんだ
けど、早く入って、ホワイエでワインを一杯やりながらパンフレットを読み耽り、彼や是やと想像を一頻り巡らせてから、いざ本番を心ゆくまで楽しむ…
これが、俺の唯一の楽しみでな、この火事騒ぎによる多少の足止めが俺の人生の歩に大きく影響すると言うことはない
一番辛いのは、かのデパートのオーナーと客や従業員だろう、気の毒に…
何という在り来たりな悲劇だろう…



しぬべ(

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